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お尋ね者たちの晩餐会  作者: 灰兎
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ペストマスクの能力

「兎夜くん!見て見て!飛行機が空を飛んでるよ!」

「はいはい。そりゃ飛行機だし空は飛ぶよ」


無邪気にはしゃぐボクを素っ気なく突き放した兎夜はカバンから取り出したヘッドホンを着けてその場を後にする。


「むぅ…構って欲しかったのに…」


今日はボクの誕生日。

警察の仕事で忙しいパパが街で1番高い音泉天文台のチケットを買ってくれた。

本当は一緒に行く予定だったけど、ボクの事が嫌なんだろう。いつも通りの「仕事が入ったから」と聞き飽きた謝罪と共にいつもより多めのお金を置いて行った。

だから近所に住む兎夜くんを無理矢理に連れ出した。


兎夜くんはボクと同じく不登校で学年は違うが何かと面倒を見てくれて、普段は外に行きたくないと言うくせに何やかんや平日の今日も一緒に居てくれる優しさに感謝する。


天文台の最上階。

初めての高い場所に緊張しながらも周りを見渡す。

楽しそうな親子。不登校のボクたちの他には同じ歳くらいの女の子が居る程度で、他は写真を撮ってはしゃぐ高校生たちがいる。


知らない人ばかりの空間に緊張して早足の兎夜くんの袖を握るが振り払われ、渋々後ろを歩く。


「ママー。お魚さんがお空飛んでるー」

「なに言ってるの?お魚さんは海に…」


雲が掴めそうな窓の外を見ながら親子の会話を盗み聞きしていると、叫び声と共にガラスが割れる音がした。

魚は海の中でどんな音を出してと泳ぐのだろう。

身体にヒレが当たりぺちぺちと音を立てて無数の魚の群れが天文台の中に入ってきた。


「雪白ちゃん…!!」


兎夜くんの声で我に返る。


「さあさあ皆様ー!どうぞ歓声の代わりに悲鳴をー!」


生臭い匂いと共にニタニタと笑うフードを被った男の人が現れた。

男の人の周りを魚たちがぐるぐると回っている姿はまるで泡のようだった。


「今からここにいる人間に死んでもらう…あ、いや。魚の餌になってもらう?一緒か…まぁいっか。ってことだからよろしくなー」


そう言うとさっきまで楽しそうに写真を撮っていた高校生たちに魚たちが群がった。


「鰯は魚編に弱いって書く通りに海の生態系の最底辺で他の魚に食べられちまう。群れる理由は他の魚に気を取られたら自分が食われる確率が減るからだ」


断末魔の音とが鳴り響く中でフードの男は話を続ける。


「人間も同じだ。群れの中に居たら仲間はずれにされることは無い。可哀想に。もっと人混みの中に居たら…今日が死ぬ事は無かったのにな」


腹を抱えて笑う男は魚を操り人を食べさせている。

唖然とするボクらと、叫び回る周りの人。


「雪白…」


兎夜くんは男が他の人に気を引かれて居るうちに。と、ボクの手を取った。

耳から抜けない断末魔の音を振り払いながら階段の先へと走る。


非常口の階段を降りようとすると他へと繋がる廊下の奥から足音が聞こえた。

兎夜くんと顔を見合わせて足音がする方へと走る。


「あ、あの…!!ひ、人が…魚が…た、助けてください」


恐怖と人が居た安堵で声が出ないながらに必死に伝える。


「人?魚?まあまあ…落ちついて」


ぽんぽんと頭を撫でる人を見ようと顔を上げた。

ひゅっと息をしていた空気が詰まる。

フードを被り白いペストマスクをしていたからだ。


「あれはペペ。契約召喚で特定のものを契約して名の通り召喚ができる。使い方次第だけど…まぁ質より量って感じだよ」


淡々と説明をするペストマスクの人はしゃがんでボクらと同じ目線になる。


「うわぁ…めっちゃ恐怖に怯えてる感じ?」


そう言うと懐から不思議な絵柄のカードを出す。


「じゃ!好きなカードを選んで」


向こうでは人が食べられていると言うのに、呑気に鼻歌を歌いながらカードを並べて差し出す。

このカードを選ぶ事でこの現状が助かるなら…。


「選ばない…!!あっちで、人が死んでるのに…」


兎夜くんが言いたい事は私が考えた事と同じだろう。

だけど、さっきの魚を操る人を知っているということはあちらの味方の可能性だってある。


