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メイリン①

そんな楽しそうな三人の輪。

それにアレクもまた、加わる。


「ポチ子か。俺は中々いいと思うけどな」


「ぽち子。かわいい」


二人揃って笑う、アレクとソシア。

その表情。

それはまるで、ペットと戯れる父と子のようで温かで微笑ましい。


だが、人狼少女は頬を紅潮。


「ぐ、ぐるるる。どうせならフェンリルとかケルベロスとか。かっこいい名前がいい」


自らの獣耳。

それをしおらしくたたみ、懇願の眼差しを皆に向ける人狼少女。


その人狼少女の愛らしい姿。

それに、クレアは新たに名前を考える。


そして。


「エリスさんとアリスさんはどんな名前がいいと思いますか?」


アレクの側。

そこに駆け寄り、うっとりしている二人の姉妹。

その乙女たちにクレアは問いかけた。


しかし、二人はそれどころではない。


「お兄ちゃん。今日も一段と素敵です」


「今日のお昼寝。わたしたちと一緒のベッドでとりませんか? お兄ちゃん」


ぎゅっ。


左右からアレクを抱きしめ、色っぽい上目遣いをするエリスとアリス。


その光景。

それに、ソシアもまた喜ぶ。


「ソシアも。アレクとクレアと一緒におねんねしたい」


アレクとおねんね。


その言葉。

それにクレアは赤面。


「あ、アレクさんと一緒のベッド」


視線の先のアレク。

それを見つめ、クレアは胸を高鳴らせる。


そして。


"「あ、アレクさんなら。きっと優しく--」"


