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お尋ね者たちの晩餐会  作者: 灰兎
19/27

ホワイトチョコのマドレーヌ

コーヒーに紫髪の俺の顔を映る。

湯気と共に流れる午後の優雅な時間。


焼いたパンや菓子を持ち寄って今後についての会議と言う名のお茶会。

特殊捜査課、Rabbit bakeryのみんなが研究棟の給湯室に集まった。


雪白の作った動物イメージのお菓子が机に並ぶ。


「そう言えば、ブラックさんの能力って?」


それは兎夜くんの一言から始まった。


「私の能力はステータス表示だから、みんなの能力も分かるけど…ブラックさんの能力だけよく分からないんだよね」

「能力名は完全無欠の夢世界って言うっす!」


研究棟副所長のブラックの能力は別世界に人を行かせる事が出来る。

代償として別世界に行ったら何かの条件をクリアするまで出られないとか、元の世界に帰りたいと望んだら戻れるとか、行った世界によって元の世界に戻る条件が変わるらしい。


「前に行った世界は男女反転して所長はこのまんまで面白かったっす」


ブラックはわざわざこちらを見て言うので喧嘩売ってる?と声を掛けるがまあまあと柑奈が止める。


「この前柴猫さんとショッピングに行って〜」

「いいねぇ!似合ってる!」


乙歌さんとヒナさんは2人で盛り上がってる。


「…ヒナさんを俺にください」

「ボクの手足でうちのメイドで、ボクの可愛いヒナをお前みたいな猫にはやらん」

「まあまあ…あなた落ち着いて!」


柴猫と雪白としろさんは何を娘を貰いたい彼氏とお父さんとお母さんごっこをやってるんだ?

雪白としろさん逆だろ。


「世界線の分岐で世界が変わっていくんすけど、行く世界は基本的にランダムで〜…」


ブラックは兎夜くんに対して熱弁している。


「行ってみるっすか?」


人が戻れなくなる可能性があるものをそんな軽々しく進めるな…!!と言う前に。


「1回くらい行ってみたいね!」


乙歌さんとヒナさんがいきなり会話に割り込んできた。

2人ってこういう人だった…。


雪白は止めてくれるよな?と視線を送る。

目が合った。


「条件が毎回変わるから戻れなくなったりするから危ないよー?」


さすが雪白…!!


「とは言え…」


とは言え?え、ちょっと?雪白さん?!ねぇ?!!


「みんななら大丈夫でしょ!行こ行こ!」


お前…お前はそういうやつだよな…!!


「えーでもなぁ…」


そうだ!!兎夜くんがいた!!

常識人の君ならガツンと言ってくれるよな?!


「行った世界で私がモテモテだったら戻ってきたくなくなるかもしれない…」


いやそんな事は多分100分の1でもないだろ。

失礼。

なんで行くの前提なんだ??


「…所長。行くの嫌なんですね?」


悟ったのか柑奈が俺を見る。


「え、あず…行きたくないの?」


雪白よ。こんな時ばかり可愛い声と表情をするんじゃない。


「うっ…だ、だって…」

「だって?」

「俺と雪白が別世界で結婚でもしたら絶対戻ってきたくないもん…!!」

「お前も兎夜側なのね…はいはい」

「雪白が嫁…ぐへぐへ」

「ブラックさん。一足先にこいつ飛ばしてー」

「待って待って。ごめんて!!!」


雪白と会話をしていると周りのみんなは笑う。


「んーじゃ。みんな準備はいいっすか?」


そう言ってブラックは小さく深呼吸をする。


「能力…完全無欠の夢世界…」


ブラックがそう言うとみんなの背後に歪んだ空間が現れて吸い込まれる。


「うわああああああああああああ!!!!」


まるで立ったまま動くジェットコースターだ。


…。


「あーじゅ!」


目を瞑ったままでもわかる。

この可愛い声…そしてこの匂いは雪白だ!!


ゆっくりと目を開けると幼いヒナさんが俺の上に乗っていた。


「え、ひ、ヒナさん?!雪白は?!」

「あじゅい…?頭ぶっけたからおかしくなったぁ?」


舌っ足らずな可愛いヒナさんに心が奪われる。


「おいおい、ほんとに大丈夫か?」


しろさん…だよな?

学ランを着てヒナさんを抱っこしているしろさんは多分兄貴設定なんだろう。


この世界線はなんだ?


