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第3話 新たな日常

「シュデリィちゃん、朝だよ。起きてー」


 朝の光が薄い水色のカーテンの隙間から差し込み、部屋を淡いオレンジ色に染め始めていた。アイリスの優しく、どこか甘えたような声がシュデリィの耳に届く。昨夜遅くまで存在しない魔法の解呪方法について頭を悩ませていたシュデリィは、眠そうに重い瞼をゆっくりと開けた。


「……おはよう」


 まだ半分夢の世界を彷徨っているようなぼんやりとした声で、シュデリィは答えた。


 そろそろ起きないと学校に遅れてしまう。アイリスは、ベッドの中でまだもぞもぞしているシュデリィの肩を、まるで幼い子供を起こすように優しくゆすった。

 ぼんやりとした意識の中で、シュデリィは目の前にいるアイリスを見つめた。淡いピンク色の寝巻きを身につけ、柔らかな笑顔を浮かべていた。その無防備な表情は、昨夜の姿とはまた違った不思議な魅力を放っていた。そんなアイリスの姿を間近で見て、シュデリィの心臓が少しだけ跳ねた。


(……まさか、これから毎朝、こんな)


 起きた瞬間に魅了の魔法をかけてきた相手が目の前にいるというのは、本来であれば警戒すべき事態のはずである。しかしシュデリィの胸には、不思議なほど穏やかな、むしろ悪くない気持ちがじんわりと広がっていた。


(……でも早く、この厄介な魔法を解かないと)


 朝の光を浴びながらも、彼女の頭の中は依然として魔法のことでいっぱいだった。


 重い身体に鞭を打ち、シュデリィはしぶしぶベッドから起き上がる。まだ眠そうな目を擦りながら、身支度をする。トランクの中から畳まれた制服を取り出し、着替えはじめた。


「……ん」


 初めて袖を通す制服に戸惑いながら、シュデリィは慣れない手つきでスカートを穿こうとする。が、どうもうまくいかない。生地がどこかに引っかかってしまい、もたついてしまう。


「どうしたの、シュデリィちゃん。その制服、着るの慣れない?」


 アイリスが、シュデリィの困った様子にすぐに気づき、心配そうに声をかけた。


「……うん」


「えっとね、ここはこうして、先にひっかけてからー」


 シュデリィが、ぎこちない手つきで制服を着ようとしているのを見たアイリスは、にこにこと笑いながら制服の正しい着方を丁寧に教える。彼女の指先が、シュデリィのスカートの生地に優しく触れる。その一瞬の、ほんの僅かな接触に、シュデリィの心臓はまたしてもドキリと跳ね上がった。


(……流れでお願いしたけど、なんだか、アイリスさんとの距離がすごく近い……)


 アイリスに制服の着方を教えてもらいながら、シュデリィは内心どぎまぎしていた。


「できた! こんな感じだよ。もしまた分からなくなったら、いつでも手伝うから。遠慮しないで言ってね。少しずつ、一緒に慣れていこ」


 アイリスは、完璧に着こなせたシュデリィの制服姿を見て、満足そうに微笑んだ。


「……う、うん。わかった」


 そんな眩しい笑顔に目を奪われながらも、シュデリィはなんとか言葉を返した。なぜか、まともに相手の目を見ることができない。頬がほんのりと熱を帯びているのを感じた。


「シュデリィちゃん、もしかして」


「……な、なに?」


「もしかして、人と話すのにあんまり慣れてない?」


 アイリスは、シュデリィの少しぎこちない話し方を見て、不思議そうに尋ねた。


(……そうじゃなくて、あなたと話すときに……ものすごく緊張する……!)


