変身②
ところ変わってギルドハウスの物置部屋。
そこでは、エリスとアリスを中心に装備論議が交わされていた。
「やっぱり装備は強くなくっちゃ。セクシーさとか可愛さなら、もうとっくに備わってることだし」
根拠のない自信。
それをたぎらせ、ドヤ顔を晒すパンドラ。
「まぁ、でも? わたしは常に高みを目指す向上心の塊みたいなものだし? おまけとして、セクシーさと可愛さも更にプラスしてやってもいいかなとは思ってるわけよ」
人差し指。
それを澄まし顔で突き立て、更にドヤ顔を晒すパンドラ。
自分の宝箱。
そこから小生意気な顔だけを覗かして。
案の定。
そんなパンドラにかかる声。
「パンドラっ。おいしいだけの癖して偉そうにするな!!」
「そうだそうだ!!」
「パンドラがセクシーで強くて可愛いわけがない!! 自分を買い被るのも大概にしろ!!」
人狼少女。
そして、ルリとマリ。
その三人は野次馬のように興奮。
パンドラに向け、可愛い顔に似合わない罵り声。
それをかけていく。
だが、パンドラは退かない。
「なッ、なによ!! そういうあんたたちだってわたしのことを見下すほど強くて。可愛くて。セクシーってわけじゃないでしょ!? 揃いも揃って偉そうなのよ!!」
自分の偉そうな態度。
それを棚に上げ興奮するパンドラ。
しかし。
「がるるる。興奮したらなんだかお腹が減ってきた」
その人狼少女の言葉。
それが発端となりいつもの流れへと移行。
「おいしいパンドラ」
「パンドラおいしい」
じゅるり。
人狼少女に続くルリとマリ。
しかし、パンドラはえらく強気に三人を煽る。
「お腹が減ったなら一階にでも行けばぁ?」
宝箱。
その中に入っている限り、大丈夫。
そうタカをくくるパンドラ。
「それともこの私を食べたいのぉ? ふふふ。でも、ざんねーん。今日はあなたたちの思い通りにはいかないわよぉ?」
蓋。
それを握り、パンドラはいつでも中に引きこもることができることをアピール。
そんなパンドラの姿。
それに人狼少女は吠える。
「汚いっ、卑怯者!!」
「ひきょう? ふんッ、最高の褒め言葉よ!!」
してやったりなパンドラ。
「ぐぬぬぬ」
「あの宝箱さえなければ」
「がるるる。引き摺り出して舐めまわしてやりたい」
対して悔しげなのは二人と一匹。
勝った。
わたしは、勝ったんだ。
人狼少女とルリとマリ。
その悔しげな表情。
それにパンドラは勝ちを確信。
だが、そこへ。
「武器召喚!!」
瞬間。
「えっ?」
突如として現れた鎖。
それにぐるぐる巻きにされる、パンドラ。
そして。
「パンドラさんにそんな#宝箱__そうび__#は似合いません。わたしたちがパンドラさんの装備をコーディネートしてあげます」
「うふふふ。楽しみ」
そんな、ことの成り行きを見守っていたエリスとアリスの楽しそうな声。
それと共に--
「いやぁぁぁッ!!」
すぽんッ
パンドラの身体。
それがまるで釣り系に引っかかった魚ように、宝箱の外へと吊り上げられる。
そして。
「ひぃっ」
そのパンドラの眼下。
そこには、餌を見定める獣もといパンドラを狙う二人と一匹が舌舐めずりをしていた。
おいしいパンドラ?
