パスタと猫と。
大きな警察署の中。
警察極秘組織の特殊捜査課は迷子になりそうな建物の奥の奥に行くと厳重な警備が備わったドアの先だ。
「みんなおかえりなさい!」
扉を開けた先には茶色のマッシュヘアに黄色のインナーカラーが入った人が出迎える。
こいつはパスタ。
名前はない。
いや名前はあるが、呼び名はパスタの方が正しい。
大好物はパスタでよく食べてるからパスタだ。
「乙歌さん!ぼく1人でちゃんとお留守番できたよ!」
子犬の様な目付きで駆け寄るが、留守番くらい1人でできるだろうとあしらう。
「こんにちは。パスタ君」
「久しぶりパスタ君」
この通りヒナちゃも兎夜くんにも定着しているから呼び名はパスタ。
「今日は何食べてるの?」
「えっとねぇ。イカスミ!生臭くて美味しいよ!」
「その説明だと美味しく無さそう」
「美味しいよ!あんまり好きじゃない!見て!口が真っ黒!」
「そっかぁ。じゃあ今日からイカスミパスタ君だね」
「新しい名前?!やったぁ!みんな聞いた?!」
雪白ちゃんもパスタも噛み合わない会話をしているが、構って貰えた犬の様な反応をしているので放って置いて良いだろう。
「ぼくの名前はイカスミパスタ!!」
緊張感の無い会話は気が抜けて仕方ない。
「みんな何飲む?トマトジュース?あっ!イカスミ飲む!?ってイカスミパスタはぼくだったー!」
「はいはい。とりあえず茶入れよう」
「芝猫ってお茶入れれるの?」
「無理だな」
あしらう柴猫に呆れてヒナちゃがお茶の準備をしてくれている。
「ねえねえヒナちゃん、お茶ありがとう!でも、ちょっと待って。このお茶?それともただのお湯?」
アホな事を聞くパスタ。
彼の能力は創造。
なんでも作れるが、代わりに知識が必要で脳をフルで使わないといけない。
例えば植物を創造するとしよう。
受粉をして何科の植物で可食部位は何パーセントで、水分量が糖度が…と細かい知識が必要となる為、脳へのダメージがあり能力使用後は動けない。
「パン屋さんも来たからパーチィー?」
先程の名前が無いと言ったのは能力の使い過ぎで自分の事を忘れたからだ。
「とりあえず話をしようか」
アタイはしろさんの携帯から部屋の大きなモニターへと移り、
各々が席に座った所で話を再開する。
「改めて…鰯にGPSをつけることが出来た」
山奥の廃村。
パスタの創造で作ったGPSが示す位置だ。
先程、しろさんには重力操作でGPSを鰯のフードに仕込んでもらった。そのおかげで鍋1杯分のスープ代とサンドイッチ1斤分の請求をされたのは必要経費として…。
「とりあえずこいつがいるとこにペストマスクがいるって事で間違いないはず」
「街にも能力者がだんだんと増えてるし…」
アタイの言葉に付け加えてしろさんが話す。
「変死体だとか一際変わった事件も増えて特殊捜査課の4人じゃ手が回らないからね」
だからRabbit bakeryの力を貸して欲しいと柴猫が美味しいとこを持っていく。
「…ところでGPSが港の方へ動いてるけど?」
マップを指差す兎夜くん。
「行くしかないね!」
「今から?!丸腰で?!」
良いツッコミをする兎夜くんを褒めていると雪白ちゃんが口を開く。
「兎夜って言うボクの目と、ヒナって言うボクの手足がいるのに負けるはずが無いよ」
能力無効化をした所を他メンバーで叩く。
そんな作戦を立てて準備を進める。
兎夜くんとヒナちゃは雪白ちゃんのバックアップ。
しろさんはカバンに入るだけの武器。
パスタは分厚い辞書を。
柴猫は特に準備らしい準備は無い。
「よし…行こうか!」
意気込む柴猫だが、こいつは何も準備らしい準備はしていないのによく言う…。
特殊捜査課は主に戦闘はしろさんと柴猫が担当。
防御はパスタが担当。
アタイは各々のバックアップと場所によっては街の人々の避難指示。
「…乙歌ちゃん。ボクは2人に話したい事があるから」
「先に車に居るね」
雪白ちゃんは真剣な表情をする。
…。
「兎夜…ヒナ…」
お姉様たちが部屋を出た後に重々しい口を開く。
「えっと…何から話そうかな」
緊張に耐えきれないと言うか、言い難い事なのだろうと察する。
「元々はね…ボクも特殊捜査課の一員だったんだよ」
ここに来る前にしろさんがボヤいた事を思い出す。
「能力の使い過ぎで見えなくなってから辞めちゃったんだけど、また戻ってくるなんて変な感じでさ…」
「それで?」
「あ、えっと…その…」
「能力関連の話?」
なかなか言い出さない雪白を兎夜さんが問い詰める。
「ボクが2人を能力者にしちゃったんだ…」