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第9話 体育祭の前に

 教室に、一日を終える穏やかな空気が漂い始めていた。窓から差し込む光はもうすっかりオレンジ色で、床に伸びる影が長くなっている。


「来週は体育祭です。それぞれの競技のルールについて、よく読んでおいてください」


 教壇の前に立つ先生が、手に持った紙の束を魔法を使ってふわりと宙に浮かべ、生徒たちの席へと飛ばしていく。クラスメイトたちの間に、ざわめきが広がる。


「……体育祭?」


 プリントを受け取ったシュデリィは、その聞き慣れない言葉に瞳をぱちりと瞬かせ、首を傾げた。彼女にとって『体育祭』なるイベントは、全く未知のものだった。


「うん。みんなで体を動かして、クラス別に勝ち負けを競う、学園のお祭りみたいな感じかな」


 隣の席に座るアイリスが、こっそりとシュデリィ教える。


「うちのクラスにはシュデリィさんがいるから、勝ったも同然よね」


「だよねー」


 クラスメイトたちがシュデリィの方を見ながら、期待に満ちた声で話し始めた。その言葉が、シュデリィの耳にも届く。


「……なぜ、私?」


「ルール読んでみなよ。競技ごとに使える魔法の種類は制限されてるけど、身体強化の魔法は全競技で自由に使える。だから有利なんだ」


 クラスメイトの一人が説明する。シュデリィの圧倒的な身体強化魔法の能力は、普段の魔法実技の授業などでクラスメイトたちが知っているからだ。


「……そうなんだ」


 シュデリィはプリントに書かれたルールにざっと目を通し、クラスメイトの言うことが事実だと確認した。しかしその表情は、まるで明日の天気を聞かれたときのように、どうでもよさそうだった。


 そんなシュデリィのことなどつゆ知らず、クラスメイトたちは「今年の体育祭はもらった!」とばかりに盛り上がり、勝手にシュデリィを持ち上げていた。

 そんなクラスメイトたちの様子と、その輪の中心にいるシュデリィを、アイリスは少し複雑な表情で見守っていた。



 チャイムが鳴り響き、放課後の時間が始まった。シュデリィにとって、図書館で調べ物をするのが、学園生活における日課の一つになっていた。今日もアイリスの力のことや、魔界の門に関することについて調べようと、足は自然と図書館へと向かう。


 いつもならアイリスがついてくることが多い。しかし今日、彼女はついてこなかった。

 一人で図書館へ向かう廊下を歩きながら、シュデリィはほんの少しだけ、胸の中に寂しさを感じていることに気づく。


 図書館に到着し、目当ての本を見つけて本を読むシュデリィ。自分のノートに、調べた内容を書き留めようとした、その時。彼女は、はたと手を止めた。


(……筆記用具を、教室に忘れた)


 仕方なく席を立ち、来た道を戻り始める。教室へ続く廊下を歩いていると、前方に人の気配があることに気づく。何人かが固まって、何かを話しているようだった。

 その途中、曲がり角の物陰に人影が二つ、まるで獲物を追い詰めるように寄り添って立っているのが見えた。その影に隠れるようにしてもう一人、うつむいている人物がいる。その光景に、シュデリィの足が止まった。