 シュデリィはそう言いたかったのだが、人間とまともに会話した経験がほとんどないのも事実であった。


「……話すの、慣れてない」


「そ、そうだったんだ……。ごめんね。こんなにすぐ、馴れ馴れしくしちゃって」


「……ううん、たくさん助けてくれて、嬉しい。ありがとう」


 シュデリィは、照れたように、ほんの少しだけ微笑んだ。それはアイリスにとって、初めて見るシュデリィの心からの笑顔だった。アイリスはその笑顔に、一瞬、呼吸を忘れた。


「良かった……! シュデリィちゃんが喜んでくれるなら、いくらでも助けたい……!」


 アイリスは突然膝をつき、涙を流しながら熱心にお祈りするような大げさなポーズをとった。明らかにオーバーリアクションである。


「……それは、どうなの?」


 そんな様子のアイリスに、シュデリィは苦笑いを浮かべつつも、アイリスの優しさというものに触れることで、自分の持っていた人間に対する認識が少しずつ、良い方向へと変わり始めているのを感じていた。



 寮の部屋を後にし、校舎へと続く道を二人は並んで歩き出した。朝の光を浴びた学園は、昨夜シュデリィが一人で歩いた時とは全く違う印象だった。鳥のさえずりが聞こえ、花壇には色とりどりの花が咲き誇っている。生徒たちの明るい笑い声も聞こえてきて、学園全体が活気に満ち溢れていた。


 シュデリィは、今日が初めての登校となる転入生のため、校舎の入り口でアイリスとは一旦別れることになった。彼女は少し心細い気持ちを抱えながら、担任の先生に連れられ、緊張した面持ちで職員室へと向かった。


 そして迎えたホームルームの時間。担任の先生に促され、シュデリィはクラスの生徒たちの前に立った。教室は広々とした空間だった。高い天井には、魔法の力を宿した水晶が吊り下げられており、室内を柔らかな光で満たしている。


「今日から、このクラスに新しい仲間が加わります。それでは、自己紹介をお願いします」


 年度途中での転入生というのは、この学園において非常に珍しい出来事である。そのため、教室の中はざわめきと期待感に満ちていた。生徒たちは皆、興味津々といった表情で壇上に立つシュデリィの姿をじっと見つめている。


「……シュデリィ・シュヴァルロードです。得意な魔法は、身体強化の魔法。よろしくお願いします」


 これは人間界に来る前に、魔王である父から教わっていた内容の一つだった。人間界では自己紹介の際、自分の得意な魔法を言うのが一般的らしい。自分の得意な魔法を軽々と教えるなど、戦闘の際に不利になるのではないか、とシュデリィは考えた。だが、この程度を教えたところで自分が劣勢に立たされることは無いと結論付けた。

 担任の先生の指示で、クラスメイトたちも一人ずつ自己紹介をすることになった。その中にはアイリスの姿もあった。彼女は優しい笑顔で、シュデリィにそっと手を振ってくれた。


「アイリス・ブランセントです。得意な魔法は、治癒魔法です。よろしくお願いします」


 自己紹介が終わる。先生の計らいで、シュデリィはアイリスの隣の席に座ることになった。アイリスは嬉しそうに微笑みかけ、シュデリィもそれに応じた。


 最初の授業が始まった。内容は、歴史だった。


(シュデリィちゃん、なんだか眠そう……)


 隣の席のシュデリィが、大きなあくびを一つしたのをアイリスは見逃さなかった。昨夜、なかなか寝付けなかったのだろうか。アイリスが心配そうにシュデリィの横顔を見つめていると、そのまま机に突っ伏してしまった。


「シュデリィちゃん、起きてー」


 アイリスが先生に気づかれないよう小さな声で、シュデリィに伝えた。肩を軽く叩きながら、優しく起こそうとする。


「……ねむい」


 シュデリィは顔を上げたものの、まだ眠気が抜けきらない様子だった。目を擦りながら、再び机に顔を埋めようとする。


「で、でも、ちゃんと授業聞かないと、後で大変だよ?」


「……わかった」


 アイリスがそう諭すと、シュデリィは素直に身体を起こす。仕方なさそうに教科書を開いて、授業を聞き始めた。シュデリィは、見た目のクールさとは裏腹に結構素直で、言えばちゃんと聞いてくれるんだな、とアイリスは思っていた。