「ふーん…じゃあ君はいらなーい」


ペストマスクの声と共に隣で苦しむ兎夜くんを見て、要求を飲まないと死ぬのだと察し叫ぶ。


「待って…!!選ぶから…!!」


荒い息を整えながらも、苦しむ兎夜くんを見る。

今日無理矢理連れてきたのはボクで…全部、ボクのせいだ。

罪悪感を飲み込みながらも出されたカードを1枚選ぶ。


「灰色の兎…?」


選んだカードは黒色と白色の兎が上と下に居て、真ん中に灰色の兎がいる絵が描いてある。


「そっちはどうすんの?」


苦しむ兎夜くんを見捨てる様に冷たく言うペストマスク。


「私が代わりに選ぶから…!!!」


そう言うと苦しんでいた兎夜くんは倒れ込む。


「兎夜…!!」

「気を失ってるだけだ。さっきみたいにゴタゴタ言われてもめんどくさいからさ」


早く選べとカードを差し出してきた。


「こ、これにする」


カードをめくると赤色の兎の周りに何語か分からない文字や規則性のない数字が描かれている。


「普段はさ1人1枚なんだけど…そうだなぁ…あ!能力あげたことだし…ぺぺと戦ってみてよ!」

「能力…?戦う…?」

「今引いたカードは使ってみないと能力分からなくってさ。丁度『悪者』がいるからタイミングばっちし!寝てるのは使えなさそうだし…」


ペストマスクは残りのカードをまた懐にしまうと、ボクの手を引いて倒れた兎夜を置き去りに魚を操る人の元へと連れていく。

何の事か全くわからない。

さっきまではただの暇つぶしで私がエサにされる可能性もある。


手を引かれて必死で逃げた場所へと連れ戻された。


「エイス〜…どこ行ってたんだよ…」

「見ろこれ。逃げた子どもを連れてきたじゃないか」

「よかった…エサ足りなくて食われかけてたんだ。契約はもっと微小にしないとなぁ…助かるよ」


訳の分からない会話をするペストマスクとフードの男。

ペストマスクはボクの手を離すことなく掴んでいる。


「じゃあ…いただきます」


フードの男はそう言って血にしゃぶりつく魚たちをボクに向かわせる。

近く生臭い匂いに目を瞑りたくなるが、最後くらい憎たらしい顔を拝んでやろうと恐怖の中どこか冷静に目を開ける。


「…え?」


フードの男は声を漏らし、魚たちはその場で魔法陣の中へと消えていく。


「た、助かった…?」


何が起きたか分からず、フードの男を見るとあちらも困惑しているようだ。


「契約が…消された…?」


ポカンと口を開けてフードの男がこちらに近寄る。


「なら新しい契約をするまでだ…!!」


厨二病患者が言いそうなセリフ3選にありそうな事を言って、これまた厨二病患者が大好きな魔法陣を床に描き出す。


「さっきまでどんな手品か知らないですけど、目の前はちゃんと見た方がいいですよ」


数十分前まで怯えていた感情が無くなったみたいに冷静に動く事ができる。

能力だとか、契約だとか…そんな事どうだっていい。


ペストマスクに掴まれていた手を振り解き、フードの男を軽く殴ると呆気なく倒れた。


「え、ボクそんな力入れてない…」


軽く殴ると言うよりも叩いたと言った方が正確。


「能力を使えば代償が出る」


倒れたフードの男を指でツンツンとしながらボクに向けて話す。


「君は能力を無効化するらしいね。代償に力の制御か…感情の欠如かな?2枚引いて2つの代償ねぇ」


淡々と説明をするペストマスクはボクを見て笑った。


「君面白いね!気に入ったよ!代償を肩代わりしてるとか?そうだ!3枚のうち1枚をあの子用に選んでくれない?」


同じ歳くらいの女の子を指さしてまたカードを向ける。


「選んだら…どうするの?」

「どうもクソも…死にそうだから能力をあげるだけ」


死にそうだから?と聞きたいことが山ほどあるがペストマスクは早くと急かす。3枚のうち真ん中のカードを選ぶと白い背景の中にぽつんと白い兎がいるイラストだった。


「それじゃ…我々は帰るよ」


ペストマスクの人はそう言って倒れたフードの男を抱えた。


「待って!!能力って何?代償って?」


声を掛けるが、身体に力が入らず…意識を失った。

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