ブドウのパズルグミ
「さて…チャチャッと終わらせちゃおうか」
そう言いながら雪白さんはメスを取り出す。
「ブラックさん。これはどうしましょ」
特殊捜査課の方々に渡す書類を抱える乙歌さん。
この世界は全員が入れ替えの世界らしいっす。
俺はブラック。
俺が研究棟の副所長に変わりなく、所長は雪白さん。柑奈さんの立ち位置が乙歌さん。
元の世界よりも仕事の進みが早く感動を覚える。
「俺…泣きそうっす…」
「別世界のボクがパン屋だっけ?」
「そうっす」
2人に能力を使ってここに来た説明をするとすんなりと受け入れてくれる。
この世界ではパン屋がしろさん。芝猫くん。柑奈さん。
特殊捜査課が有珠析さん。ヒナさん。兎夜さん。
「しろさんはつまみ食いネズミの2人抱えて大変そうだよね」
乙歌さんは笑いながら言う。
「有珠析はヒナちゃんと兎夜くんに毎回しばかれてるイメージあるけど…そっちはどうなの?」
「…あんま変わらないっす」
「あいつはどこ行っても多分あれなんだろうなぁ」
ここの世界の乙歌さんはなんとなく雪白さんっぽい。
話しているとどちらがどちらか分からなくなる。
「これからお茶会来るし、いつもと違うみんなと会えば楽しいんじゃない?」
投げやりな言葉を吐きながらも雪白さんは少し楽しみそうだ。
「パンのお届けに来まちたにゃ!」
噂をしていると茶トラ柄の猫が背中にリュックを背負ってやってきた。
「にゃにゃ!離すにゃ!降ろすにゃ!しばにゃは高いの怖いのにゃ!にゃにゃにゃ!!!」
可愛いので少し抱き上げるとバタバタと暴れ回る。
「芝猫の宅急便お疲れ様」
バタバタと暴れ回る芝猫さんの首根っこを掴んで床に降ろす雪白さんは溜息混じりにリュックを開ける。
「芝くん!注文の品まだあったんだよぉ」
バタバタと足音をたてながら肩下まで伸びた柑奈さんが走ってきた。
「早く『ごちゅじんしゃま』に会いたくて走ったにゃ」
「気持ちの先走りでご注文の品忘れちゃダメだよぉ」
芝猫さんがちゃんと猫らしい姿に驚きと、柑奈さんのお姉ちゃん感がしっくりきてしまう2つの気持ちで感情が追い付かない。
「芝ちゃん!」
「ごちゅじんしゃまぁぁぁぁぁぁぁぁ」
髪色的には有珠析っぽい紫髪をおさげに縛った背の小さく見た目はロリ…小学生くらいの女の子に芝猫が抱き着きに行った。
「すいません乙歌さん。さっきの言葉訂正するっす」
ジーッと見ていると芝猫さんを顔の前に出して顔を赤らめる有珠析さんに対して、大人しくしている芝猫さんは先程まで嫌がってただろと思う。
「あ、あの…し、しろくん…いつも芝ちゃんありがとね」
「ん。いーよー。こっちも運び役助かってる」
「よ、よかった…」
いつの間にか現れたしろさんはいつものしろさんで安心するなぁと見ていたら目が合った。
「ブラック〜!!久しぶりだな!ちょっと痩せた?」
「…っす」
「お前は可愛いやつだなぁ!!」
頭をぐしゃぐしゃと撫でられた。
「あー…見慣れてるけれど、ここのしろさんは女の子の前では素っ気ないコミュ障って感じだけど、君や他の男の子の前だと兄貴肌って感じだよ」
見兼ねた乙歌さんが助けてくれた。
「ブラックさんが別の人と入れ替わったって言う面白い事聞いたから来たよ!」
飛び跳ねながら言う兎夜さんは少年…いや子どもっぽい。
「全く…有珠析も兎夜も…!」
ヒナさんは長女感がある。
「有珠析!いつも仕事途中にして!!」
「ひぇぇ…ごめんなしゃぁい」
怒るヒナさんに小さな有珠析さんは今にも泣きそうだ。
しばかれてると言う先程の言葉に納得する。
「はいはい…ストップ」
「翔海兄さん!」
ジュースの入ったビニール袋を持って間に割り込むのは翔海さん。
「そのうちパスタも来るよ」
そのビニール袋を俺に渡したかと思うと芝猫さんを抱っこしている有珠析さんを抱っこした。
「もう…兄さんったら!」
「こうでもしないと仕事だって言って構ってくれないだろ?」
