知らずにカニバリズム
仲間がドラム缶一杯の毒薬を手に入れた、これで国王様に直訴できる。
国王様は短気な性格、直訴に失敗したら殺されるだろう。
私たち大人だけで無く直訴を行った者の家族全員の処刑。
だから直訴に向かう者たちやその家族は皆、毒薬を持つ。
数年前から不作続きなのに、年貢は数年前と変わらない量を要求されている。
昨年までは自分たちが食べる量を減らし何とか年貢を納める事ができた、だが今年はもう無理だ。
年貢どころか自分たちが食べる量さえ確保出来ない程の不作。
私たち百姓の代表約100人は王都に向けて歩く。
だが、王都の手前で軍に阻まれ追い散らされた。
もう駄目だ、直訴も出来ないのなら百姓は皆、毒を飲んで死ぬだけだ。
追い返された以上もう救いは無い。
そう思っていたのに、帰り道、王妹殿下が私たちを追って来て話を聞いてくださった。
「兄上に今年の年貢の取り立てを中止するよう私から伝えておこう。
ただ、確約は出来ない。
その代わり王家所有の牧場から連れて来た豚約100頭を下賜する」
王妹殿下はそう言ってくださり、豚を102頭下賜してくださった。
私たち死を覚悟して直訴に向かった百姓は皆、王妹殿下に何かがあったら王妹殿下の力になろうと誓う。
豚は全て屠ってスープにし、代表となった私たちと死ぬ覚悟をしていた百姓全員で頂く。
王家所有の牧場で育てられた豚だけあって、私たちが知る肋骨が浮き出た小さな豚と違い、丸々と太った大きな豚。
102頭の豚のうちの2頭は丸々と太っているだけで無く、王様のペットだったのか二足歩行するように訓練されていた。
二足歩行の豚は他の豚より暴れ、屠るのに少々手間取ったが何とか屠り大鍋に放り込んだ。
百姓たちが豚のスープに舌鼓をうっている頃、王妹殿下は腹心の部下からの報告を聞いていた。
「例の婆とガキは百姓たちの腹の中に収まりました。
あと殿下が事を起こせば、あの百姓たちは殿下の下に馳せ参ずるでしょう」
「そうか。
邪魔者共を消したから、後は兄上がサッサとくたばるのを待つか、それとも事を起こすか策を練ろう」
その頃王都では、王が行方不明となった王妃と1人娘の王女を探して王都中を駆けずり回っていた。