「えっとー…雪白は?」

「親父…しっかりしてくれよ…」


しろさんに大き過ぎる程のため息を吐かれるのは流石に心が痛む。


「…母さんは3ヶ月前に亡くなっただろ」

「へっ…?」

「いい加減に現実見ろよ」


母さん…?亡くなった…?


「ぱーぱ…だいじょぶ?」


いくら別の世界線と言えど受け入れられない。

幼いヒナさんが俺の頭を撫でるためにしろさんに抱っこされたのにバタバタと暴れて引っ付きに来た。


「ヒーちゃんね。おーきくなったらパパと結婚すうから…頑張ってママになうから…ねっ?」


今にも泣き出しそうなこの子を見て俺がしっかりしなくては…!!と思う。


「とっとと起きて支度しろよ…」


しろさんは言って部屋を出ていった。


「しろさんが…いつもおっとりしたしろさんが…」


ショックを受けていると幼いヒナさんが隣に座って来た。


「しろにーには『シシュンキ』ってやつなんらって!」

「思春期かぁ…学ランだし中学生かぁ」

「ちゅーがくせー!ヒーちゃんもちゅーがくせーなったらシシュンキしてしろにぃにとおそろい?」


中学生の前に小学生だよーとぷにぷにした頬っぺをつつく。


「親父ぃ!!さっさと飯食え!!」

「は、はい!!」


廊下から怒鳴られるのは心臓に悪い。

幼いヒナさんを抱っこしてヒナさんに道案内して貰いながら居間に行こうとしたが、家のチャイムが鳴り玄関へ行く。


「お、おはようございます!しろくんのお迎えに来ました」


青い目が輝く美少女…中学生の乙歌さんだ…。


「おとかねぇね!」

「ヒナちゃーん!おはよう!」

「今ね、にぃにが準備してうからすぐくりゅね!」


そう言ってヒナさんは走って行ってしまった。


「あ、朝からごめんね?」

「いえいえ!あ、これ…お父さんから作り過ぎたからってお裾分けです」


そう言ってまだ温かいタッパーを貰った。


「ありがとうございますっ」


とりあえずタッパーも抱えて居間に行く。


「う。美味そう…」


湯気が立つ真っ白いご飯に味噌汁に焼きジャケ。

普通の中学生が作るにしてはクオリティが高すぎる。


「しろにぃにと行ってきますすう!」

「だから帰りはよろしく」


タッパーでお裾分けを貰ったと言う。


「お礼なら会社で柴猫さんにも言えよ」


釘を刺されたが、柴猫の子供が乙歌さんなんだ…と少し笑いそうになる。


「それじゃあ行ってくる」

「またねぱぱ!!」


行ってらっしゃいと見送りご飯を食べる。

おかしい。

おなかいっぱいだ。

これ俺もおかしいのか…とトイレに入り男性器が生えているのに納得をした。


「出勤ってどこに行けばいいんだ?!」


とりあえずスーツがあったからスーツを着る。


別世界だと俺は死別した雪白が残した兄妹を育てる父親かぁ…。

としみじみ考えていると玄関のチャイムが鳴る。


「お、生きてた!会社行こうぜ!」

「し…しばぁぁぁぁぁ…!!!」

「え?!いつもみたいに小学生か?!って言わない…だと…?どうしたんだよ」


柴猫に話を聞くと俺らはお隣さんらしい。

仕事は…まさかのパン屋でスーツを着替え、パンを焼いたが真っ黒になり、周りからは調子が悪いのだと早退させられた。


「ヒナさんに癒されよ…」


持っていた携帯でヒナさんの通う幼稚園が分かったので早いとは思うが迎えに行く。


「お!ヒナちゃん!パパさんが迎え来たっすよ〜」


この世界線はブラックが幼稚園の先生なのか…。


「またねパスタくん!」

「うん!またねヒーたん!」


準備をしているヒナさんを待っている時に喋ってる男の子がパスタくんだとわかり驚く。


「ぱぱ!今日はしろにぃに『ぶかつどう』だからご飯作らなきゃだよ?」


準備し終わったヒナさんにそう言われて出前じゃダメ?と聞くと幼いヒナさんにため息を吐かれた。


…。


頑張った。頑張ったんだ。

卵焼きは炭となり、唯一できた炊いたご飯も心が残り食べれたもんじゃない。


「ぱぱ今日おかしい」


この世界線の俺は料理ができるらしい。


「じゃあねしろ!」

「またなー」

「おう!またな翔海!ぺぺ!」


あ、しろさん帰ってきた。


「…親父。病院行くか?」


そうだよね。そうなるよね…。


もうやだ…元の世界に帰りたい…。

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