第二十四話 To LOVEるは突然に
そう言えば勇者だった頃、良くメシの当番をしていた。
思えばクラスメイトは料理が出来ない娘が多かったと記憶している。 まぁ俺も趣味の域を出ない男飯レベルなのだが。
奴隷達の中に胃腸が弱っている者は居ないだろう。
三食ではないにしても固いパンとスープぐらいは出ているハズだ。
なんなら俺のメシ(公爵家で出される)より良いかも知れない。
街で買った黒パンに食用の獣油を塗って温め、豆と屑肉や骨、根菜をじっくりことこと煮込んだスープは、薄味の塩スープと比べれば雲泥の差がある。
最後に葉物野菜を入れ柔らかくなるまで火を通し、スープ皿に盛り付ける。
食事の用意を終えた俺は奴隷達を呼びに脱衣所に向かった。
脱衣所のドアをノックすると「はーい」と間延びした返事が聞こえた。
「俺だ」
「ナオスさまいかがされましたか?」
「昼食を用意した。全員分あるので食べるといい」
大人数な為少し冷めてはいるものの、誰かの為に温かく美味い食事を準備するのは楽しいことだ。
色々できるようになったのはこの離れに追放されたからだ。
ある意味、感謝してもいいかもしれない。
無論、兄弟姉妹や夫人達による嫌がらせは考えられるが、回復魔術によって物品さえも回復させられる俺には金など直ぐに手に入る。
《《このベネチアンの街が封鎖でもされない限りは……》》
「やったー!」
奴隷の一人が不用意にドアを開ける。
その瞬間目に入ったのは肌色多めの天国だった。
半裸の美女達の中には胸や尻が零れている人もいる。
爆乳ちゃんは、バスタオルを体に押し当てているだけでその豊満なモノを覆い隠すには不十分だった。
布面積は色んな意味でギリギリで、ふわりと宙を漂う裾の部分から覗く太腿から水滴がツぅーっと脚線を滑り落ちている。
グレテル先生は既に下着を身に纏っているものの、レースがあしらわれた黒いそれらは、上記した肌とのコントラストを強調し、艶めかしい色気を放っている。
エルフちゃんは華奢で凹凸が少ない。
白磁を思わせる肌、可愛らしい胸元にすらりと細い美脚
スレンダーなビスクドール(未成熟な果実Ver)って感じだ。
「――ひっ!」
女性達からは引き攣ったような悲鳴が喉から洩れた。
続いて聞こえたのは女達の肺が膨らみ空気を吸い込む呼吸音だった。
「きゃぁぁぁああああああああああああああ!!」
身体を背けしゃがみ込む者も要れば、目を瞑り恥ずかしそうにしている者とさまざまだ。
そんな中、グレテル先生だけは正確に桶を投擲していた。
避けることも出来るがそれはマナー違反な気がして俺は、素直に投擲された桶を顔に喰らった。
………
……
…
今回の件、少なくとも俺に落ち度はないハズだ。
しかし俺はグレテル先生から説教を喰らっていた。
紳士たるものとか、そう言うアレだ。
つまり「俺は悪くないのは理解しているけど、私の気分を害した責任を取れ」と言う女性に多いヒステリーだ。
奴隷の皆が食事をしている間ずっと怒られ続けた。
グレテルの説教を止めてくれてのは巨乳ちゃんだった。
「グレテルさまそのぐらいにしてあげてください。ナオスさまは自ら覗いた訳ではありません」
「――だけどっ!!」
「未婚のそれも貴族令嬢の肌を見たとあれば許せないのは知っていますし、同じ女性として理解も出来ます今回は水に流せませんか?」
「でも……」
「グレテルさまには粗末かもしれませんが、ナオスさまが作って下さったお食事は大変美味しいですよ?」
「ナオスさまも昼食はまだですよね? ご一緒に召しあがっては如何でしょうか?」
巨乳ちゃんの提案に乗って俺とグレテル先生は食事をした。
「悔しいけど美味しかったわ……」
「それは良かったです。しかしグレテル先生にとっては粗末なモノだったのでは?」
「ドンペリ家は武官の家系よ。月に何度か戦場で食べる程度の粗食で過ごすのよ」
ドンペリ家の起源はこの地域一帯の船乗り、海賊だと訊いている。
そのため洋上剣術に優れコッロス家の家臣になり、剣術指南役になったとか。
「それに私は冒険者だったからより一層粗食には慣れてるのよ」
そう言うと本邸から持って来たワインを昼間から開ける。
イタリアやドイツでは社会人でも昼間から飲酒すると言うし、この世界と言うかここベネチアンでは普通なのだろう。
「改めて自己紹介を――」
「その前に体を治すよ」
「へ?」
先ほど一瞬で治した回復魔術とことなり、今回は時間をかけて治すことにした。
と言っても一か月程度と極めて速い。
術者の技量と被験者の体力や魔力、栄養状態によっても回復速度は変化する。
乳製品や大豆、大根、アブラナ科の野菜は、骨を形成するのに必要なカルシウムを多く摂取できる。
牛乳や大豆、小魚などの海産物は、肉を生成するのに必要なタンパク質も摂取出来て一石二鳥だ。
本来は神経が再生する時間もかかることを考えれば、驚異的な回復速度と言える。
「治るのに時間はかかるが筋肉を付け直す必要もないだろう」
「「「「「「ありがとうございます」」」」」」
奴隷がそう言うと巨乳ちゃんがこう言った。
「それでは自己紹介をさせてください私はイオと申します」
見事なカーテシーをするのだがぷるんと胸が揺れる。
続いて挨拶をしたのはエルフだった。
「わたしはアイナリーゼ・アイエナン。アイエナン氏族のエルフ特技は魔術ですよろしく」
「アタシは――」
――と残り六人が挨拶をした。
桃髪碧眼のウテナ。
黒髪黒目のエリュシア。
別大陸人で黒髪で浅黒い肌のオリガ。
短い金髪に緑眼のカイ。
オリガと同じく別大陸人で赤髪で浅黒い肌のキルケー。
黒髪赤目のクレア。
――と個性豊かな面々だ。
今日は元々仕事をさせるつもりはなかったので自分の部屋を決めさせた。




