表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お尋ね者たちの晩餐会  作者: 灰兎
4/27

飛べない鳥

遠くで鳴くウミネコ。

高めの波の音。

潮の匂い。

ベタついた風。

歩く度にギュッギュッと鳴く砂に足が沈む。

少し質の違う砂は海水を含み波が近い。


朝の日差しが手元を焼き、白杖で足元を探す。


「いでっ…」


白杖に何かが当たった。

何かいる。

海水に足元が濡れ少し不快だ。


ぼやけてフェイドのかかった視界を凝らす。


「砂浜で寝ている…人?」


しゃがんで顔であろう部位を触る。

波に食われそうな位置で寝ているなんてアホにも程がある。


長い髪を軽く掴むがしっかりと絡む。

冷たい肌を伝って骨格を探る。

痩けた頬。

高く筋のある鼻。


「なにしてるの…???」


低い声が頬を振動させた。


「お腹すいてる?」

「お腹は…空いてるけど…あれ?ましr…」


ウミネコにあげようと思っていたパンの耳を片手でポシェットから取り出して動く口にねじ込む。


「むぐぅぅぅ」


なんとなくペンギンっぽい人の口にパンの耳をねじ込んでいると後ろの方から足音が聞こえる。

潮の匂いで匂いが薄れている為警戒をして様子を伺う。


「雪白!!!」


聞きなれた声が兎夜だと分かり安堵する。


「それ誰?!」


安堵はしたが1人で海に散歩に来た事。

それとサンドイッチの余りでラスクにする予定だったパンの耳をラスクにする気分じゃなかったから、とりあえずウミネコにあげようとしていた事を怒られてしまう。


「ペンギン…?」

「明らか違うでしょ!!」


言い訳をするも頭に軽くチョップを食らう。


「そっちは…能力…重力操作…?」


兎夜の目を借りて状況を把握する。


「よし。連れて帰ろう」

「そんな…捨て猫拾う感覚で知らない人を…」


グダグダとお説教が始まりそうな兎夜を放って海で寝ていた彼に声を掛ける。


「それはウミネコたちの分。君のは家で用意しよう」


冷たい手を取り立ち上がらせる。


❀❀❀


ここはカフェ&パン屋の【rabbit(ラビット) bakery(ベーカリー)

