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第十六話 家庭教師は不良少女

 私の名前はグレテル・ドンペリ。

 名門貴族コッロス家で剣術指南役を務めるドンペリ家の長女で、家を飛び出し第二級冒険者をしていた。

 しかし、冤罪をかけられパーティーを追放され途方に暮れていたところ、比較的仲の良かった弟に手紙で実家の仕事を手伝って欲しいと頼まれた。


 仕事も無かったので弟の誘いにのって約束のバーに向かった。

 いそいそとバーのカウンター席に腰を降ろすと、本題を切り出した。


「で、話って何? おねえちゃん忙しいんだけど」


 家族、それも弟には心配をかけたくなくてさも順調なように、仕事が順調であるように振る舞う。


「手紙でも伝えたんだけど、家の仕事を手伝って欲しいんだ」


「家の仕事って……兄弟で回せてるじゃない」


「まあそうなんだけど……もう一人教えなくちゃいけなくなって……」


「公爵家の子共で剣を学ぶような年齢の子供なら足りてるじゃない――っ! まさか!!」


「そう、そのまさか」


「私が魔力ゼロ――ナオスさまの剣術指南役に?」


 私は咄嗟に口を押え、言い直した。

 『魔力ゼロの半端モノ』それがナオスさまへの第一印象だ。


「そう実はナオスさまに剣を教えろと命令されてね」


「あー完全に理解したわ。つまり貴族的な政治問題でうちの子より優先するの? って婦人達に止められたのね」


「その通り、で空いてる姉ちゃんにお願い出来ないかなって……」


 家族のことは、父以外大切に思っている。

 だが、高い税を掛け豪勢な暮らしをし踏ん反り帰っている現コッロス公爵は嫌いだ。

 そして現コッロス公爵嫌いでありながら、家臣としてその恩恵に預り暮らして来た自分が嫌になり、家が飛び出した一面がある。


「でも魔力ゼロなんでしょ? 剣術だけに限らず武芸を極めようとすれば魔力は必要よ?」


「姉ちゃんオフレコでお願いしたいんだけど……」


 グレテルは弟の方に顔を寄せた。


「実はナオスさまなんだけど後天的に魔力が覚醒したみたいなんだ」


「――ッ!!」


 悲鳴に近い声を上げそうになるのを、手を当てて必死に耐える。


「それでムノー様にも既に勝ってるみたいなんだよね」


「ムノー様って……」


「俺の担当なんだけど才能も魔力も悪くないんだけどね。なんで勝てるんだろう? 不思議だよ」


「それで姉さん指導お願い出来ない?」


 私は興味をナオス様の強さに興味を引かれ仕事を引き受けた。







 普通、貴人の御子息様は子守メイドに見守られているものだ。

 しかしこの少年はメイドを引き連れず単身、服装さえも明らかに貧相に見えた。

 いくら魔力に目覚めたとは言え、コッロスの名を剥奪された庶子と言うことだろう。


 一目で大切にされていないのだと理解出来た。

 はあ……正直おぼっちゃんの遊び相手でお金が貰えてラッキーなんて考えていたけど甘かったようだ。


「お初にお目にかかります。グレテル・ドンペリと申します。

本日よりナオス様の武芸指南の任を拝命しました」


「ナオスです。短い付き合いになると思いますがよろしくお願いします」


 マナー通り恭しく礼をするその様を他人が見れば、忠誠心に溢れた家庭教師に見えるだろう。

 しかし、それは間違いだ。

 私は一刻も早く冒険者に戻りたいと考えている。

 この仕事も早く終わらせたくて仕方がない。


「それではチャンバラでもしてみましょう」 


 子供に何かを教える時には楽しさを教えることが大切だと、ドンペリ家では教えている。

 なので私はその基本に従ってチャンバラを提案したのだが……


「俺の実力が判らないので手合わせをしようと言うことか?」


 ナオスさまは違った。

 自分の力量を測るためだと考えたようだ。


「いえ、剣術の楽しさを理解して欲しくて――」


「なるほど理解した。しかし俺の力量を把握していない今、楽しいだけのチャンバラ遊びをしていったい何が分かる?」


確かにその通りだ。


「では素振りを見せて下さい」


 剣術とは詰るところ「いかに効率よく命を奪うか?」と言う技術に過ぎず。

 騎士道だの貴族としての誇りなんてものは実践では何の役にも立たない。

 魔王が滅び平和になって数十年の間で産まれた精神論だ。


 そして、魔物相手の剣術と人型相手への剣術は全く異なる。

 しかし共通している部分が存在する。

 「正しい姿勢で正しい力で剣を振るう」これは家を飛び出す前に習ったことだが、先人達が時間と労力、果てはその身を賭して研究したことを、冒険者をして正しかったと身を持って実感した。


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