レベル9999④
***
男の名はギルダーク。
レベルは26。
「死ね」
その一言であらゆるモノに絶対的な死を与える。
そんな力に目覚めた男は、その日。
「働いてよ」
「いい歳だろ」
そう言って、自分を心配した村への鬱憤を晴らした。
働かざるものは食うべからず。
そんな古臭い言葉で説教を垂れてきた家族。
お前の為にならない。
そうやって自分を叱った村長。
そしてそれを聞き、本気で自分と向き合った村人たち。
その全員を。
「あーっ、すっきりした」
ためらわず、男は皆殺しにした。
そして男は、声を響かせた。
「俺は最強だ。手始めにここに来る勇者でも倒してみるか」
勝ち誇った声。
それを愉しそうに響かせながら。
***
「ちょっと出てくる。昼にはもどる」
そんな言葉を残し、アレクはマリアと共に宿屋の部屋を出た。
目的地は辺境の村。
その訳は、昨夜話した内容が原因だった。
"「拠点は長閑なところがいい。マリア、どこかいい場所知ってるか?」"
"「で、でしたら。辺境に位置する村はいかがでしょうか? 自然が多く、アレク様のご希望に添えることができるかもしれません。勇者もいずれ、村ごと買い取ると仰っておりました」"
"「辺境の村か。よし、明日。行ってみるか。マリア、案内してくれ。あっ、それと。様はつけなくていいぞ。俺の性に合わないからな」"
そんな会話を思いだし、アレクとマリアは宿屋の外に到着。
その二人の姿。
それをルリとマリは窓を開けて見送る。
「いっ、いってらっしゃいませ」
「おう。いってくる」
「い、いってきますね」
朗らかな笑顔のアレク。
引きつった笑顔のマリア。
「さて、マリア。村の方向はどっちだ」
「あ、あちらですわ」
「よし、あっちだな。掴まれ、マリア」
マリアに手のひらを差し出す、アレク。
マリアはきょとんとする。
「えっ。そ、その歩いていくのではないのですか?」
「歩く? 跳んでいくに決まってるだろ?」
「と、跳んでーーきゃっ」
マリアの身体。
それを抱きかかえ、アレクは有無を言わせず跳躍。
その光景。
それにーー
「さ、流石」
「レベル9999」
ルリとマリはそう声を発し、目をぱちくりとさせた。
***
跳躍して、約数分後。
ドゴォォン!!
「着いたぞ」
「はぁはぁ。す、凄まじいですわね」
村の入り口。
そこから少し離れた位置。
そこに、アレクは着地した。
クレーターをつくり、轟音を響かせながら。
「時に、マリア」
「は、はい」
「もし。マリアがレベル9999になったらどんな回復魔法を使えるんだろうな」
「皆目、見当もつきませんわ」
「そっか、気になるな」
そうこうしているうちに、二人は村に到着。
そこでアレクはみてしまう。
「は? なんだ、これ」
漏れるアレクの声。
「こ、これは」
息を飲む、マリア。
そしてーー
「ようこそッ、待っていたよ!!」
そんな愉しそうな男の声。
それが、アレクとマリアの耳に入ってきた。
村に足を踏み入れ。
惨状を見渡し、アレクは声を響かせる。
「お前がやったのか?」
「あぁッ、そうさ!! なにか文句でもーーッ」
あるのかい?
そう男が言い終える前に。
アレクは、音を置き去りにしギルダークの眼前で拳を振り上げていた。
目を見開き、ギルダークは「えっ」と声を漏らす。
その声を聞き、アレクは声を溢す。
わざと拳を外しーー
「次は当てるぞ」
怒気のこもった声。
それを響かせながら。
だが、ギルダークは嗤う。
「は、ははは!! 速さだけは大したモンだな!!」
「あぁ、そうだな」
淡々と呟く、アレク。
だがその眼光は鋭い。
「だがッ、これでお前は終わりだ!! わざと攻撃を外し強者ぶりやがって!!」
「あぁ、そうだな」
「しかし、お前はもう終わりだ。この俺の怒りを買っちまったからな」
勝ち誇り。
ギルダークは己の力を行使する。
眼前に佇む、身の程知らずの男。
その愚かな存在に対し、即死という名の最強の力を。
アレクはしかし、「戯言はいい。さっさとやってみろ」そう声を発し、ギルダークの力をその身に受けようとする。
「その為にわざと外してやったんだからな」
「……ッ」
ギルダークは歯を食いしばりーー
「死ね」
と、アレクに力を行使する。
だが返ってきたのは、「ん。なにか言ったか?」そんなアレクの声。
汗を滲ませる、ギルダーク。
その体は小刻みに震えている。
「こないならこっちから行くぞ」
再び、拳を固めるアレク。
「しッ、死ね!! 死ね、死ね。死ねぇ!!」
叫び。
ギルダークは後ずさりをはじめる。
その姿に、アレクはあきれ声を響かせた。
「それがあんたの力か? はぁ…死ねって言うだけならガキでもできるだろ」
「だ、黙れ!! 俺の即死の力は最強だ!!」
その声にマリアは反応する。
「そ、即死の力?」
「ん? 知ってんのか、マリア」
「え、えぇ。任意の相手に絶対的な死を与える、失われた禁忌の力ですわ」
「へぇ、そうか。すごいな、お前」
尻もちをついた、ギルダーク。
その姿を見下ろし、アレクは瞳孔を開き賞賛する。
勿論、その目は一切笑っていない。
「その力でみんなやったのか?」
「うッ、うるさい!! さっさと死ね!!」
「よし。マリアッ、少し離れてくれ!!」
マリアを仰ぎ見、アレクは声を響かせる。
その忠告に従う、マリア。
小走りでアレクとギルダークから距離を置き、マリアは大きな岩の陰にその身を隠し蹲る。
そして頭を抱え、カイトを一撃で粉砕したレベル9999の拳を思い出しーー
「き、禁忌の力など。レベル9999に通用するはずがないですわ」
そう震え声を発し、マリアは圧倒的な拳の振動に備える。
それを確認し、アレクは身を屈めた。
そしてーー
「空中で葬ってやる」
そう声を発し、アレクはギルダークの胸ぐらを掴む。
「はッ、離せ!!」
「すぐに離してやる」
ギルダークを掴みあげ、アレクはその身体を空へと放り投げる。
思い切り。それこそ、躊躇いもなく。
「ぐげごぎぃッ」
空気の摩擦。
それにより炎に包まれていく、ギルダーク。
それを見つめ、アレクは更に追い打ちをかける。
手のひらをかざし。
「火球(レベル9999)」
レベル9999のファイアーボール。
それを、アレクはギルダークに向けて情け容赦なく撃ち放った。
そして、数秒後。
「ぐぎゃあッ!!」
そんな滑稽な断末魔と共に。
ドーンッ
という、ギルダークの爆ぜる音。
それが遥か彼方まで轟いたのであった。