ファミリーチキン
「芝猫〜?早く起きないと遅刻するぞ」
ブラックさんの能力で別世界に飛ばされ、目を開けると似合わない学生服を着た兎夜くんが俺の布団を捲りながら時計見ろと言う。
枕元に転がる目覚まし時計が指す時間は朝の8時半。
「しろ兄さんも!!お前今日遅刻したらマズイって言ってたでしょうが!!」
見慣れない3段ベットと机が3つある部屋の中で首を傾げていると、1番上の段にいるしろを引き摺り下ろそうとイライラしている兎夜くんが怒鳴る。
「やだぁ…朝から怒鳴る兎夜兄さん怖ぁい」
部屋のドアを開けてクスクスと笑うのは元の世界と変わらず背の小さい乙歌さんだが、ブレザーを着ていて見慣れない。
「乙歌ぁぁぁぁぁぁ!!!」
「あ、芝猫起きたなら早くご飯食べちゃいなね」
怒鳴る兎夜くんを無視して目が合った俺に声を掛けた。
ベッドから出て乙歌さんに着いていくように廊下を歩くといい匂いに思わず腹の虫が鳴いた。
「おはよう芝猫。乙歌も起こしてくれてありがとう」
髪を1つに結って微笑む大人びた女性…声で雪白だとわかるまで時間がかかった。
「芝猫おはよう」
広々としたテーブルでホイップの乗ったゼリーを頬張るヒナちゃんが挨拶をしてくれる。
なんだこれ幸せか?
「ママ〜。しろ兄さん起きなさそうだから、しろ兄さんのデザート食べていい?」
「ヒナのは今食べてるでしょー。だーめ」
「じゃ芝猫のを…」
「こらヒナ!」
ママと呼ぶヒナちゃんに驚いたが先程から出る「兄さん」と言うのだから、この世界は俺らが家族なのだろうなと察する。
「パパのあげるから…」
「そうやってパパが甘やかすから喧嘩が起きるの!」
スーツ姿が何故かしっくりくるブラックさんが雪白に怒られている姿は新鮮だ。
と言うか父親がブラックさんなのか…。
「早く食べて行かないとでしょ?」
そう言いながら雪白は山盛りのご飯と味噌汁。半熟の目玉焼きにソーセージとカリカリのベーコンが乗った皿を俺に出す。
「いただきます…」
頭の中で誰が兄で姉だ?と考えながら料理を口に運ぶ。
とろっとした半熟の黄身がぷるぷるの白身と合わさった目玉焼きは普段食べているものとは何か違う。
カリカリになったベーコンはふりかけのようでご飯が進むし、ソーセージも肉汁が溢れ、中に入っているハーブの香りが食欲を更に刺激する。
「美味い…」
山盛りだった白米が一瞬にして無くなり少し寂しくなる。
「あ、あの…まし…ろ…さん?いや…えっと…ママ…おかわり…ください」
恥ずかしながらも言うと目を丸くした雪白が変な顔をしてこちらを見ている。
「ママ!!俺もおかわり!!」
「パパうるさい」
ブラックさんが何故か乗ってきたがヒナちゃんに怒られてしまった。
「しばらくオカンとオヤジって呼ぶとか宣言した次の日がこれかぁ…お兄ちゃんキュンとしちゃった」
「いい子に育ったなぁ芝猫!」
右には昨日まで…いやこの世界の俺の話をする兎夜さん。左には寝起きのしろ。後ろには手でポンポンと背中を触る乙歌さん。
なんだこれ?
