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ギルド①

ギルダークの完全なる死。

それを見送り、アレクは声を響かせた。


「終わったぞ、マリア」


そのアレクの声。

それに応え、マリアは恐る恐る岩の陰から顔を覗かせる。


「お疲れ様です。アレク様」


「あぁ、お疲れ」


「お、お怪我はございませんか?」


「大丈夫。ただ"死ね"って言われただけだからな」


「それは良かったです。や、やはりレベル9999ともなるとあらゆる耐久もケタ違いなのですね。流石でございます」


"任意の相手に絶対的な死を与える"ーー即死という名の禁忌の力。

それを受けても顔色ひとつ変えない、アレク。


その姿は紛れもなく最強そのもの。


「さて、どうしたものか」


「と申しますと」


「この村を拠点にしようと思ってたんだが、できそうにもないな」


「え、えぇ」


「にしても。このタイミングで禁忌の力持ちが現れるとはな」


マリアの側。

そこに歩み寄り、アレクは眉をひそめる。


「これならまだまだ出てきそうだな」


「は、はい。勇者を倒した反動で世界の抑止が働いたやもしれません」


「抑止?」


聞き慣れない単語。

それにアレクは小首を傾げる。


マリアはそれに応える。


「抑止。目に見えぬ世界の防衛意識。最強というモノを許さない神々の意思のことです」


天を見上げ、震えるマリア。

しかし、アレクは震えない。


「抑止、か」


マリアと同じく天を見上げ、アレクは淡々と呟く。

その表情には畏れなど欠片もない。


「とりあえず、街に戻るか。この村のことを伝える必要もあるしな」


「仰る通り」


頷き、アレクはマリアの前に膝をつく。


そしてーー


「帰りはこっちで帰るぞ」


「えっ。おんぶ、ですか?」


恥ずかしがる、マリア。

そのマリアにアレクは続ける。


「こっちのほうがバランスがとれて着地が安定するんだ。ほら、はやく」


「で、ですが。む、胸が」


「ん。なにか言ったか?」


「い、いえ。なにも」


マリアは赤面し、アレクの背に身を預ける。


むにっ。


アレクの背にあたるマリアの胸の感触。

だが、アレクは反応を示さない。


「よし、いくぞ」


「は、はい」


声を残し、跳躍するアレク。


その姿。

それを村の入り口から見上げる一人の少女が居た。


フードで顔を隠している為、顔は見えない。

しかしそこから垣間見える口元は楽しそうに笑っていた。


〜〜〜


「はぁ、仕事がない」


廃れたギルドハウス。

その受付で、ギルドマスターのクレアは深いため息を漏らしていた。


"「こんなギルドおさらばだ」"


"「くだらねぇ仕事しかねぇもんな」"


今までそうやってギルドに属していたメンバーたちがここを見捨てて去っていった。


そのおかげで仕事の受注が段々減っていき、今や0に近い。

このままだといずれギルド閉鎖も現実味を帯びてくる。


それを避ける為にはーー


「はぁ。レベル90相当のクエストを一回でもこのギルドで達成できればな」


カウンターテーブルに突っ伏し、クレアは呟く。

だが現実はそうは甘くない。


「でもレベル90っていえば勇者レベルの方だもんな。そんな冒険家が都合よくうちのギルドに来るわけーー」


ガチャッ


「すみません。ここまだやってますか? みんなに怖がられて門前払いされちゃいまして」


響いたその声。

それにクレアは興奮の声を返す。


「あッ、はい!! やってますよ!! クエストのご依頼ですか!?」


勢いよくカウンター越しに立ち上がる、クレア。

その反動で薄縁眼鏡が少しずれたのはご愛敬。


「それともギルド登録をご希望ですか!? どッ、どちらも大歓迎ですのでどうぞおかけになってください!!」


花のような笑顔。

それを浮かべ、クレアはアレクを歓迎する。


「あっ、はい。ではお言葉に甘えて」


「今、飲み物をお出しいたしますね」


「これはこれはどうも御親切に」


ペコリと頭を下げ、アレクは目の前の椅子に腰を下ろす。

その椅子の前には丸いテーブルが置かれていた。


鼻唄と共に奥に下がる、クレア。

そして、すぐに木製のおぼんを手にアレクの元へとやってきた。


「お待たせしました」


湯気をあげるカップ。

それをアレクの前と自分の前に置き、クレアはアレクの対面に座る。


そしてーー


「わたしはここのギルドのマスター。名前はクレアって言います」


にこりと笑う、クレア。

その緑髪の整った顔の女性にアレクもまた自己紹介をした。


「俺はアレク。よろしくお願いします」


「アレク? うーん、どこかで聞いたような……あっ、あの最弱のアレクさんですか?」


思い出し。

しかし、クレアは気に止めない。


「あの勇者様(カイト)のお供でした方ですよね? 知ってます、わたし」


くすりと笑う、クレア。

その笑いに悪意はない。


「でもあれってご冗談ですよね。仮にも勇者様とパーティー組んでおられたアレクさんが最弱だなんて、あり得ないです」


出された、紅茶。

それを一口飲み、アレクは応えた。


「クレアさんがはじめてですよ」


「はじめて?」


「はい。小馬鹿にしないで"最弱はあり得ない"ってフォローしてくれたのは」


「えっ。そうなんですか?」


意外そうに声を発し、小首を傾げたクレア。

その仕草にアレクは安心感を覚える。


「うーん。普通に考えたらそう思うはずなんだけどな」


そう言い。

優雅に、クレアは紅茶に口をつける。


「でも俺がレベル9999になった途端。みんな怖がってしまって大変なんですよ、ははは」


「くすくす、当たり前です。レベル9999になったら誰だって怖いですよ」


澄ました表情。

それをたたえ、再び紅茶を口に含むクレア。


しかし。


ん? レベル9999?

おかしいですね。この世界の最高レベルは100だった気が。


刹那。


「ぶはぁっ!! けほっけほっ!!」


横に顔を向け。

盛大に紅茶を吹き出し、クレアは思い切りむせる。


そしてーー


「れれれ、レベル9999? ああああ、アレクさんがですか!?」


取り乱し、顔を紅潮させるクレア。

その姿はどこか可愛いらしい。

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