「……アイリスさん?」


 シュデリィが声をかけると、物陰に立っていた二人の女子生徒がびくりと肩を震わせた。そして、その後ろに隠れていたアイリスがゆっくりと顔を上げる。

 その顔を見た瞬間、シュデリィの頭の中は真っ白になった。


 アイリスが、泣いていた。

 まるで先日の夜のように、痛々しく、悲しみに満ちた顔だった。

 次の瞬間、シュデリィの中で何かが弾けた。


「……あなたたち、アイリスさんに何をしたの」


 怒りを隠そうともしない氷のような冷たい声で、シュデリィはその二人の女子生徒にまっすぐ近づいていった。


「別に? 何もしてないけど?」


 女子生徒の一人が、シュデリィの剣幕に一瞬怯んだものの、すぐに強がった態度でしらばっくれた。もう一人の女子生徒も、居心地が悪そうに視線を床に逸らす。


「……嘘をついている」


 魔法でいとも簡単に見抜くシュデリィ。


「はぁ? 証拠でもあるの?」


「……証拠? そんなものが必要?」


 シュデリィは、心底理解できないという表情で相手を睨みつけた。魔法で見抜いた真実は、彼女にとって何よりも確かな情報だった。


「当たり前でしょ。だって私たち、本当に何もしてないんだもの。それなのにそんな怒った顔で詰め寄られても困る。同室だからかなんだか知らないけど、あんな泣き虫で、いつも人の顔色ばっかり伺ってるようなやつ、関わったって面倒なだけだよ?」


 女子生徒たちは、シュデリィにも食ってかかった。自分たちの非を認めず、さらにアイリスを貶める言葉を並べる。その言葉は、アイリスの心をさらに深く傷つけた。


「それと、覚えておくといいわ。私たちは貴族。あなたたちは平民。そもそも格が違うわけ。あなたたちには逆らう権利なんてないわよ」


 女子生徒の一人が鼻で笑うように、身分による差別意識を露わにした。


「……」


 シュデリィはこれ以上、その女子生徒たちに言葉を返すことはしなかった。返す価値もないと判断した。意識的に、その二人の存在を自身の認識から完全に排除する。彼女たちの言葉も存在も、シュデリィにとっては意味を持たなくなった。


「な、何? なにか文句でもあるの!?」


「……アイリスさん、行こ」


 シュデリィは、まだ肩を震わせているアイリスに優しい声で言った。アイリスの小さな手を優しく、しかししっかりと握る。


「…………うん」


 アイリスは、シュデリィの温かい手に導かれるまま、小さく頷いた。その手は彼女にとって、まるで暗闇の中で差し伸べられた救いの手のように感じられた。


 そのままシュデリィはアイリスの手を引いて、校舎から足早に出ていく。図書館に置いたままの荷物のことなど、頭から完全に抜け落ちていた。ただ一刻も早く、この場所からアイリスを連れ出したかった。


 無言のまま、しっかりと手を繋いだまま、二人は賑やかな街に辿り着いた。学園の中とは違う、活気あふれる人々の声や、美味しそうな匂いが漂ってくる。


「……えと、その、シュデリィちゃん?」


 シュデリィが何も言わずに手を引いて歩き続けるので、アイリスは少し戸惑いながら、遠慮がちに声をかけた。

 シュデリィは、アイリスの問いかけには答えない。

 そのまま、前に二人で行った雑貨屋さんへと入っていく。店の中には、色とりどりの雑貨や小物が並んでいる。

 フワフワの柔らかそうな可愛らしい動物の刺繍が入ったタオルを、シュデリィは迷うことなく手に取った。


「……これをください」


 店員に一言だけ告げ、流れるようにお会計を済ませる。購入したタオルを手に、再び外に出る。

 そのまま何も言わずに、そのタオルをアイリスに差し出した。


「へっ、え? ど、どういうこと?」


「……プレゼント」


「あ、ありがとう……?」


 アイリスは、疑問符を浮かべながらも、そのタオルを受け取った。シュデリィがなぜ急にタオルをくれたのか、全く理解できなかった。


 シュデリィの行動はそれだけでは終わらなかった。彼女はそのまま、また別の店に入る。

 そこは、こぢんまりとした魔法用品店だった。店内には様々な魔法の道具や材料が並べられ、独特の香りが漂っている。


「……すみません。魔法の付与に耐えられるような、アクセサリーはありませんか」


「おや、なんだい嬢ちゃん、自分で魔法の付与ができるのかい?」


 白髭を蓄えた店主が、興味深そうに尋ねた。魔法の付与は、ある程度の腕を持つ魔法使いでなければできない高度な技術だからだ。


「……できる」


「そりゃすごいねえ。腕を見込んで、うちでバイトとして働いて欲しいくらいだ。ちょっと待ちな」


 店主は店の奥から、いくつかのアクセサリーの類を持ってきた。どれも繊細な細工が施され、微かな魔力を帯びているのが分かる。

 シュデリィはその中から慎重に物色し、美しい星型の髪飾りを手に取った。淡い光を放つ石があしらわれている。


「……これください」


「嬢ちゃん、お目が高いねえ。これは本当に良い品だよ。高性能な魔法でも付与できるから、腕のある魔法使いさんには人気なんだ。お値段もその分はるが、それだけの価値はある品だよ」


