メイリン②
その展開。
それにしかし、メイリンはなおも食い下がる。
「アレクさん。な、なにを言っているんですか? は、ははは。冗談はやめてくださいよ」
冷や汗。
それを滲ませ、アレクに微笑むメイリン。
「そ、それに。ルリさんとマリさんまでどうしちゃったんですか? ほ、ほら。わたしが本物ですよ」
臨戦態勢のルリとマリ。
そして、「それにしてもよく化けたな。鼠の時は全然わからなかったぞ」そんな声を発し、こちらも拳を鳴らすアレク。
「で、なんの用だ? あんたたちの長--クリスさんからの命令か?」
しかし、メイリンは応えない。
「く、クリスさん? わ、わたしがクリスさんの命令なんて受けるはずないじゃないですか。わたしはクレア。このギルドの--」
刹那。
「クレアさん。この書類の不備に関してですが」
「クレア~~。お腹減ったぁ」
カウンターの奥。
そこから姿を現す、マリアとパンドラ。
そして。
「ってあれ? クレアが二人!? ど、どうなってんのこれ!?」
案の定。
パンドラはいつもと同じようにオーバーリアクションを晒し、興奮。
そんなパンドラの頭。
それを優しく撫でつつ、冷静に二人のクレアを見据えるマリア。
そして、一言。
「パンドラさん。どちらが本物のクレアさんかお分かりになられますか?」
その問いかけ。
それにパンドラは、「も、勿論よ」と明らかに動揺しながら応え、頷く。
「わ、わたしとクレアの仲よ? わわわ。わからないわけないじゃない」
「ですわよね。では、パンドラさん」
「ま、任せなさい。このわたしがビシッと当ててみせるわ」
緊迫した雰囲気。
その中にいつもの調子で割り込む、パンドラ。
その姿。
それに人狼少女は可愛く檄を飛ばつつ、自らも二人のクレアに駆け寄る。
「がんばれっ、パンドラ!! 臭いを嗅げばすぐにわかる!!」
くんくん。
メイリンに鼻をつけ。
くんくん。
クレアに鼻をつける、人狼少女。
しかし--
「むむむ。両方ともいい匂い」
そう言って困惑し、頬を紅潮させる始末。
そんな人狼少女にかかる、ソシアの声。
「お犬さん、お犬さん」
「くうーん」
差し出されたソシアの小さな手のひら。
それに優しくお手をし、お座りをする人狼少女。
そこにエリスとアリスも可愛らしく割り込む。
「わー。わたしにもお手してほしいなぁ」
「わたしもわたしも」
人狼少女。
その周りにたむろし、ほんわかな雰囲気を醸す面々。
そんな光景。
それに、アレクとルリ、マリの険しい表情も解かれてしまう。
だが、パンドラだけは至って真剣。
「ぐぬぬぬ。見れば見るほど、そっくりね」
メイリンとクレア。
その前を行ったり来たりし、小難しい顔を晒すパンドラ。
そんなパンドラの姿。
それを見つめ、クレアはうるうると瞳を潤ませる。
「ぱ、パンドラさぁん。わたしが本物のクレアです。し、信じてください」
そのクレアの言葉。
しかしパンドラは腕組みをし--
「泣き脅し? ふんッ、その手には乗らないわよ!! 残念だったわねッ、この偽者さん!! わたしとクレアとの絆ッ、そして愛!! それを舐めないでくれる!?」
などと勝ち誇り、自信たっぷりにメイリンに抱きつくパンドラ。
「こっちが本物よ!! ふふふっ、流石わたしね。まっ、でも? あんたもうまく化けたわね。たったの数秒でもわたしを考えさせたこと。それは賞賛に値するわ」
「パンドラっ。えらい」
楽しそうなパンドラ。
それにソシアもまたよくわからず、はしゃぐ。
そのソシアの反応。
それに、人狼少女とエリスとアリスもつられてパンドラを褒める。
「賢いパンドラ」
「さっすがパンドラさんだね、お姉ちゃん」
「うん。わたしたちも見習わなきゃ」
だが、アレクとマリア。
そしてルリ、マリはそれぞれ視線を混じ合わせ、「やっぱりな」という風に溜息。
「パンドラさんっ。し、信じてたのにひどいです!!」
可愛い泣き顔。
それをもって、パンドラに落胆するクレア。
しかし、パンドラは意に介さない。
「ふーん、だ。そんな演技にこのパンドラ様は引っかからないわよ!! そろそろ元に戻ったらぁ? 見苦しいったらありゃしない」
鼻で笑い。
「貴女もはやくその偽者さんから離れなさい。なにされるかわからないわよ?」
クレアに抱っこされたままのソシア。
それに対して、パンドラは忠告する。
だが、ソシアは離れない。
いや--
「でもね、パンドラ。さっきアレクが言ってたんだ」
ぎゅっとクレアに抱きつき。
「あっちのクレアのことをメイリンだって」
刹那。
「パンドラ、おしい。確率二分の一で外しちゃった」
「ふふふ。パンドラさんのドヤ顔。いつ見ても楽しいね、お姉ちゃん」
「うん。楽しいね」
人狼少女。そして、エリスとアリスは早速手のひら返し。
当然。
「……っ」
先程までの勢い。
それを無くし、顔面蒼白になるパンドラ。
そして苦し紛れに。
「や、やっぱりね。わわわ。わたしもそうだと思ってたのよ。は、ははは」
そう声を発し、パンドラはメイリンから離れる。
その表情。
それはまるで、正解だと思っていた解答。
それが全くの誤りだと指摘された、出来の悪い生徒そのもの。
そんなパンドラに。
しかし、クレアは怒ることはない。
だが--
「み、3日間。おやつ抜きです。パンドラさん」
涙目でそう宣告する、クレア。
それにパンドラはこの世の終わりのような表情を晒し、「そ、そんなぁ」と、可愛くその場にうなだれる。




