第七話 ゴブリン
俺の回復魔術は普通は出来ない非生物を直すことが出来るとが判明した。
前世の一時期この屋敷を拠点にしていたことを懐かしみつつ、前から気になっていた腐敗した床や屋根を直しながら改めて探索していると判った事があった。
元々はこちらが本邸として使われて居たのだろう。この屋敷には隠し通路が存在し、それは少し離れた林に繋がっていた。
コッロス公爵領と言うだけあってこの領地には、実に色々なモノが集まる。
まさに俺のような商売をするにはもってこいと言える。
以前であれば中年メイドの定期的な監視で、領主邸外への外出は難しかった。
なぜなら毎朝夕と直接中年メイドから受け取らねば食事にありつけなかったからだ。
だが今は違う。正妻の信頼厚い中年メイドと異なり、奉公に来ている年若いメイド達は、俺に対して積極的に関わることはない。
まあ最初の頃は嫌がらせをされたのだが、話し合い(肉体言語)で解決した結果、朝夕共にまるで置き配のように家の前に置かれているだけ!となった。 なんて気楽な関係だろう。
なので安心して領都に出られる。
土魔術と回復魔術を使ってトンネルを修理しながら外に出た。
トンネルのある小屋の周囲は人気のない林。
なぜこんな屋敷に近い場所に林があるのかと言うと、貴族の嗜みである『狩り』に使うからだ。
貴族の『ハンティング』は平時には軍事行動の訓練にもなるのだが、この林は練習用件ジビエを確保するために敢えて開発されなかった。と言うのが表向きの理由なのだろう。
「おじいさまも理由を説明すればよかったのに……まあ、二人が抜けているおかげで俺は外に出られるんだけど……」
少し歩くと魔物が居た。それはファンタジーで定番のゴブリンだった。
緑色の肌で背丈は子供程度、大きな鷲鼻に長く尖った耳に犬のように突き出した口元からは、鋭い牙がちらりと覗いていた。
「なんで公爵家の管理する林にゴブリンが居るんだよ! あんなのただの害獣だぞ? コッロス公爵家仕事しろよ!」
俺は憤りを覚えた。
前世の勇者時代ゴブリンやオークと言った魔物は人を犯し種を維持するため、仕事として救出に向かっても無事でいる婦女子は多くなかった。
「殺してくれ」と頼まれ殺したこと、は両手の指では収まらない程に……。
「あー、嫌なこと思い出した。昔ゴブリンに背中からブスっと刺されたことあるんだよなあ~」
救出作戦の時。苗床にされ廃人同然で山積みにされた女の影から、一匹のゴブリンが飛び出してきて腹を刺された事がった。
トラウマ程ではないが確かな苦手意識が未だにある。
気が付くと無意識に刺された腹を擦っていた。
「まあ今のままでも負けないけど……」
身体強化魔術で強化した投擲一発でゴブリンを撃ち砕いた。
「――ギャアっ!」
短い断末魔を上げたゴブリンは、上半分が爆散し仰向けに倒れる。
辺りには鼻を衝く鉄の匂いが広がる。
「まあ余裕だな……」
前世の勇者時代から使っている無属性魔術【魔力感知】を使って、周囲の魔力反応を探る。
周囲に魔力を薄く広げその範囲内のものを知覚する。俺を含めたオタク連中はとある漫画に似ていたため、『円』と呼んでいた。
「討伐証明の部位は……爆散してるから削げないか、まあ魔石だけでも拾えただけ御の字かな」
小石ほどの魔石を拾い上げる。
「【アイテムボックス】」
前世の勇者時代に習得した時空間系の魔術で、勇者以外の使用者は居ない伝説の魔術だ。
魔法陣を介して魔石を異空間にしまう。
「やっぱり使えた。時間経過が停止しているから便利なんだよなあ」
俺は一目を避けながら城下へと向かった。