「中学生になって反抗期で寂しかったのに…ぐすん」
「ほらママ火傷するから」
目の前では茶番をする雪白とヒナちゃん。
「よぉし…今日はパパがみんなの事送っちゃう!準備して車に乗るんだぁ!!」
「わぁい。パパ大好きー」
「帰りもお迎えしちゃう!!」
ノリノリなブラックさんに対して乙歌さんが心の篭ってない一言で送り迎えをしてくれるらしい。
チョロいなぁと思いながらご飯を掻き込み、着替えをして、歯磨きをしてカバンを持つ。
「行ってきます」
真っ黒なデカイ乗用車で学校に着いた。
どうやら俺とヒナちゃんは中学生で先に降ろされた。
しろさん、乙歌さん、兎夜くんは高校生らしい。
「じゃあ帰りは迎え来るから教室居なさいよ」
「へーい。いってらしゃっせーおねえさまー」
「なにそれ。またね」
下駄箱で3年生と掛かれた方に行ったヒナちゃんを見てヒナちゃんが姉なんだろうと察した。
「おはよう芝猫!」
後ろから飛び込んできたのはパスタ。
「パスタァァァァ!!!!頼む!!俺の家の事教えてくれぇぇぇぇ!!!!」
「ええぇぇぇぇぇ?!!!」
…
俺の家族は雪白が母親でレストラン勤務。
ブラックさんが父親で大企業のボスってパスタが言ってた。多分社長って事だろう。
長男しろ。長女乙歌さん。次男兎夜くん。この3人は3つ子らしく全員高校生。
次女ヒナちゃん。俺の1つ上の学年で成績優秀の生徒会長。そして末の三男芝猫だ。
ちなみにパスタの家は柑奈さん父親でブラックさんと同じ会社で働いているらしい。
長女有珠析。兎夜さんと同じクラスで仲もいいらしい。んでパスタ。
パスタが居なかったら俺が年上だと威張り散らかす所だったので助かった。
授業が一通り終わりホームルームが終わった頃にヒナちゃんが廊下に来た。
「ヒナおねぇたん」
「え、なに?きっも…」
普段では見れないドン引きしたヒナちゃんの顔は可愛かった。
ヒナちゃんに付いていくと朝乗った車があり乗り込んだ。
「おかえりぃ我が子たちぃ」
黙ってればカッコイイのになんかが残念なブラックさんがデレデレとした顔をしていた。
そんなデレデレ顔のブラックさんが走らせる車の中でウトウトとしていると先に乗っていた兎夜くんが肩を貸してくれた。
「芝猫〜着いたぞぉ」
身体を揺らされ起きると高そうなレストランが目の前にあった。
「ママの働いてるとこだよ?」
驚いている俺に察した乙歌さんが説明してくれる。
「帰ってからご飯だと遅くなるからみんな揃ってるしたまには外食しよって昨日言ってたじゃん」
すいません。乙歌さん。昨日の俺は聞いても、この俺は聞いてない。
そう思いながら全てが高そうなレストランの中をキョロキョロしながら進む。
高そうなレットカーペットに高そうな大理石の床。大理石のテーブルによく分からないイス。
確かブラックさんが会社のボスだとパスタから聞いたのでこんな高そうなところも余裕なのだろう。
「こちら…リブロースステーキ〜サンチュを添えて〜になります」
運ばれてきた肉と野菜は全てが高そうで正直何を言っているのかすら分からない。
高い。美味い。と脳が思い込んだ辺りで俺の皿にいたエビフライが増えた。
「エビフライが湧いて出てきた…」
「好きでしょ。あげる」
隣に座る乙歌さんがポイポイとエビフライを俺の皿に入れる。
「…エビフライ嫌い?」
「揚げたては嫌いじゃない」
そう言いながら名産品の牛乳と言って出されたのも俺に回ってきた。
「牛乳嫌い?」
「…うん」
「だから身長伸びないんだよ」
「うっさいな!ソースはどこ?!誰が決めた?!狂ってるこの世界!!」
「騒がないの…お姉ちゃん」
「うわ寒気した…急になに」
「おねえさま?」
「わかったもう喋るな」
ほのぼのとした会話をして食事が終わった。
「たまには一家団欒も悪くないね」
しろがそう言って俺を見る。
「そうだな」
また車に乗ると眠気が襲ってきたので次はしろの肩を借りて眠る事にした。