私はここでメイドをしているヒナ。

昼間はカフェとパン屋の仕事をしながら、普段は主人の雪白に仕えています。


今日は雪白が朝からアクを取り、仕込んだタケノコを使った温かいスープとスモークサーモンとクリームチーズのサンドイッチ。


「おかわり」

「うむ。たくさん食べなさい」


それらが細い身体の中に入っていく。

雪白がアク取るの面倒臭いんだよなぁと文句言いながら一生懸命に仕上げたスープが空になる勢いだ。


「えっと…この光景は?」

「ペンギンさんを連れて帰ってきたから餌付けしてる」

「ダメだこりゃ…兎夜さん!通訳!」


スープとサンドイッチを仕込み終わったご主人様はパンの耳を持って出かけ…

起きてきた兎夜が心配して迎えに行ったら、水色がかった白く長い髪の男の人を連れてきた。

兎夜さん曰く、この人も能力者らしい。

説明を一通り聞いてから彼を見る。


「私はヒナ。この子は雪白。そして兎夜さんです。あなたは?」

「しろさんだよ」


遮る様に話し出すご主人様は何故か生き生きしている。


「…わかってたんだ」

「兎夜の目を借りて…久しいなっていじわるしてた」

「いい性格してる」

「でしょー!」


まっすぐと人の目を見て話すしろさん。

困惑している私と兎夜さんを見て淡々と話す。


「ぼくは物を浮かせたりできる…今できない」


目の前に置かれたコップに手をかざして残念そうな顔をして雪白を見る。


「あ、そゆことね」


雪白は少し渋い顔をして目を閉じた。


「ボクは目を伏せていようかな…」


訳が分からずに兎夜さんを見るがまるで分かって居ないようだった。


「ぼくはしろ。特殊捜査官の1人」


察したしろさんは話し出した。


「ぼくの能力は重力操作。ただし自分より軽いものしか浮かせられないし、自分より重たいものしか重力を掛けれないし、自分には無効」


めんどくさい能力だよーと言ってまたパンを食べだした。


「能力使った後はお腹空いて動けなくなったり、平衡感覚失ってまともに歩けない」


付け加えるように言った。


「ご主人様とはどんな関係ですか?」


気になっている事を聞くと兎夜も聞きたいと言わんばかりの顔をする。


「雪白は元々、特殊捜査員で…」


しろさんは言わない方がいい?と聴きながらもポケットに入っていた携帯を机の上に出した。


「…で?なんでしろさんは散歩道に落ちてたの?」


私たちの困惑を遮る様に雪白が話をする。


「…(いわし)退治をしてた」


重く口を開いたしろさんを見て、察した様に雪白はそっかと一言言った。

しばらくの沈黙を打ち破ったのはしろさんの携帯だった。


「って事でさ!アタイたちに力貸して欲しいのよね!」


しろさんは携帯を立ててみんなに見えるようにする。

画面にはショートカットをハーフツインにして背中には翼が生えた女の子が携帯の中を自由に動き回っている。

この女の子が乙歌(おとか)お姉様の能力。


「この前の刃物君から情報聞き出してさぁ…それでみんなの力を貸して欲しいの!」


お姉様が画面の中でぺこりと頭を下げる。


「よし!今日はもう店仕舞いだ!」


少しの沈黙と私たちの沈黙を横目に雪白はそう言うと残りのサンドイッチやパンを詰め出した。


「いやいや…まだオープンすらしてないし…」


兎夜さんが言いかけた言葉を遮って雪白が言う。


「ランチのスープはしろさんが全部食べたし!またタケノコ仕込むの面倒臭いし!!なにより!特殊捜査で報酬貰ってコーヒースチーマーが欲しい!!」

「欲望に忠実だねぇ…確認だけど、手伝ってくれるって事でいいんだよね?」


あっさり承諾する雪白にお姉様は少し驚いている。


「兎夜は新しいスピーカー欲しいって言ってたし、ヒナは可愛いお洋服欲しいって言ってた!!」


私と兎夜さんはいつの間に。と言わんばかりの顔をするが、お姉様の頼みだし…この前の謝礼金が結構…いや、かなり良かった。


「お姉様の頼みならもちろんだよ」


いやらしい気持ちは隠しつつ了承する。


「私ができるの…能力見るくらいなんだけどそれでいいなら」


兎夜さんもやれやれと言いながらも了承する。

多分この人も欲望には忠実な人だ。


「助かるよ…詳しくは車の中で話そう。時間が無い」


お姉様は画面の向こうから話が掴めない私と兎夜さんに微笑み、流される様に下の階に降りると真剣そうな顔をした柴猫さんが待っていた。


「ヒナちゃん!メイド服可愛い!似合う!」

「早く車出して」


先程の真剣な顔はどこにやら…じゃれつく芝猫さんをお姉様が冷たく流す。


「鰯と読んでいるのは契約召喚の能力を持った人の事で、5年前の音泉天文台(おといずみてんもんだい)の事件の犯人」


走り出した車の中でお姉様は説明を続ける。


この街で1番高い場所が音泉天文台。

星に手が届きそうなほど高く、最上階では街全体を一望できて…初めて能力者が発見された場所。


「ペストマスクと言うのは…」

「ボクらに能力を与えた人だよ」


お姉様の説明に割り込む様に雪白は言う。


「特集捜査課は能力者の起こした事件の解決と共に能力を与えたペストマスクを探してる」


そう言って俯く雪白。


「音泉天文台は…君ら3人が被害者だったね」


お姉様は私たち3人を見て言った。


「私は事件の事は曖昧だし、気付いた時に人の感情が見えるようになったから…与えられたって言うのはよく分からないんだよね」


兎夜さんはそう言ってははっと笑った。

実際、私も能力を与えられたという実感は無い。事件が5年前で、能力が使える様になったのは最近だから…発現が遅かっただけなのか…考えてもよくわからない。


「ここにいる乙歌ちゃんやしろさん。芝猫さん。ボクらはみんなペストマスクの人に能力を与えられたんだよ」


雪白はそう言って重い口を開いた。


「2人はボクがずっと無効化していたから…」


ボソッと雪白が呟きそっと私の手を握る。


「着いたよ」


しろさんが窓の外を指さすと大きな警察署が目に入る。

不思議な事に悪い事はしていないはずなのに、何故か後ろめたい気持ちになる。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