第一話:それ、捨てスライムじゃね?
その日、俺はいつものように、放課後の公園で時間をつぶしていた。
理由は特にない。ただ家に帰るのがなんとなく面倒だったからだ。
公園のベンチに座り、スマホをいじっては、ため息をつく。
ああ、今日も俺の存在感はクラスで空気だった。
誰かと話した記憶がほとんどない。授業中に当てられたくらいか。
陰キャってのは、こうやって自然に日陰に帰っていく生き物なのだ。
――そのときだった。
「……ピチャ、ピチャ」
どこかから、水音がした。
顔を上げると、すぐそばの草むらで何かが動いていた。
近づいてみると、そこにいたのは……青くてぷるぷるした半透明の物体だった。
「……スライム、か?」
まさかな、と思った。
スライムなんて、ゲームの中の存在だろ。
現実で見かけるもんじゃない。……少なくとも、公園で。
ぷるぷる。
スライムは俺の存在に気づいたのか、こちらにゆっくり近づいてきた。
その体がわずかに震えて、まるで「お腹すいた」とでも言いたげに震える。
「え、お前……捨てられたのか?」
バカな。何を言ってるんだ俺は。
これは生物なのか? 本当に? 動いてるけど?
ふと足元を見ると、誰かが置いていったらしい、半分食べかけのコンビニ弁当があった。
スライムはそれにふよふよと近づくと、パクッと弁当箱ごと飲み込んだ。
しかも――食べ終わった瞬間に、容器まで綺麗に溶けてなくなっていた。
「ええええぇぇ……!」
まじかよ。何でも食うのかこいつ。ていうかプラ容器、完全に消化したぞ。
なんかヤバい。絶対普通の生き物じゃない。
でも――
こいつ、なんか可愛い。
「……連れて帰るか」
そう言って、俺はスライムをリュックにそっと入れた。
もにゅ、と変な音を立てながら、スライムは気持ちよさそうに揺れていた。
帰宅後。
「うわあああ! リモコン食ってる!!」
「って、うそだろ!? ノートパソコンも……お前、待て、吐け! 吐けぇええ!!」
――こうして、俺とスライムの地獄の同居生活が始まった。