四日間の逢瀬
青年が一人玄関の前で立っている。
遠くに鳴くセミの声を聞きながらちろちろと苧殻を舐める火を眺めているその青年の肩を、誰かの手がポンと軽い調子で叩いた。
振り返った青年は相手の顔を見ると嬉しそうな笑みを浮かべると、言葉を口にする。
「思ったより早かったね」
青年の彼女である女性はその言葉と視線を真っすぐに受け止めながら、はやく会いたかったから、と照れるでもなく、しかし青年と同じように嬉しそうに笑いながらそう答えた。
火が燃え尽きるのを待ってから青年は女性を部屋の中へと招き入れる。そして二人は会えなかった分の時間を取り戻すように会話を弾ませた。
「明日は映画にでも行こうか」
次の日の夜、夕食の後に青年はそう言った。テレビを見ているときに女性が封切したばかりの映画の宣伝を興味深そうに見ていたことに気が付いていたのだ。
でも悪いよ、と遠慮する女性に「席を占領しようってわけじゃないんだから」と言い、さらに言葉を尽くすと、女性も最終的には折れて映画に行くことを了承した。
翌日、約束通りに映画を観たあと、二人は近くにある大きな公園を散歩したり、買い物をしたりとデートを楽しむ。
「ずっと君と一緒にいたい」
帰り道の車の中で青年はぽつりと呟く。女性は困ったように笑みを浮かべると、私はいまこうしていられるだけでも幸せだよ、と言った。青年もそれがとてつもない幸運であることは分かっているのでそれ以上はなにも言えなくなってしまう。
そんな青年の頭を、小さな子供にそうするように撫でながら女性はいつかは一緒になれるよ、と言った。
そして、それに来年もあるんだし、と言葉を続けた。
青年は滲んだ涙を拭って頷くと、車を走らせた。
四日目の朝。
青年と女性は二人で玄関の前に立っていた。遠くでセミが鳴くのが聞こえている。
青年はこの瞬間を少しでも引き延ばそうとするように、ゆっくりと丁寧に焙烙皿の上に苧殻を並べる。そしてマッチ箱を手に取ると中からマッチを一本取り出した。
「また来年」
泣きそうな声で青年は言う。女性はその言葉に対して、忘れても良いんだよと言った。
青年はそんなことはできないと首を左右に振った。女性は悲しげな、しかしどこか嬉しそうな様子で微笑むと、また来年、と言った。
青年は苧殻に火をつける。
苧殻はすぐに大量の煙を吐き出し始めた。その煙が晴れ渡った青空に消えていくのを、青年は静かに眺めていた。魂が天に昇って行くような景色であった。
やがて苧殻は燃え尽き、いつの間にか女性の姿は消えていた。
一人残されてしまった青年を置いて、今年もまたお盆が過ぎ去った。
彼女に会えるのは、また来年である。
ここまでお読みいただきありがとうございます。お盆に書けよって内容ですね
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