ギルド②
「で、でも本当なんですか?」
恥ずかしそうに紅茶を拭きながら、アレクに問いかけるクレア。
「本当にアレクさん。れ、レベル9999なんですか?」
「どんなモノでもレベル9999にするっていう力に目覚めたんで、はい」
「は、はぁ。どんなモノでもレベル9999に。ですか」
にわかには信じられないといった様子のクレア。
紅茶を拭き終わり。
それを吹いた布を奥へと持って行きーー
「で、ではこれで確認させてもらっても大丈夫ですか?」
クレアは、水晶玉を手に戻ってくる。
「いいですよ」
「で、では。手をかざしてみてください。この水晶はレベル100まで測れる計測機ですので」
ごくりと唾を飲む、クレア。
アレクは言われた通りに手のひらをかざす。
瞬間。
パリンッ
という音と共に水晶玉に亀裂が走り粉砕。
そしてそのままサラサラと砂になりーー
クレアの目を点にしてしまう。
「すみません。まだ力の制御がうまくなくて」
申し訳なそうに頭をさげる、アレク。
「でもこれで。信じてもらえますか?」
「は、はい」
砂をかき集めながら、クレアは高鳴る鼓動を抑える。
そして、意を決しアレクに思いを伝えた。
「あッ、あの!!」
「はい」
「も、もしよろしければこのギルドに。そ、その。アレクさんの力をお貸し願いませんか?」
「はい、いいですよ」
アレクは即答する。
「えっ、いいんですか?」
「勇者を倒したおかげで"魔王の手先"って怖がられてしまって大変なんです。ついこの間まで最弱って罵ってた癖に。いい加減にしてほしいもんですね」
「か、カイトさんを倒しちゃったんですか? あのレベル98の勇者様を? あっ、でも。レベル9999ならできちゃいますよね。は、ははは」
次から次へと出てくるアレクのパワーワード。
それにクレアはついていくだけで精一杯だった。
「じゃあ、クレアさん。登録お願いします」
「こ、これからお願いします」
「こちらこそ」
こうしてアレクはギルドへの登録を完了した。
そして、すぐに。
「よし。クレアさん、俺に早速クエストを紹介してください」
「は、はい」
そして、数分後。
「こ、これなんていかがでしょうか?」
「クエストレベル95。深海の主、バハムートの捕獲。
クエストレベル92。火山の龍、サラマンダーの討伐。
それとレベル96の迷宮探索。その他、諸々」
「あ、アレクさんのレベルに不釣り合いで申し訳ありません」
「大丈夫です。全部、任せてください」」
「ぜ、全部。ですか?」
「はい。全部でお願いします」
にこやかなアレク。
その表情は余裕に満ちている。
そんなアレクにクレアもまたにこやかに応えた。
動揺を押し殺し、努めて笑顔で。
「かかか…かしこまりました。では、クエスト受注の流れをーー」
ご説明いたしますね。
そう言い終える前に、アレクは声を響かせた。
「クレアさんが立ち会えばいいじゃないですか」
「へ?」
「俺のクエスト達成の瞬間に」
「わ、わたしがですか?」
「ギルドマスターが立ち会えばめんどうな達成証明をしなくても済みますよ」
そう提案し、椅子から立ち上がるアレク。
クレアは同意しつつも、困惑してしまう。
「確かにそうですけど。ど、どうやって?」
「俺に任せてください。とりあえず、外に出ましょクレアさん」
「は、はぁ」
アレクに言われるがまま、クレアは椅子から立ち上がる。
その顔は未だに困惑している。
それを確認し、扉へと向かうアレク。
クレアもそれに続く。
そして、二人揃って外に出た瞬間。
「クレアさん。少し我慢してくださいね」
そんな声と共に。
「えっ。あああ、アレクさん!?」
クレアはアレクにお姫さまだっこをされる。
顔を真っ赤にする、クレア。
そしてーー
「羽のように軽いです、クレアさん。さて、少し寄り道してから行きます。クレアさんの身の安全を考えて、とっておきの仲間を連れていきますので」
そう声をかけ、マリア・ルリ・マリが待機している宿屋のほうに身体を向けるアレク。
そのアレクの言葉に、クレアは反応を示す。
「アレクさん。そ、そのもしかして歩いていくんですか? こ、この格好で」
「それもいいですね」
「えっ。あっ、あのぉ。わ、わたしも嫌ではないのですが。お姫さまだっこはちいさい頃からの夢でしたので。で、でも。その、やっぱり恥ずかしいです」
満更でもない、クレア。
恥ずかしがるその姿はギルドマスターではなく乙女そのもの。
アレクは笑い、言葉を続けた。
「冗談ですよ。こうやってーー」
「へ?」
「行きます」
アレクは軽く跳躍。
「ふぇっ!?」
「すぐにつきますよ。後、三秒くらいで」
宿屋の方向。
そこに向け、アレクはクレア共に飛んで行った。
そして、言葉通りの三秒後。
「着きましたよ」
「はぁはぁ。あ、ありがとうございます」
レベル9999の凄まじさ。
それを感じつつ、クレアは息を整える。
「おーいッ、みんな!! 初クエストに出発するぞ!!」
響くアレクの声。
それと呼応し、マリア・ルリ・マリはアレクの元へとやってくる。