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お尋ね者たちの晩餐会  作者: 灰兎
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能力研究棟

「もう…止めてくれ」


ガタガタと震える被検体は昨日警察極秘組織の特殊捜査課から引き取った能力者。

体の1部を刃物に変換できるらしい。


「まるでトカゲの尻尾だな。切っても切っても再生して、また変換できる…素晴らしい」


切断機で刃物に変わった手足を落とす。

すると刃物になった手足はそのまま、新しい手足が生えてくる。

切り落とした刃物は取っ手を付けて我々の武器にしようと絶賛武器大量生産中。


「ほら、へばってないで…早く新しい刃物作ってよ〜」

「嫌だ…もうやめてくれ」


最初は失禁したり、気を失って大変だったが今はイヤイヤと言うだけで大人しくなってしまった。

もう少し断末魔の声を聞いて居たかったが…そろそろ限界か?


「おいおい。刃物の先が指のままだぞー…って死んだか?」


変換したはずの腕は刃物だが手の部分はそのまま残っており異形だ。

ノートパソコンを取り出しデータを打ち込む。

目の出血から連続5回の能力使用後に死亡が確認。


有珠析(あずり)

「おやブラック」


腰下まで伸びたくせ毛。真っ黒な髪の間から覗く赤い目をしている彼は研究員のブラック。


「そろそろ時間ッスよ」

「おっと急がなくては…それじゃあ後始末よろしく!」

「全く…やるなら片付け込みでって言ったッスよね!?いつもいつも有珠析ときたら…ちょっと!待つッス!!」


ここは病院内部の能力研究棟。

内科棟や皮膚科棟と全て場所によって棟があり、能力研究棟は名の通り研究施設だ。

表向きには不治の病を治すだとか。代わりに多額の請求を渡す。

俺の能力【鏡合(かがみあわせ)紫紺(しこん)の夢】は人の病気や怪我を治せるが、代償として目に見えない寿命が縮まるらしい。

そりゃ、自分の寿命をかけてまで他人の命を治すなら高額で…。


「あ、やっときた…今日来るって言ったじゃん。待たせないでよ」


実験室から逃げる様に走ると、廊下には雪の様な白い髪に短めのまつ毛。その下には光の入らない真っ黒な瞳。


「ま、ましろたぁぁぁあん!!!」


彼女は雪白。能力無効化という特殊能力を持つ女の子。

能力の代償として弱視になってしまった可哀想な子だ。

そして見えていないだろうと抱きついたら避けられた…


「匂いと音で分かるのに…有珠はなんで懲りないのかな?」


白杖を持つ手に力が入っている事を察して診察室に通し、月1の診察を始める。


「今日は1人?」

「いや…兎夜とヒナと来て2人は待合室にいるよ」

「ヒナちゃんはともかく…兎夜くんは苦手なんだよねぇ…前に能力で考えてた研究データ見られてさ!全くだよ!」

「人を前にそんな事考えてるほうが悪い」


視力と色覚の検査をしながら話すが、これも実験の1つだ。


「さぁて…血を抜くよ」

「いやだぁぁぁぁぁ」


注射器の準備をしていると、やだやだと言いながら袖をまくり先程の実験を思い出す。


「な、何本抜くの?痛くしない?すぐ終わる?」

「2本分たーっぷりと抜かせて頂きます」

「いやだぁ…」


普段は割と落ち着いている方だが、嫌な事になると子どもっぽくなり可愛げがある。


「調子はどうよ?」

「ヒナが居てくれるから…前よりは…かな」


雪白は目が見えなくなってから、暗い部屋に1人では居られず眠れない。

不眠症で目の下にはいつもクマがあり睡眠薬を処方する。

パン屋をやっているだけあってか、眠れない時間にパンを作るなりしているらしいが…。


「有珠析!!あんたって人は!!やっと片付けが終わっ…雪白ちゃん!!」


診察に怒りながらブラックが入ってきた。

診察中の看板が見えないのか?と告げる。


「ブラックンだぁ…また有珠析がやらかしたの?」


ニコニコと笑う雪白は手を伸ばしブラックの手を握りしめて会話を交わす。


「実験室の汚れ取るのが大変だったんっス」

「いつもありがとね。ブラックン」

「あ、いえ。いつも通りっスから」


明らか惚れているであろう反応をしているが雪白は気付いていないようで茶化したくなった。


「それじゃブラック〜。暗い暗い廊下だから送って行ってくれよ」

「ヒナが来てくれるから大丈夫」


脈ナシドンマイブラック!と思いながら世間話をしていると、ヒナちゃんが迎えに来た。


「有珠さん、ブラックさん。お世話になりました」


丁寧にお辞儀をして雪白と一緒に帰って行った。

後ろ姿はまるで夫婦のようだ。


「有珠析。さっきの分解終わった…」


見送り姿が見えなくなった所で足音無く近付いてきた柑奈(かんな)が後ろから声を掛ける。


「いまさっきまで雪白ちゃん居たぞ」

「知ってるけど、匂いでバレるでしょ。今日は会わない」

「匂いでも…見えてないならバレないだろ」

「さっきの水と炭素、アンモニアに石灰…リンに…どうするの?」


カーキ色の髪を1つにゆるく縛った彼は柑奈(かんな)

男か女かは分からないが彼だ。

研究員であり、俺の実験体の1人。

能力は分解で手で触れた物は例外なく全て分解されてしまう。

その為、無効化の能力を持つ雪白の血を材料に作った手袋をしている。

ちなみに雪白は抜いた血が研究やこれらに使われている事を知らない。

世の中には知らない方が良いことだってあるだろ。


「他の研究に使うし…アンモニアには塗り薬に入れたりしてさ、人間も余すこと無く使ってあげよう」

「食物連鎖の頂点みたいな事言うね」

「そりゃそうさ。鏡合と紫紺の夢は命を与えるだけじゃなく奪う事だってできる…食物連鎖の頂点…いや、神にも等しい!」


実験のデータを元に更なる飛躍を…と決起するつもりだったが、ブラックが割り込む。


「優越感に浸ってるとこ悪いッスけど、分解しちゃって遺体も無いのに…警察には何て言うんスか?」

「あ…どうしよ」

「片付け込みで実験だって言ったッスよね」


ニコニコと怒りを込めた笑顔を作るブラックから逃げる様に柑奈を盾にする。


「いっそ、有珠析を分解して警察に送っちゃえばなんかにはなるんじゃない?」

「重さの送料かかりそうッスけど、60サイズの箱には収まりそうッスね」


ブラックの怒りに便乗する柑奈。

ここに味方はいない…。


「慈悲は?!」

「「ない」」


世知辛い世界だ…。

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