 店主は、感心した様子で髪飾りについて説明した。

 シュデリィは、懐から慣れない手つきでお金を取り出した。


「……これで足りる?」


「ああ。物の価値がわかるねえ。まいどあり」


 こんな優秀な学生さんがいるなんて、この国の将来も安泰だなと店主は嬉しそうに頷き、お金を受け取った。


 店を出ると、シュデリィはすぐに購入した髪飾りに魔法を行使した。淡い光が髪飾りを包み込み、そこに新たな魔法が宿っていく。

 魔法の付与を終えると、シュデリィは無言でその髪飾りをアイリスに渡した。


「あの、シュデリィちゃん。これすごく高かったよね? 貰えないよ、こんな……」


「……プレゼント」


 シュデリィはただ一言、繰り返した。


「その、気持ちはすごく嬉しいんだよ……? でも、やっぱり、どうして……?」


 アイリスは、シュデリィのまっすぐな優しさに胸がいっぱいになりながらも、その理由が分からず戸惑っていた。そしてシュデリィの表情を見て、あることに気づいた。


「あと、シュデリィちゃん、なんだか……不機嫌?」


 シュデリィの眉間には微かなしわが寄っており、口元も少し引き結ばれていた。普段の無表情とは違う、どこか落ち着かない、緊張しているような雰囲気がある。


「……すごく、不機嫌」


 シュデリィは隠すことなく、素直に自分の感情を認めた。あの女子生徒たちにアイリスが傷つけられたことへの怒り、そしてアイリスへの心配。それらの感情が、まだシュデリィの心の中に渦巻いている。


「その、私のせいだよね……ごめんね」


「……そんなわけない。あと、アイリスさんが笑ってくれたら、吹き飛ぶ」


 シュデリィは、まっすぐな瞳でアイリスを見つめて言った。


「ええと……うん、努力する……」


「……そのためにも、これを受け取って」


 シュデリィは、再び髪飾りを差し出した。


「でも、これは……」


「……なら、魔法、なんでも教える。その対価に、受け取って」


「それ、私しか得してないよね……?」


「……お金を払うから、受け取って」


「それも私しか得してないよ……!?」


 シュデリィは自分の意見を通すのに、魔法を教えたり、お金を渡したり。時には相手を威圧したり、脅したりすることもあった。しかし目の前のアイリスを脅すなんて、考えるわけもなかった。


「……対価を、私が受けとる必要がある? アイリスさん、いつもありがとう。これ、対価」


「言葉だけ聞いたら、すごく変な感じするよ……!?」


「……難しい。一旦、次に行く」


 シュデリィは、どうにも上手くいかないと判断して、くるりと方向転換した。アイリスの手を引いて、次のお店へと向かう。


 シュデリィがアイリスを連れて行ったのは、こちらも前に一緒に行ったケーキ屋さんだった。

 店員に案内され、窓際の席につく。シュデリィは当然のように、アイリスの隣にぴったりと座った。その距離の近さに、アイリスは内心どきりとする。


「……一番いいやつ、ください」


 シュデリィはメニューも見ずに、まっすぐに店員に告げた。


「ええと、お客様、そう言いますと……」


 突然の曖昧な注文に、店員は少し戸惑った様子である。


「……私、このお店の注文、はじめて。お金はある。一番いいやつをください」


 シュデリィは難しい顔をしながら、店員にどうにか自分の意図を伝えようと、必死な様子で注文を押し通そうとする。


「か、かしこまりました。ええと、では、オススメのものを、いくつかお持ちしますね。少々お待ちください」


 店員は、シュデリィのただならぬ雰囲気に気圧されたのか、慌てて返事をしてキッチンの方へ引っ込んでいった。

「あの、シュデリィちゃん……」


「……?」


 シュデリィは首を小さく傾げ、じっとアイリスの顔を見つめた。


「私、頭の整理が追いつかないんだけど……。シュデリィちゃんが、精一杯、私に優しくしようとしてくれることだけはわかるよ。どうしてこんな、私なんかのために、いっぱいしてくれるのかは、わからないけど」


