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第4話「新商品選定の依頼」


「今度発売する商品、どちらがいいのか、魔法で占ってほしいの」

 今度の依頼主は、コスメメーカーの社長、佐藤有紀さんだ。歳は訊けないが、三十代後半から、四十代前半に見える。

 私、仕事をしない魔女、茜一華は、コスメメーカーのビルの社長室に来ている。コスメメーカーといっても、大企業ではないのでビルは小さめだ。

「ひとつは、アイシャドウ。一重でも、遠くから見ると二重に見える優れもの。この手の商品はいままでにもあったけれど、我が社の商品は、値段と完成度が違うの。これは、あなたには関係ないわね」

 佐藤有紀さんは私を見た。私は二重なので、この商品のお世話にはならないだろう。

「ふたつは、口紅。十歳若返って見えるものなの。しかも、とてもナチュラルに。あら、これもあなたには関係ないわね」

 私はまだ二十三歳だ。その口紅をつけたら十三歳に見えるのだろうか? 少々興味がある。私がはじめて紅をつけたのは、八歳の頃だったか、七歳だったか。

「あなたの唇、あのハリウッド女優みたいで素敵ね」

 悪意はなかったのだろうが、この女社長の言葉には少々カチンときた。大きな唇は私のコンプレックスなのだ。

「その唇に、この紅は合うかも知れないわね」

「試してみてもいいですか?」

 カチンときていたが、さすがに、コスメに興味の湧かない魔女はいない。

「いいわよ。後でね」

「両方とも商品化すればいいのでは?」

 私は探りを入れた。

「うちは中小企業、二つ同時に新商品をだす体力はないわ。そこで、どっちを先に発売したらいいのか、魔法で占って欲しいのよ」

「では占います」

 私は水晶を見た。

「分かりました。この依頼、四千五百万円で引き受けましょう」

 それを聞いた佐藤有紀は、くちをポカンと空けている。

 ほどなくして、解約金と一緒に、アルマルの箒を突っ返された。

「あの、口紅を試させて欲しいのですが」

「あら、そんな約束をしたかしら。歳かしら、最近、記憶力が衰えてきてね。じゃあね、バイバイ、若い魔女さん」

 私は、小さなビルを追い出された。


 その後、佐藤有紀さんの会社は、二重に見えるアイシャドウと、十歳若く見える口紅を同時に発売し、大きな話題になった。新商品が二つは無理があったと思うが、どちらがいいか結局、決められなかったようだ。

 この二つの商品は、他メーカーが類似品を出す直前だったらしい。もし、私の占いで、発売する商品をどちらかに決めていた場合、片方の商品のシェアを諦めることになっていただろう。


 私もさっそく、十歳若く見える口紅を買おうとしたが、これが簡単ではなかった。

 当初、二つの新商品は会社の直販サイトの専売だったので、私は、直販サイトでアカウントを作って口紅を注文したのだが、三十分後に強制キャンセル、アカウントはBANになっていた。

 名前を少し変えて、住所を局留めにして注文したが、一時間後にまた強制キャンセル、アカウントBANだ。

 あの女社長、相当怒ってるな。

 仕方がないので、友人に代理で買って貰った。


 口紅が届いた。さっそく、塗って見る。

 鏡を見る。おおぅ、二十三歳が十七歳くらいに見えるな。私の顔に、高校生の頃のようなハリとツヤが戻ったように見えた。だが、「十歳若く見える」は、少々大げさか。

 私は、自分の容貌を観察した。

 よし、唇がやや大きいこと以外は、理想的な顔だ。

 さて、十歳くらい若返ったら、やることは決まっている。

 ビールを呑むのだ。

 仕事をしないで飲む酒だ。旨いに決まっている!




第4話 おわり





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