嬉しそうな有珠析さんと言うロリは満面の笑みだ。
「翔海さん〜?あんまりうちの有珠析ちゃんを甘やかさないでください!」
頬を膨らませて怒るヒナさんも翔海さんの前だと少しばかり子どもっぽい顔を見せる。
「あー…翔海は特殊捜査課の上官なんだよ」
察しのいい雪白さんが教えてくれるから助かる。
「有珠析の実兄な」
「え?!」
「シスコンだけど、仕事の都合上このお茶会でしか会えないとかであんな感じだよ」
驚きが隠せないままお茶会が始まった。
しろさんたちが作ったパンやお菓子。
雪白さんと乙歌さんが作った塩っぱいおつまみ。
有珠析とヒナさん合作のチョコレート。食べるのが怖い。
翔海さんが買ってきたお茶やジュースが机を埋め尽くす。
「走ったんだけど…ギリアウト?」
見た目に原型のないガタイの良いパスタくんはこのメンバーの中で誰よりも大人っぽく見える。
「遅せぇよ」
「翔海が早すぎんの」
やれやれと言いながら翔海さんとパスタくんは言い合う。
「乙歌お姉様!雪白お姉様!」
子どもっぽく見えるヒナさんはニコニコとしながら2人に抱き着く。
「ヒナも有珠析の事言えないくらい子どもね」
乙歌さんは嬉しそうにヒナさんを抱き締め返す。
「乙歌…ちょ、首締まってる…」
「ごめん!わざと!」
「わざと?!」
雪白さんと乙歌さんがどっちがどっちか分からなくなっている時に芝猫さんが俺の膝へと来た。
「説明ちてやるにゃ。乙歌しゃん、雪白しゃんは双子にゃ。双子の姉は乙歌しゃんにゃ。2人の妹がヒナしゃんにゃ」
滑舌の大変そうな芝猫さんはにゃごにゃごと教えてくれる。
情報網助かる。
「ぱしゅた…ぱしゅーた…ぱしゅ…ぱ!!」
「僕の事呼んだー?」
「呼んでないにゃ。うるぼれるにゃ」
「ツンデレ猫だなぁ…」
多分パスタ君の説明をしてくれようとした途中だったのに滑舌が悪くにゃごにゃごしてたら、本人が来たのだろう。
「僕はパスタ!ラーメン屋だけどパスタだよ」
自己紹介の情報量がすごい。
言っているラーメン屋ってやつは元の世界の有珠析の行きつけだろう。
「あ、そう…なんですね?」
正直この天然ムーブが苦手だったりするが…ガタイがいい分ギャップがあるからまだ許せる。
「別世界ってどんな感じ?!」
「あなたが敵になります」
「ええ?!」
片手で隣に座るしろさんが入れてくれたアールグレイを啜る。
美味い?と言いたげな顔でこちらを見てくるしろさんが子犬のように見える。
「まぁ…この世界の敵はぺぺって言うアザラシだからさ」
「アザラシ?」
「怪獣なんだよね」
能力自体は変わっていないのか?と不思議に思っていると、しろさんが食べた包み紙のゴミを柑奈さんに渡してゴミが消えてゴミ処理係のようになっている。
「あんたはそれでいいんすか?!」
心の声が漏れる。
「あ、えっと…し、しろさんのお役に立てるなら」
頬を少し赤らめて言う柑奈さんを横目にならこれもよろしくと新たにゴミを渡すしろさんの対応の差は酷いなと思う。
「ブラックさん!あじゅが作ったチョコどーぞ!」
有珠析さんがチョコレートを握って言ってきた。
確かヒナさんと2人で作ったと言っていたし、見た目も焦げていたり匂いもしないから大丈夫だろう。
「いただくっす」
1つ摘み口に入れる。
滑らかなチョコレート。
「うっ…」
唾液腺がきゅんとなる酸っぱさに顔を顰め、コーティングのチョコレートが嫌な甘さとなり酸っぱさと喧嘩している。
「これ…何入れたんすか」
「梅干しだよ?」
「料理のセンスがないのは変わらなくて安心したっす」
「そんなぁ?!」
わちゃわちゃと元の世界と重なりつつある。
さて堪能したし、そろそろ元の世界に帰るとするっすかね。
「そろそろ帰るっす」
「また来れるかは知らないけど、またおいでよ」
乙歌さんが手を出してきたので握手をする。
「そのうちまた来るっす!」
手を振ってから能力を使う。




