第二十二話 欠損奴隷達2
奴隷には奴隷紋と呼ばれる魔術を施す。
例えば主人に逆らったら死ぬと言った非人道的なモノから、命令に逆らえば首輪が閉まると言った罰のようなものまでさまざまだ。
奴隷紋とは高度に圧縮・抽象化された魔術回路であり、その仕組みは魔道具と同じである。
そのため魔術回路である奴隷紋をどこかに描く必要がある。
「基本的な紋様は既に刻んでありますので、施術は直ぐに終わりますよ、そちらのインクに血を垂らしてください」
俺は作業用のナイフを自分の指に軽く突き立てる。
血が滲むのを待ち、小皿にあるインクに数滴落とすとインクの色は黒から赤に変色した。
奴隷商はインクを筆で吸い取り、洋服をはだけさせる。
少女達の奴隷紋は胸元や腹、二の腕、太腿と様々で、訊けば奴隷紋の位置はどこでもいいらしい。
ただし、奴隷紋は刻まれた部位を切り離せば無効化されるため、胸元や腹が望ましいそうだ。
素早く筆を走らせ模様を書き足すと数度魔力干渉光が明滅する。
魔術的な回路を形成しているのだ。
書き足された者から、苦しみだし地面に臥せるように丸くなる。
「あっ! ぬぅわぁぁあああああああんっ!!」
「おい!」
「御心配なく、主人と奴隷との間に魔術的な回路を書き換え構築しているだけです」
強引に回路を書き換え構築すればそうもなるか……
「なら問題ない」
全員分の施術が終わると奴隷商は、決められたことを伝えるだけの淡々とした口調でこう言った。
しかもそれは、感情や説明しようと言う意思も感情も感じさせない定型文だ。
「お客様は彼女らの所有者となりました。所有者には奴隷に衣食住を与え税を支払う義務が御座います。義務を怠った場合、契約は無効となり行政に奴隷の所有権が変更されます」
ヤることヤったあとに賢者になった男かよ!! 商品が売れたらやったー! でアフターサービスはなしですか!? そうですか……
一瞬イラっとしたもののこの世界の商売と言うモノは、西洋風だとクラスメイトが言っていたことを思い出した。
「お客様はお若いですが、もしものことが御座います。奴隷に関する遺言作成の際には是非私どもをご利用ください」
一瞬、兄達のことが脳裏を過ったが性教育の一環で後が面倒にならないメイドぐらいはいるハズだ。と自分に言い聞かせ今は考えないことにした。
美少女とエルフには屋敷外の仕事は任せるつもりはないからな。
「グレテルを呼んで来てくれ……」
部屋を退出させていたグレテルを呼び戻し、奴隷を購入したことを伝えた。
「買ったんですか? 100万ゴールドの奴隷を」
信じられないとでも言いたげな表情を浮かべるグレテルに俺はこう言った。
「グレテルは知らないだろうが、冷遇されていた時代に屋敷を抜け出しては街にでていた。そこでここの主人と知り合って仕事をしていたその一つが、回復魔術を用い奴隷の価値高めることだ」
「……」
でっちあげの嘘っぱちだが、一気にこの場で奴隷を治したと言うよりは説得力があるだろう。
「報告はしないでくれると助かる」
「……回復魔術の腕が良いとだけは伝えさせていただきます」
「助かるそれと、こいつらの服を見繕ってくれないか?」
「わかりました……」
下着や肌着、洋服と言った服を8人×4着購入した。
子供服で街の物価を知っているつもりだったが、中古でもかなりの値段がする。
大量生産、大量消費の文化的な世界とくらべるとかなり高いと感じてしまう。
勇者達よ。ミシンを作るとか洋服を大量生産するとかそう言う生活物価を下げる政策をしてほしかった。
怨念を込めても仕方がない。
護衛のグレテル先生は俺の前を歩き、奴隷達は自分の荷物を持っている。
アイテムボックスのことを家に知られたくないからだ。
女性が荷物を持っていると言うのは、どうにも居心地が悪い。前世の父母に躾けられた結果だろう。
まあ彼女達は “奴隷” なのでこの世界の社会通念上、何の問題もないのだが。
彼女達は彼女達で奴隷の首輪自慢をするのかと思えば、まだ腕を治したばかりの少女達を気遣って巨乳の少女が複数運んでいる。
彼女は下女とするつもりはないのだが、同じ奴隷に嫉妬されるよりはマシか。
【レディーファースト】と言えばさも西洋紳士的な理想の行動と誤解させるが、女性は立場が低かった中世では毒殺や暗殺を防ぐための防御策として、女性を先に歩かせたり食事を先に食べさせたりと盾や毒見役をさせたのが始まりと言われている。
力のある男が荷物を持つと言う風習は、町中で暴力行為が起きない前提の近代社会だから出て来る考え方ではないだろうか?
勇者時代からそう変わっていない今世でも、町中での刃傷沙汰は想定の範囲内だ。
従者や奴隷が荷物を持ち、警護役のグレテルが剣を持つこれが立場ある人間の常識なのだ。
しかしグレテル先生にとって100万ゴールドの奴隷よりも俺の方が優先度は高い。俺が貴族で庶子とは言え当主の息子だからだ。