(そんなところも、なんだか可愛いなぁ……)


 シュデリィの意外な一面に、アイリスは心の中でそっと微笑んだ。そして、自分も授業に集中しようと教科書に目を向けた。


 内容は、人間界と魔界についての話だった。


 要約すると。

 かつて人間界は、魔界からの魔族の襲来に常に怯えていた。そんな中、一人の勇者と呼ばれる人物が人間界を救うため、魔界に赴き魔族との交渉を試みた。

 勇者は魔族に対して「魔族が人間界に侵攻してこないようにしてほしい」と願い出る。この願いは一部の魔族に受け入れられ、それ以降人間界に強大な力を持つ魔族が現れることは劇的に少なくなったという。

 また一方で、魔界の瘴気が人間界に漏れ出す問題が発生していた。この瘴気は動物や植物を凶暴化させ、時には新たな魔物を生み出す原因となる。こればかりは魔族と言えど止められず、勇者はその対策として魔族から瘴気を抑える技術を学び、その技術を人々に伝えた。

 これが現在人間界で用いられている、魔法の起源であるとされている。

 そして、魔物に対して強い効果を発揮する聖属性魔法を習得した者たちが集まり、『聖魔教会』を設立した。教会は魔族に対抗するための組織として、人々に希望をもたらした。

 現在も聖魔教会は人間界を守るために聖属性魔法の研究を続け、魔族の脅威に立ち向かい、その存在意義を確立している。


 という内容だった。


(……昔の魔王と人間が仲良くなったからって、私には関係ない。そのせいで私まで魔界の門を守らないといけないなんて、意味がわからない)


 シュデリィは授業の内容に、誰にも聞こえないような溜息をついた。彼女にとっては身近な話であるものの、遠い過去の他人事のようにしか感じられなかった。



 午後の授業は、広々とした屋外の訓練場での魔法の授業だった。

 すると先程まで眠そうにしていたシュデリィの目が、急に生き生きと輝き出した。彼女は魔法に関して、深い知識と情熱を持っている。本人にその自覚はないものの、彼女の魔法に対する傾倒ぶりは、並々ならぬものがあった。


 先生が、基礎的な魔法である小さな火の玉――ファイアボールの作り方を説明したところ、シュデリィは手のひらで小さなファイアボールを作り出し、くるくると指先でそれを操ってお手玉を始めた。その洗練された動きと完成度の高い魔法の行使に、周りの生徒たちは目を丸くして驚いていた。


 その後の休み時間になると、先程までは遠巻きに見ていた多くの生徒たちが、シュデリィの周りに集まってきた。


「シュデリィさん、前はどこに住んでいたのー?」


「ねぇねぇ、得意な魔法って、本当に身体強化だけ? さっきの炎の魔法、すごく上手じゃなかった?」


 様々な質問が、シュデリィに矢継ぎ早に投げかけられる。彼女は戸惑いながらも、苦手な人間との交流を今回の任務の一環だと理解し、一つ一つ丁寧に答えていった。


 そんな賑やかな輪の中で、アイリスは一人、少し離れた教室の隅の窓際で、クラスメイトと話すシュデリィの姿を複雑なまなざしで見守っていた。そんないつもと違う様子のアイリスに、シュデリィは疑問を感じていた。