「……アイリスさんも、私、何もしていないのに、いつもたくさんのことをしてくれる。不思議」


 アイリスは、いつも自分の知らないことを教えてくれる。

 制服の着方、一つとってもそう。

 人間界に馴染むのだって、アイリスがいなければ難しかった。

 それに、知らなかった感情を教えてくれる。

 嬉しいこと、楽しいこと、おいしいこと、好きなこと。

 それはシュデリィにとって、当たり前ではない。不思議で、そして、とても心地のよいことだと感じていた。


「それはだって、シュデリィちゃんが、こんなにも優しい子だから」


「……ということは、私が、アイリスさんにたくさん優しくしても大丈夫、なはず」


 今日のシュデリィは、いつもの冷静さがなく感情が表に出ている。内心ではとにかく必死だった。アイリスがどうすれば、いつもの調子に戻ってくれるのか。そればかりを考えていた。


「ふふっ、今日のシュデリィちゃん、ぜんぜん余裕ないの、新鮮」


 アイリスからみると、それがなんだか新鮮で、とても可愛らしく映っていた。


「……! やっと、笑ってくれた」


 アイリスの笑顔を見た瞬間、シュデリィの表情がふわりと緩んだ。

 まるでシュデリィの心の不機嫌さを、本当に吹き飛ばしたかのようだった。ふにゃりとした、可愛らしい笑顔だった。


 その表情が、アイリスの心を鷲掴みにする。恥ずかしさで目をそらしそうになる。でも、こんな瞬間を見逃すわけにはいかない。

 アイリスはシュデリィの笑顔を見つめたまま、時間が止まってしまったかのような感覚に陥った。


 そうこうしているうちに、注文したケーキが運ばれてくる。色とりどりのフルーツが乗ったタルトやクリームたっぷりのショートケーキなど、どれも美味しそうなケーキだった。


「……アイリスさん、あーん」


 シュデリィがケーキをすくい、アイリスの口元へと運んだ。どうやら『ケーキ=人に食べさせるもの』という奇妙な方程式が、シュデリィの中で出来上がってしまっているようだった。


「あ、ありがとう……」


 突然の「あーん」に、アイリスは顔を赤くして戸惑った。だがシュデリィの真剣な眼差しに逆らうこともできず、差し出されたケーキをそっと口にした。


「……おいしい?」


「うん、すごく美味しいよ……!」


 アイリスは口の中に広がるケーキの甘さと、それを食べさせてくれるシュデリィのまっすぐで温かい気持ちに、愛おしさで胸がいっぱいになった。


 こんなにも優しくしてくれて。

 こんなにも大切にしてくれて。

 心が、ギュッと締め付けられるように温かくなる。

 アイリスの瞳から涙がこぼれ落ちる。


 それを見たシュデリィが、さっき雑貨屋さんで買ったタオルを手に取る。アイリスの頬に優しく触れ、流れる涙を拭った。その手つきはどこかぎこちなく、でもとても優しかった。


「このタオル、もしかして涙を拭くために買ってくれたの?」


「……そう。そして、さっきのアクセサリーは、アイリスさんの身に危険が迫ったら、自動的に防壁魔法と音声と視界遮断、心理防御魔法が少しの間、発動するようになっている。ケーキを食べたら笑顔。かんぺき」


 シュデリィは全てが計画通りだとばかりに、満足げに結論を述べた。これがシュデリィなりの解決策だった。

 シュデリィの行動の意図を知って、アイリスはすとんと納得した。


「それは確かに、かんぺき、だね」


「……アクセサリーの魔法の効果時間は、付与量の限界で少しの間しか持たなかった。でも、私に警告がくるようにしてある。その間に私が駆けつけられる。あとは全部、私が倒せばいい。ふふふ、任せて」


