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お尋ね者たちの晩餐会  作者: 灰兎
13/27

アニマルアイシングクッキー

「いやぁ…助かったよ」

「本当にありがとうございますヒナさん」


病院の研究棟の以前より綺麗になった給湯室。

荷物が置かれた3人がけのソファーに合わせるにはアンバランスなそこそこ大きめのテーブルが山盛りのパンたちで埋めつくされている。


「いえいえ。お礼ならご主人様に…あっ!」


渡し損ねたと言っていた紙袋も一緒に渡す。


「所長!キツネのクッキーですよ!可愛い!!」


柑奈さんは紙袋から動物のアイシングクッキーを取り出した。


「相変わらず器用だね…1口ちょーだい」


有珠さんは柑奈さんに向けて口を開ける。


「私のなので嫌です」


目に見えてわかる喜び方をしている柑奈さんはぷいっとそっぽを向いて割れない程度にクッキーを抱きしめる。


「これは…アホほど買ってきたっすね…」

「雪白さんとこのやつですよ」

「よし!よくやったっす」


廊下から今にも死にそうな顔をしたブラックさんが顔を出しては柑奈さんの言葉を聞いて元気になる。


「お疲れですね…」


あまり病院関係の事は知らないが、あまりに大変なんだとは見てわかる。


「そろそろ私は帰ります」

「あ、ちょっと待って」


廊下を出て数メートル先の診察室の前で白い薬袋を渡される。


「ヒナちゃん。運んでくれたお礼にあげるよ」

「怪しい白い粉!」

「これ錠剤だし、誤解産まないで」

「なんの薬ですか?」

「雪白のいつもの痛み止め」

「いつもの?」


やらかしたみたいな顔をする有珠さんの胸元を軽く掴む。


「あーずーりーさんっ」

「ひぇ…」


少しからかってみたらこの反応するのはだいぶ面白い。

ではなく…普段から謎の薬を飲んでいたのは知っていた…

だからこそその正体が痛み止めなのは変だ。


私の知らない能力の代償なのだろうか…


「ヒナちゃん!!掴むなら俺の胸元を!!!」


間に飛び込んできたのはもふもふの毛玉…大きめの猫の姿をした柴猫さんだ。


「柴猫さん?!」


勢いで尻もちをついた私の胸元にいる猫。

人間の姿だったら殴っていたところだが、もふもふで暖かいので許す。


「で?何があったの?」

「とりあえず退こうか…」

「触るな!!シャー」


柴猫さんは持ち上げる有珠さんに声を上げて威嚇をしている。


「離せ!男に抱かれる主義は無い!」


軽々と片手で首根っこを掴み有珠さんはため息をつく。


「はぁ…君さぁ。能力使った代償で意識も獣化して興奮するの…めっちゃめんどくさい」

「はーなーせー!」

「落ち着けって…」


有珠さんはバタバタと暴れる柴猫さんにデコピンを放つ。


「いっっだぁぁぁぁぁぁい!!!!!!」


有珠さんにデコピンをされて人間の姿に戻った柴猫さんは床をバタバタと足を動かしながら悶えている。


「柴猫くんっすね」

「断末魔の叫びが聞こえてましたよ」


心配そうな顔をしたブラックさんと柑奈さんが様子を見に来た。


「もう怒った!!」


そう言って柴猫はまた猫の姿へと姿を変える。

大きさで行ったら虎くらいのサイズだが…顔はまんま猫なので変な感じだ。

能力の代償でまともに獣化できていないのだろう。


「頭と胸の硬い奴にはこうしてやる!!」


勢いよくジャンプをして、もふもふだが鞭のような尻尾を振りかざす。


「食らえ!俺のキャットテール!!」


ダサい。

圧倒的にダサい。弱そう。怖くない。

姿も相まり、これ以外の言葉が出ずに唖然としていると有珠さんの頬に当たる。


「ほう…駄犬ならぬ駄猫め…」


もろに食らったであろう有珠さんはどこからか取り出した注射器とメスをチラつかせる。


「去勢してやる!!!」

「捕まえられるもんならやってみろお医者さまぁ!」

「保健所にぶち込んでやるよ!!!」


ドタバタと朝から元気な事で…と思いながらブラックさんを見る。


「うちの所長が大人気なくてすいませんっす」

「あ、いえいえ…うちのバカ猫も躾がなってなく…」


有珠さんは深夜テンション入ってそうだし、柴猫も代償で興奮しているっぽいし…お互い様かな。


「止めに行きますか…」

「そうっすね」


ブラックさんに連れられて研究棟の中を歩く。