 夜になり、寮の自室で二人きりになった頃、アイリスは不安そうな表情でシュデリィに話しかけた。


「シュデリィちゃん、なんだか、また嫌な予感がする」


「……それは、もしかして、魔族の気配?」


 シュデリィは、すぐにアイリスの言葉の意味を理解し、真剣な表情で問い返した。


「うん。また、この前みたいに、魔族の人が来ると思う」


「……それが事前にわかるのは、助かる。ちょっと、様子を見てくる」


 シュデリィは、すぐに立ち上がろうとした。


「私も一緒に行く!」


 アイリスは、そんなシュデリィの腕を掴んで引き止めた。


「……あなたは、足手まとい」


「それは、そうかもしれないけどっ……! でも、心配なの……!」


 アイリスは、不安げな瞳でシュデリィを見つめた。彼女はシュデリィの強さを信じているが、それでも一人で行かせるのは気が気でなかった。


「……大丈夫。私、強いから。絶対に負けない」


「でも、怪我とか、するかもしれないよ」


「……別に、気にしない」


「わ、私が気にする! もっと、自分のことを大切にしてっ!」


 アイリスは、声を震わせながら訴えた。


「……それは、わかった。でも、やっぱり、あなたを連れて行くことはできない。私も、あなたに怪我をしてほしくない」


「そ、その気持ちは嬉しいけど……。シュデリィちゃん、魔族のいる場所は、ちゃんとわかる?」


「……あなたが教えてくれれば、たぶん」


「学園の敷地内って、結構複雑だよ?」


「……自信はないけど」


「じゃあ、私が案内するから!」


 アイリスが、迷いのない表情でシュデリィの手を握った。


 またあの恐ろしい魔族のいる場所へ行くのは、正直怖い。もしかしたら、今度こそ本当に死んでしまうかもしれない。

 だが、目の前の、シュデリィを一人で行かせることの方がずっと嫌だった。それにもし、自分がいれば、万が一シュデリィが怪我をしてしまった時、治癒魔法で助けられるかもしれない。最悪の場合、背負って安全な場所まで逃げることだってできるかもしれない。

 少しでも、シュデリィが無事に済む確率が高い方がいい。


 アイリスは、そう心の中で固く覚悟を決め、真剣な眼差しでシュデリィを見つめた。


「……わかった。じゃあ、お願いする。あなたのことは、私が絶対に守る」


 一方でシュデリィも、アイリスの手をしっかり握り返し、力強く言い放った。

 その言葉には、アイリスを守り抜くという、揺るぎない決意が込められていた。


「…………うん。お願い、します」


 普段の可愛らしい雰囲気とは打って変わって、凛とした表情で言い放ったシュデリィを見て、アイリスは少しだけ照れたように頬を赤らめた。


「……どうしたの?」


 そんなアイリスの様子に気づき、シュデリィは不思議そうに尋ねた。


「何でもないっ。早く行こう」


 アイリスが慌てて顔を背け、早足で部屋を出て行った。シュデリィも、その後を追うように、静まり返った廊下へと足を踏み出した。

 二人はアイリスの案内に従って、学園の敷地の奥へと進んでいく。夜の学園は静まり返り、時折風が木々を揺らす音だけが聞こえてくる。


「この辺りだと思う」


 しばらく歩いた後、アイリスが学園の中庭の一角をそっと指し示した。そこは昼間は多くの生徒たちが談笑したり、休憩したりする憩いの場所。今は夜のためひと気がない。まるで忘れられたように、ひっそりと静まり返っている。


「……何もない」


 シュデリィは周囲を見回したが、魔物の気配は感じられなかった。ただ静かな夜の闇が広がっているだけだった。


「うん。門が開くのは、これからだよ」


「……あなた、もしかして未来がわかる?」


 シュデリィは、アイリスの言葉に驚きを隠せない。


「そういうわけじゃないけど……この辺りが、なんだか少しざわついてみえるの」


 シュデリィは、既にそこにいる魔族の気配は探知できる。しかし、これから開く魔界の門の位置までは感知することができない。アイリスの能力は、自分のそれを遥かに凌駕している。


