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第三話 勇者は離れに追放される


 カラン、カランと音をたて木剣が石畳の上に転がる。


「真面に剣も振れないとは! 本当に俺の子か?」



 傍らに夫人たちやその子供、さらには侍女までも侍らせた、金髪碧眼で高長身のイケメンの父は心底期待外れとでも言いたげにそう呟いた。

正妻とその子らからの虐めを止めようともしなかったくせに。


 夫人たちはドレスで着飾り、庭園での優雅な散策かのように侍女に日傘を傾けさせている。

 子供達は皆健康的な肌色をしており、異様なほどに白い俺とは対照的だ。


それは家族による公開処刑。

満たされぬ食事と屋敷から出して貰えぬ不健康な生活をしていた俺が、年上の兄弟とまともに試合を出来る道理はなかった。




 ぜえぜえと肩で息をし、硬い石畳に手を付いてた姿を見下しているのは、半分だけ血の繋がった兄だった。

父に似て無駄に整った顔立ちですら、その性悪そうな笑みで台無しになっている。


 先程まで俺を殴りつけていた木剣には結構な量の血が滲んでいるが、そんなことは「大したことではない」とでも言いたげに肩をトントンと叩いている。


「お前弱すぎだろ? 平民の血が混じると高貴な血も霞んで弱くなるのか? 魔力も無ければ武芸の才もない。お前は本当に無能だな!」


 魔術で身体能力を強化しようとも、基礎体力の低さはどうしようもない。

 むしろ体力をより多く削られる。短期決戦でカタをつけるつもりだったが、流石は騎士団長の息子、基礎が出来ている分強い。

 遠目から俺達の様子を見ている騎士にしても、


「ナオスはダメだな」

「ああ、あの女の血が不味かったのだろう」


 ――と今世の母を馬鹿にするばかり。


「父上、こんな無能に期待するだけ無駄です。折角ですから俺に剣を教えて下さい」


「……そうだなこの無能にほんの一欠けらでも期待したのが間違いだった。ナオス・コッロス!! 貴様は今日から使われていない離れに移り、名を改めただのナオス・スヴェーテと名乗れ。我がコッロス公爵家の家名を今後名乗ることは許さん! 連れていけ」


「「はっ!」」


 父は使用人に何かを伝えると、やって来た使用人に連れられ俺は離に連れてこられた。


「公爵様もお優しい。無能なお前を育てて下さるんだからな」


「魔力ゼロで剣才もない……本当に公爵様の種なのかも疑わしい」


「幾ら顔が良くてもしょせんは平民腹の子、もしかしてお前本当に公爵様の子供じゃないかもな!」


 ギロリと騎士を睨み付ける。


「「「……」」」

 

 騎士達は顔を見合わせると、ニタリと気持ちの悪い笑みを浮かべこう言った。


「身の程を弁えろクソ餓鬼!」


 両方から支えられていた手を離されると疲労からか足がもつれる。


「おっと……」


 すると背後から蹴りを入れられ転がってしまう。


「今日からここがお前の家だ」


 全身が痛む身体に鞭を打って顔を起こす。

 そこに建っていたのは、蔓草に覆われた石造りのゾンビでも出そうな立派な洋館だった。


「ボロくて声も出ないか? この屋敷はな先代様の意向で残してあるだけの廃墟だ。何でも勇者様御一行がこの領地を救ってくださった時にお泊りになられたらしい」


「公爵様もお父上のお言葉だから、誰にも使わせず残していたそうだが取り壊す理由が出来たとお慶びになるだろう」


「成人を迎えるまで大人しくしていれば、食いっぱぐれることだけはない。精々剣や魔術に励むんだな……まあ誰もお前に教えることはないだろうけど」


 と言うと三人でゲラゲラと馬鹿笑いをする。

 品性の無さは騎士と言うよりも、世紀末のヒャッハー共のようだ。

 そんな彼らは俺一人だけを残してこの場を後にした。


「とりあえず中に入るか……」


 ギィと軋む軸に全体重をかけてドアを押し開けた。

 屋敷の中は埃っぽく、とてもじゃないが人間が住める状態ではない。

 騎士の言葉は比喩でもなんでもなく、本当に維持管理をしていないようだ。


「はあ……」


 深い溜息を付くと近くの部屋から掃除を始めることにした。


「水ってどこにあるんだ?」


 通常は井戸や小川、魔道具など様々な方法で水を確保する。

 古いとは言え昔は屋敷として使われていたから、多分どれかはあるハズだ。

 屋敷の周囲を歩くと古井戸を見つけた。しっかりと蓋がされていたのでゴミは入っていないようだ。


 先ずは身体に付いた汗や血、泥を洗い流しタオルで拭うと、今晩の寝床の清掃を始めた。

 日が暮れる頃には何とか部屋の掃除は終わり、腹を空かせて夕食を待っていると屋敷のドアがノックされる。

 ドアを開けるとそこに居たのはメイドだった。


「夕飯でございます」


 彼女の持ったトレイの上には、屑野菜のスープとパンが乗っているだけだった。


「これだけ?」


 不意にそんな言葉が口を付いた。

 「コッロス家小さいなぁ」と言う言葉だけは気合で飲み込んだ。


「そのように仰せつかっております」


「あ、そう……」


「朝、夕お食事をお持ちしますのでお忘れなく……」


 そう言うとメイドは一礼をして本邸の方へ戻っていった。



俺は前世で身に着けた技術の再習得に生をだした。

 翌日から前世で得た知識と経験を活かし、どうやったらもっと上手くなれるのか? 強くなれるのか? と常に考え思いついたものを全て試し、少しずつ身に付けて行った。

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