心無しか普通の廊下より長く、暗く、冷たい様な印象がある。


「あの2人…捕まえたらお仕置きが必要っすね…」


穏やかな表情の中、割と腹黒そうなことを言うブラックさんは類友な気がしないでもない。


「あ…ここから先は…」


暫く歩いた先で柑奈さんが少し後ろめたそうな顔をして私の前に立つ。


「このバカ猫!!」

「うっさい!!貧弱ゴリラ!」

「ゴリラはお前だろ!!」

「猫だろ!どう見ても!」


廊下に響く2人の声。


「居ますよね…」


柑奈さんは諦めた顔をしてため息を着く。


「副所長。私もお仕置きします。とりあえず…分解しま_」

「気持ちだけで充分っすから!分解はしないで欲しいっす!」


私の本能が言っている…

この中にまともな人私しか居ない!私がしっかりしなきゃ!


「と、とりあえず…2人を止めてから考えましょ!!」


声がする方へ足を動かしとある部屋にたどり着く。


教室くらいの広さがあり、理科室のような雰囲気の試験管や液に入った標本などが置いてある。

その棚の上に乗っている柴猫と下でメスや注射器を投げる有珠さん。

床には2人が争ったであろうガラスの破片なりが散乱している。


「はぁ…やっぱり分解お願いしてもいいっすか?」

「もちろんです」

「落ち着いてください!!」


ブラックさんと柑奈さんが大きなため息をついで物騒なことを言い出した。


「被検体は有珠析だけで解決するっすよね」

「所長って能力強めだし…きっと余裕ですね」

「怖いから!本当に落ち着いてください」


2人を宥めていると深夜テンションと能力の代償でおかしくなっている2人がバタバタと攻撃しあっている。


「ちんこ!ちんこ!」

「うるせぇ童貞猫!」

「ど、童貞じゃねぇし!!この包茎ちんこ!!」

「そもそもねぇよバカ!」

「え?ないの?」

「セクハラだ降りてこい半殺しにしてやる」


下ネタで喧嘩すんな小学生か!!


「下ネタで喧嘩すんな小学生か!!」


心の叫びと口から出た言葉がまるっきり一緒で自分にさえ呆れが出てきた。


虎に近い大きさの猫は棚の上を飛び回る。


「あ、おい!そっちは…」


有珠さんが声を掛けるが既に遅く、クローゼットのような棚の上に乗った衝撃でドアが開いた。

と、同時に柴猫は目を回して倒れ込んでいる。


「これは…まずいっすね」

「なんで鍵かけてないの…」


焦るブラックさんに対して冷静に柑奈さんが着けていた手袋を片方外した時…。


「赤い傷…」


クローゼットから出てきたのは白いモサモサ頭の細身の少年。

目は右が青、左が赤のオッドアイ。

赤い目の下にはホクロがあり幼くも見える印象だ。


「最初から『いつもみたいに』分解してればよかったじゃないですか…!」


有珠さんが先程アホほど投げたメスで少年は片手を刺し、柑奈さんには同様の手から血が流れる。


「柑奈…!!翔海(かける)も落ち着け!!」

「今の現状は所長と柴猫が生み出したんすけど…」


経緯は理解した。

この少年は自分に付けた傷を人にもつけることができることと、実験棟でナニカをしていること。

今…私がすべき事は…。


「能力…透明化」


私の能力を使うこと。


「起きて早々…今は血が足りないからそんな動けないんだけど」


ブツブツと何かを言っているうちにみんなを透明化させた。


「あれ?居なくなってる…夢?だったら手痛いんだけど…」


能力で目を回している柴猫を掴み、有珠さんの手を引いて部屋から出る。


「透明化の能力向上してるのすごいじゃん。特訓でもしたの?」

「そんな事話してないであの人どうにかしてくださいよ!」


廊下に出て曲がり角で部屋の様子を伺いながら感心する有珠さんに言う。


「有珠析先生が起こしたって事は…好きにしていいってことだよね!」


少年はフラフラと斜めに手から血を垂らしながら歩く。


「あの状態で話は通じなさそうっすね…」

「えー痛いのやだよー」

「能力で治せるっすよね?」


ニコニコとしながら悪意のある言い方をするブラックさんに恐怖を覚えながらも柑奈さんを見る。


「所長が囮になってくれるらしいですよ!」


シレッと擦り付けたなこの人。

まぁ…元凶が有珠さんだし…因果応報ってことで手を打とう。


「え、ちょっ…待って?!」

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