「……すごい」


 シュデリィの中で、アイリスのイメージは優しい女の子から、とんでもなく優秀な魔法使いへと急速に変化していった。


 その時、アイリスが指差した場所を中心に、空間が歪み始めた。黒い渦のようなものが現れ、みるみるうちに大きくなっていく。魔界の門が開かれようとしていた。

 シュデリィは慌てることなく、即座に魔法を発動し門を閉じた。黒い渦は、まるで吸い込まれるように消え去り、元の穏やかな空間に戻った。


「……これなら、簡単」


「良かった。シュデリィちゃんが怪我しなくて済むね」


 アイリスは、心底ほっとした表情で微笑んだ。


「……ありがとう、アイリスさん。あなたって、本当にすごい」


 シュデリィは、心から感謝の気持ちをアイリスに伝えた。彼女の能力がなければ、多くの魔族が人間界に溢れ出て、大きな被害をもたらしていた可能性もあった。


「そ、そんな……! 私、自分のこの力が嫌いだったけど……少しでも、シュデリィちゃんの役に立てたなら、なによりだよ」


 アイリスは、どこか陰のある、複雑そうな顔をした。


「……嫌い? どうして?」


「……悪意というか、嫌な感情が、全部見えちゃうから。今日の朝、シュデリィちゃんに、人と話すの慣れてない? なんて聞いちゃったけど。私の方が、人と話すことに慣れてないかも」


「……でも、私には、そんな様子は」


「シュデリィちゃんからは、何も見えないの。そんな人、生まれてはじめて。だからこそ、違った怖さというか、シュデリィちゃんが、何を考えているのか全くわからないけど……。でも、私にとって、それってすごく安心できるの」


「……そうなんだ」


 シュデリィは、アイリスが自分に優しい理由を知って、どういうわけか微かな寂しさが心の中で広がった。

 そして、次にどのような言葉をかけていいのか全くわからず、一旦会話が途切れてしまう。

 事件を解決したにも関わらず、二人の間には気まずい空気が漂っていた。


「じゃあ、帰ろっか」


「……うん。アイリスさん、私の仕事に、わざわざ付き合わせてしまったから、何かお礼をしたい」


「いいの……? それなら今度、一緒に遊びに行きたい」


「……遊びに?」


 シュデリィは、その誘いに戸惑った。なぜなら魔界にいた頃、『遊ぶ』という概念はないも同然だったからだ。

 来る日も来る日も鍛錬に明け暮れてきた彼女にとって、何をすればアイリスの『遊ぶ』というお願いを満たせるのか、わからなかった。


「そう! 学園の近くに、美味しいお店がたくさんあるの。それに、街には楽しい場所もたくさんあって……!」


 しかし、先ほどの空気から一転、アイリスが明るい雰囲気で話しはじめた。そのことに、シュデリィは内心で安堵しつつ『その誘いを受け入れる努力をする』と決めた。


「……それが、あなたにとってお礼になるなら、行く」


「やったぁ! 本当に!? じゃあ、今度のお休みの日に、一緒に行こ!」


 アイリスは、嬉しさのあまりシュデリィの両手を握る。その笑顔は、まるで無邪気な子どものようだった。


「……うん」


 その眩しい笑顔を見つめて、シュデリィは胸の奥が温かくなるのを感じた。


(……やっぱり、アイリスさんには、笑顔が似合う)


 そう無意識に考えていたことに、彼女自身も気がつかない。



「シュデリィちゃんと、お買い物〜」


「……ご機嫌」


 夜の静寂が包む学園の道を、二人は並んで歩く。


「そりゃあ、楽しみだもん」


「……私も、遊ぶのはじめてだから、がんばる」


「はじめてなの……? ええとね、がんばることなんて、何もないよ」


「……でもどうやって、アイリスさんにお礼として『遊ぶ』を返せるのか、わかってないから。勉強する」


「勉強することもないよ!? 一緒の時間を過ごして、同じ気持ちを分かち合いたいだけというか……」


「……それが、お礼になるの?」


「決めた! 私が全力で、シュデリィちゃんを楽しませる!」


「……それだと、対価としての意味がない」


「なによりあるよっ! もう全部、私に任せて。絶対に楽しいって思わせてみせるから!」


「…………どうしてこんなことに」


 なんだか話が変な方向へ行ってしまい、シュデリィは困ってしまう。

 しかし、燃えるような情熱を宿したアイリスの姿は、シュデリィにとって、とてもきらきらと輝いてみえた。

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