第2話「ダイエットの依頼」
「わかったぁ? 詰まるところ、魔法でウエストをあと三センチ落としてくれればいいのよ。そうすれば、このMサイズのスカートが余裕を持って入るのよ。できるでしょ」
ここは都内の喫茶店で、私は依頼主とコーヒーを飲んでいる。もちろん、箒はアルマルの状態で立て掛けてある。
今度の依頼主の木村恵は、赤いスカートを手にしている。ド派手だが、センス自体は悪くないスカートだ。でも、若い人が着る服に見えるなぁ。
「もう少し詳しく話を聞かせていただけますか?」
仕事をしない魔女である、私、茜一華は質問をした。
「今付き合ってる彼氏がね、最近、いい感じじゃないのよ。三年も付き合ってるから、さすがに倦怠期かしら。そこで、このスカートよ。このスカートは、彼氏との初デートで着た物なの。これで彼氏も、若くて初々しい頃を思い出して、イチコロよ」
なるほど、初デートで着たスカートか。
「木村恵さん。ご存じないかも知れませんが、魔法でダイエットをすると、確実にリバウンドします」
「知ってるわ。適正体重にリバウンドしちゃうんでしょ。問題ないわ。その頃には、私たちは婚約者だもん」
そう、魔法でダイエットをすると、一時的には痩せるが、結局、適正体重にまで戻ってしまうのだ。
見たところ、この女性の適正サイズはLだ。若い頃は、たぶん無理をしてMを着ていたのだろう。だが、それは指摘しないのが魔女のたしなみだ。
「分かりました。占ってみます」
「よろしくね」
私は水晶で占った。
「この依頼、引き受けます」
「ほんと? 良かったわぁ、たすかるわぁ。あなた、いい魔女ね」
木村恵は上機嫌になった。
「それで、料金は二百八十万円になります」
ご機嫌だった女性の気分が、一気に変わったのが見て取れた。
「二百八十万円、いま二百八十万円って言ったの?」
女性は、スマホで何やら調べ始めた。おそらく、銀行の残高を確認しているのだろう。
私は解約金を渡された。
アルマルの箒を元の状態に戻して、私は喫茶店を後にした。
その後、木村恵は、彼氏とデートをした。Lサイズのスカートを穿いて。
ここは都内のレストラン。
「あれ、恵ちゃん、きょうは初デートの時のスカートを穿いてくるんじゃなかったの?」
彼氏が訊ねた。
「それが……、穿いてみたら、ちょっとキツくて」
「ゴメン。デリカシーのない質問をしちゃったね」
「それだけじゃないのよ」
木村恵はそう言って、おずおずとスマホの写真を見せた。
「これ、私の家族の写真。みんな、ぽっちゃりでしょ」
木村恵の家族は、みな、ふくよかな体型だった。興味深く写真を見ていた彼氏は、突然笑い出した。
「アハハッ、なんだそうか」
「笑わないでよ。勇気を出して写真を見せたんだから」
「違うよ! 違う違う! いままで、恵ちゃんが家族の写真を見せてくれないから、本気の恋愛じゃないのかなって、オレそう思い込んでたんだよ」
「もちろん、本気よ! なに言ってんのよ!」
「もっと見せてくれる?」
彼氏は嬉しそうだ。
「いいわよ」
恥じらいながらも、木村恵は家族の写真を見せた。
木村恵が、Mサイズの赤いスカートを着てデートをしていた場合、最悪、彼女は振られていただろう。
だが、そうはならなかった。
ほどなく、ふたりは婚約するだろう。
これで良かったのだ。
同じレストランの反対側に、私、仕事をしない魔女、茜一華がいる。
もちろん、変装している。
私は、グラスに注がれたビールを呑んだ。
「働かないで呑むビールは、チョーうめ~!」
やばい、声が大きかったので、耳目を集めてしまった。
でも、きょうくらいはいいだろう。
第2話 おわり