第十五話 勇者の力がバレる
「――っ!? ムノー今なんと言った?」
父はムノーの言葉を信じきれないようで訊き返す。
しかし、この場の誰もが判っていた。
『ナオスに魔力がある』とムノーが言った事実を誰ひとり認めたくなかったのだ。
ある者は虐めの報復を恐れ、ある者はナオスの待遇を悪化させるように命令しており、普通の子供が生き残れないと知っているからだ。
「ですから、ナオス兄さまには魔力があると――」
「――そんな馬鹿なことがあるか!!」
ブウは長机に手を付いて声を荒げた。
そのせいでワインなどの液体が零れ、白いテーブルクロスを汚してしまう。
下痢や嘔吐、発熱の原因はブウ母の命令だとスラちゃんを介して見聞きしている。
だから認めたくないのだろう。
「ですが事実、ナオス兄さんは循環系の【身体強化】を使い剣術で俺に勝利しています。でしょう? お母様?」
「――え、ええ……」
ムノーマッマは一瞬どもりながらも息子の発言を肯定する。
しかし、魔力ゼロの平民に貴族が負けたと発覚するよりは良かったのではないだろうか? 【スパーク】などの放出系は魔術の花形だが、【身体強化】を代表とする循環系は地味で人気が無く軽視される風潮があり、貴族としては負けていないとまだ言い訳できるからだ。
「ムノーは年の割には良くできる。遠距離攻撃を搔い潜り対応できるのは素直に褒められる。ナオスこの場で目視できる魔術は使えるか?」
父の反応は良く、このままでは奪った名を再び与え継承権争いに参加する可能性は、母親達にとっては面白い状況ではなかった。
「では【身体強化】を……」
循環系は魔力が外にほとんど漏れない。だから一目見て発動しているかどうかを見極めるのは難しいとされている。
だがそれは達人レベルの話……例えばムノーレベルの【身体強化】だとオーラのように、全身を覆った魔力が目視できる。
詠唱をすることなく【身体強化】を発動する。
全身に魔力を纏うことなく、人指の先端から魔力を放出させ数字を描く。
「部分的な【身体強化】だと!」
「それも漏出した魔力をコントロールして文字を描くだなんて……」
「なんて緻密な魔力制御だ……」
これもオタクのクラスメイト達と遊び感覚で修行した方法で、正式名称【ビスケ式魔力制&魔力視練習】通称【グリードアイランドのアレ】である。
魔力を放出する場所、出力、制度、速度を練習できるため結構重宝された練習法を元にした一芸だ。
「魔力の後天的発現ですか……症例は少ないですが何件も確認されている事例です。これでナオスが成人しても、冒険者や騎士として立派にやっていけますね」
場の空気を読んだシーカリ兄さんが眼鏡をクイっと直しながら声を上げた。
つまりシーカリは、「魔力が発現したとはいえど貴族籍に戻す必要はない。だって騎士や冒険者が関の山だし」と言っているのだ。
普通は怒るところなのだが、貴族であることにもこのブッコロス家を継ぐことにも興味のない俺にとって、むしろ援護射撃と言っていい。
「――しかし能力があるのであれば学院に……」
父の言う通りこの世界は高等教育を行う学園がある。
ほんの数十年前まで中央集権化できていなかった国々も、勇者達の介入によってその多くが、集権に成功している。
だから寄宿学校が成立するのだろう。
「学院の入学まで幸いなことにまだ時間もあります。基礎的な学問や魔術、武芸と必要なことは数えきれません」
「それもそうだな……明日から家庭教師を手配する」
「判りました……」
はあ……暫く自由とはおさらばかもな……
俺は嫌味ったらしく完璧なマナーでコース料理を食した。
実家が金持ちのクラスメイトにマナーがなってないと言われ、二人で特訓したなぁ……辛かったけどい思い返せばいい思い出だ。