「クラスメイトを倒しちゃだめだよ……!?」


「……そうだった。さすがに倒さない。でも、そういうことだから。受け取って欲しい」


 シュデリィは、再び髪飾りを差し出した。


「じゃあ、せめて、お金を払う。シュデリィちゃんの魔法はすごいから、本来このアクセサリーの金額はとんでもないことになっている……とは思うけど……」


「……アイリスさんから、プレゼントが欲しい」


「え……?」


「……対価に、私に似合う、髪飾りを買って」


「でも、そんなんじゃ、釣り合わないよ……」


「……そんなことない。何より価値がある。大事にするから。買って欲しい」


 シュデリィは、まっすぐにアイリスを見つめ、感情を込めて言った。


「わ、わかった。じゃあ、シュデリィちゃんに似合う髪飾り、選ぶね」


 その強い思いにアイリスは抗えず、ぐいぐいと引き込まれていく。

 シュデリィの、あの手この手を使った一途な説得に、アイリスはついに嬉しさと戸惑いを抱えながら根負けした。


「……うん。それと、交換」


 シュデリィは満足そうに頷いた。


 そしてそのあと、アイリスはシュデリィに可愛い髪飾りを買ってプレゼントした。

 シュデリィはそれを受け取ると、とても嬉しそうに、大事そうに見つめる。そしてアイリスに髪飾りをつけてもらう。


 賑やかな街の通りを、二人並んで歩く帰り道。


 アイリスは、シュデリィの隣を歩きながらずっと考えていた。


 どうして、シュデリィちゃんは。

 こんなにも、私に優しくしてくれるんだろう。

 こんなにも、私のことを大切に思ってくれるんだろう。

 こんなにも、私の心が温かくなる言葉をかけてくれるんだろう。


 先ほどから、アイリスの心臓は、どきどき、どきどき、とまるで早鐘のように鳴り響いていた。シュデリィの言葉や行動の一つ一つが、アイリスの心の奥深くににまっすぐ響いて感情を揺さぶる。


 シュデリィと一緒に過ごす時間が増えるにつれて、アイリスはどんどんシュデリィのことを好きになっていた。一番最初は友達としての好意だったはずが、いつの間にか、それ以上のもっと甘くて、切なくて、大切な感情に変わっていた。


 もうこれ以上、好きになるなんて思っていなかったのに。

 今日の出来事で、その気持ちはさらに大きく、止められないものになってしまった。



 別のことを考えようと、アイリスは必死に頭の中を検索して、伝えようと思っていたことを思い出した。


「シュデリィちゃん、お願いがあるんだけど、聞いてもらってもいい?」


「……?」


「私ね、体育祭、出ないつもりなの。あの中に混ざって、何かするなんて……したくなくて……だから、当日、私が体調不良ってこと、伝えて欲しい」


「……じゃあ、私も、体調不良になる」


「え、でも……シュデリィちゃんは皆から期待されてるから」


 アイリスは驚いて、シュデリィを見た。シュデリィは、クラスの勝利の鍵だと見なされている。彼女が出なければ、クラスの皆はがっかりするだろう。


「……関係ない。この前、アイリスさんが一人の時、泣いてた」


「で、でも、それはもう、シュデリィちゃんに教えてもらった魔法のおかげで怖くないから。そこまで甘えられないよ」


 アイリスはシュデリィの優しさに胸がいっぱいになりながらも、これ以上負担をかけたくないと思った。自分のために期待を裏切らせるなんて、できない。


「……私が、アイリスさんと一緒にいたい。だから、それは関係ない」


 でも、そう言われてしまうと、甘えてしまいそうになる。だって、本当は一緒にいて欲しいから。自分のことをずるいと思いながら、アイリスはシュデリィに問いかける。


「その、本当に、いいの……? 私なんかのために……」


「……うん。だから、一緒に体調不良になろう」


 シュデリィは優しく、そして嬉しそうに微笑んだ。


 大好きな人からの、あまりにも魅力的で、優しい提案。

 胸がいっぱいになったアイリスは、小さく頷くことしかできなかった。

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