だが、そこに。


「ははは。なら、みんな一緒に寝ようか?」


爽やかに響くアレクの声。


「ポチ子も一緒にどうだ? みんな仲良く。雑魚寝といこう」


「く、くうーん。あ、アレク? わたしの名前。ポチ子で決まりなの?」


悲しげな人狼少女。


その涙目。

それに、アレクは--


「冗談、冗談。自分の名前は自分で決めたほうがいいな、やっぱり」


そう頷き、人狼少女の命名。

それを人狼少女自身に託す、アレク。


そんなアレクの言葉。

それに面々は同意。


そして。


「ことりさんのお名前も。ことりさんにきめてもらう」


嬉しそうなソシアの声。

それに、アレクは優しく問いかける。


「小鳥さん? なんだ、ソシア。小鳥さんが居たのか?」


「うん、居たよ。ことりさん。とってもあたたかかった。それでね。ぱたぱたって飛んでいっちゃったの」


楽しそうに。

小鳥が飛んでいった方向を見つめる、ソシア。


その方向。


そこへとアレクは視線を向け--


「小鳥さんか。俺も見てみたいな」


そう声を発し、戸棚のほうへと歩み寄っていくアレク。


刹那。


「ちゅ。ちゅー」


そんな鳴き声と共に。


一匹の茶毛の子鼠メイリン

その可愛らしい姿が、戸棚の陰から素早く疾走。


その様。


それはまるで、アレクから距離を置こうと必死になっているようでもある。


「おっ。小鳥じゃなくて子鼠が出てきたぞ」


「子鼠さんに小鳥さん。ふふふ。今日はなんだか、かわいい訪問者がたくさんですね」


アレクの声。

それに、クレアは微笑む。


だが、ルリとマリは目の色を変え手のひらをかざす。


そして。


「ネズミっ。きらい!!」


「逃がすな!!」


そう叫び、瞳を潤ませ魔法を放とうとした。

膨れ上がる、赤と青の魔力。

ふわりと舞い上がる、二人のローブ。


そしてそれを止める、エリスとアリス。


「落ち着いてください」


「ルリさんに。マリさん」


ルリとマリの背後。

そこへ回り込んで抱きつき、エリスとアリスは二人を落ち着かせようとした。


しかし、二人は止まらない。


「きらいなモノはきらい!!」


「ネズミに齧られた書物の恨み。それは決して消えるものではない!!」


二人は興奮。

それに人狼少女もまた二人を落ち着かせようと必死になる。


「ルリ、マリ」


二人の眼前。

そこに躍り出、お座りをする人狼少女。


そして。


「あの小さな命に罪はない。代わりにわたしをよしよししてあげて」


そう声を発し、人狼少女は尻尾を振り二人に頭を下げた。

その様。

それにルリとマリは、平静を取り戻す。


「ごめんなさい。つい」


「ネズミさんにむかし。大切にしてた本を齧られたんだ。それで」


人狼少女。

その温かな頬を撫で、謝罪を述べる二人。


その二人の申し訳なそうな姿。

それに人狼少女はその身を擦り付け、甘える。


「ルリとマリ。撫でるの上手」


そんな人狼少女の言葉。


それにエリスとアリスも反応。


「ルリさんにマリさん。魔法の他にもそんな才能があったんですね」


「羨ましいです。わたしたちも撫でてほしいな」


ぎゅっ。


ルリとマリ。

その二人の魔法使いを優しく抱きしめる、エリスとアリス。


その光景。

それはまるで、しっかり者の姉を慕う幼い妹たちのよう。


そして仄かに照れ、すっかり怒りをおさめたルリとマリ。


二人揃って笑い合い。


「怒っても仕方ない」


「うん。怒るだけ無駄」


そう言い合い、ルリとマリは魔力を収めた。

そんな温かでほんわかとした五人の雰囲気。


それを見送り、アレクは思いつく。


「そうだ、ルリとマリ」


声をあげ。


「あの子鼠も撫でみたらどうだ? 喜んでくれると思うぞ」


そう提案し--


お尻をこちらに向け、懸命に疾走する子ネズミを見つめるアレク。


そのアレクの提案。

それに、クレアとソシアは同意。


「子鼠さんも。ルリさんとマリさんのことを大好きになってくれますよ、きっと」


「子ねずみさんもことりさんも。みんな。おともだち」


「ルリ、マリ。どうする? 無理強いはしないぞ」


優しく笑い。

二人の返答。

それを待つ、アレク。


そして。


「うん。撫でてあげたい」


「だから、その。子鼠さんをここに」


照れ臭そうに、ルリとマリは手のひらを差し出す。


その応え。


それにアレクは頷き--


「よし、わかった。ちょっと待っててくれ」


そう声を響かせ、子鼠にレベル9999の瞳を向けるアレク。


瞬間。


「ちゅ……う(な、なに。か、身体が震えて動けない)」


メイリンの身体。

それが、天敵に見定められたかのようにピクリとも動かなくなってしまった。


そして、そんなメイリンの元に歩み寄っていくアレク。


朗らかな表情。

それをたたえて。


「ねずみさん。かわいい」


「そうですね。急にぴたりと止まっちゃいました」


突然止まり、2足で立ちすくむ子鼠。

その姿にクレアとソシアもまた和やかに声を発する。


だが、当のメイリンの心中。

それは穏やかとは程遠い。


こちらに近づく、アレクの足音。


それにその身を震わせ--


"「あ、足音だけでわかるわ。格の違いが」"


そう胸中で呟き、メイリンは後ろを仰ぎ見ることすらできない。


そして。


「いい子いい子。そのままじっとしててくれよ」


そんな声が降り注ぎ、メイリンへと伸びるアレクの手のひら。


瞬間。


"「千変万化」"


メイリンは皆の前で力を発揮。

なりふり構わず、アレクと相対しようとする。


そして、メイリンが変身した姿。


それは--


「あ、アレクさん。ようやく元に戻れました」


涙目のクレア。

その人だった。


「く、クレアさん?」


目を点にし、目の前のクレアを見つめるアレク。


そしてそのアレクの反応。

それに、他の面々たちも続く。


「く、くれあが二人?」


「わわわ。わたしが二人?」


ソシアとクレア。


そして。


「ぐ、ぐるるる? クレアが二人? こここ、小鳥と子鼠は?」


「うふふふ。なんだか楽しくなってきちゃった」


「まるで魔法で姿を変えられたお姫様みたいだね、お姉ちゃん」


混乱する人狼少女と、それを両脇から抱きしめて楽しそうにクレア=メイリンを見つめるエリスとアリス。


加えて。


「成程」


「そういうことか」


冷静に頷き、もう一人のクレアを見据えるルリとマリ。


その混乱と楽しさ。

そして冷静が入り混じった雰囲気の中、クレア(メイリン)は胸の前で手のひらを組み、懇願した。


「わ、わたしが本物のクレアです。そ、そっちの偽者に騙されないでください」


「!? に、にせもの?」


目を潤ませ焦る、ソシア。


「はいッ。その偽者がわたしに魔法をかけて小鳥やら子鼠に姿を変えさせたんです!! そろそろ正体を現したらどうですか!?」


本物のクレア。

その姿をすごい剣幕で指差す、メイリン。


そしてそれに狼狽える、本物のクレア。


「わわわ。わたし、偽者だったんですか? そ、そんなぁ」


そんなクレアにソシアは抱きつく。


「にせものでも。わたしはこのクレアがだいすき」


ぎゅっ。


「うぅ。ありがとうございます、ソシアさん。わたしもソシアさんのことが大好きです」


ぎゅっ。


互いに慰め、抱きしめ合う二人。

その哀愁漂う雰囲気。


そこに、メイリンは更に追い討ちをかけようとした。


「偽者の癖に本物ぶらないでください。はやくこのギルドハウスから--」


だが、それを遮る。


「えーっと、名はメイリン。千変万化の持ち主にして、天命執行の一員」


そんなアレクの全てを見透かした言葉。

そしてそれに続く、ルリとマリの声。


「さっさと正体を現せ」


「わたしたちの大切なクレアさんに化けるとは。墓穴を掘ったな、貴女」


眼光鋭く、ルリとマリはメイリンに向け手のひらをかざす。

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