こ、このままじゃヤられる。
冷や汗。
それを滲ませ、煽りまくった己の所業を悔いるパンドラ。
しかし、パンドラは落ちない。
本来なら重力に従い、落ちるはず。
その訳。
それは、召喚された鎖に理由があった。
「パンドラさんはわたしたちが預ります」
「うん。可愛くコーディネートするまで、パンドラさんは皆さんには渡しません」
万物束縛の鎖。
それによって縛られ束縛されたモノ。
それは、所有者の意のままに操られる。
だからこそ。
「ひぃぃぃっ。目が、目が回るぅ!!」
中空で風船のように振り回され、目をぐるぐるとするパンドラ。
そのパンドラの姿。
それは、眼下のルリとマリの食欲を笑いに変える。
「わーい、風船だ」
「わたしもやりたい」
目を輝かせ、パンドラを見つめるルリとマリ。
それに、パンドラは吠えた。
「ばッ、馬鹿言ってんじゃないわよ!! こここ。こっちは今にも吐きそうなのよ!? うっ、ヤバい。もうでるっ!!」
血の気。
それを引かせ、頬を膨らませるパンドラ。
その様。
それに、エリスとアリスは焦る。
「わーっ、ぱぱぱ。パンドラさん!?」
「ふ、ふふふ。ぶちまけてやる。か、覚悟はいい?」
「いやぁっ。今下ろしますッ、今下ろします!!」
邪悪な笑み。
それをたたえ、パンドラは眼下の面々を睨め付ける。
勿論、演技。
この程度で吐くほど、パンドラはヤワではない。
しかし、人狼少女だけは舌舐めずり。
「がるるる。パンドラっ、降りてきた瞬間に舐め回す!!」
食欲に勝る欲望なし。
そんな人狼少女に、パンドラの演技は通じない。
「わおーん。ごくり」
遠吠えと嚥下音。
それを響かせ、迫真の演技を晒すパンドラに狙いを定める人狼少女。
その眼差し。
それに、パンドラは焦燥。
「ちょっ、吐くわよ!? ほんとに吐くわよぉ!?」
「望むところ!! いいからはやく降りろっ、パンドラ!!」
「……っ」
だ、ダメだ。
食欲モンスターの人狼さんに、わたしの演技は通じない。
そして。
「えいっ」
ベチンッ
「!?」
かわいい、エリスの掛け声。
それと共にお尻から床に着地するパンドラ。
更に。
「ままま。まだ吐かないでくださいね、パンドラさん」
「いい、今。バケツ。持ってきますね」
「く、クレアぁ!!」
「バケツっ、バケツ!!」
エリスとアリス。
そして、ルリとマリ。
その四人は、バケツを求め物置部屋を後にし一階へと走っていく。
ドタバタと。
必死な表情を晒しながら。
そして、残されたのは--
「……っ」
目に涙を蓄えるパンドラと。
「ぐるるる」
頬を紅潮させ獲物見つめる、空腹に囚われた人狼少女だった。
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そして、数分後。
「だ、大丈夫ですか!?」
そんな心配そうな声。
それと共に、バケツを手に持ったクレアが姿を現す。
そのクレアの後。
そこには、ルリとマリ。
そして、エリスとアリスも居た。
皆、その手にバケツを握りしめて。
だが、そんな五人が見たもの。
それは--
「わおーん」
「た、助けてぇ!! 色んな意味で食べられちゃう!!」
そう叫ぶパンドラと、パンドラに跨り頬を擦り付ける人狼少女の姿。
それに、クレアは駆け寄り。
「ぱッ、パンドラさん? 大丈夫ですか?」
そう声をかけ、急ぎパンドラを介抱。
そして面々を仰ぎ見。
「だめですよ、もう。パンドラさんは玩具じゃないんですからね」
そう母のように叱り、パンドラを優しく抱き抱えるクレア。
そのお叱り。
それに、面々は素直に--
「ご、ごめんなさい」
「ごめん」
「ご、ごめん」
そう謝罪を述べ、クレアに頭を下げた。
しかし、クレアはそれ以上怒らない。
パンドラをおんぶし、立ち上がり。
「柄にもなく怒っちゃいましたね、わたし。でも怒る時は怒ったほうが、みなさんの為にもなりますし」
そう声を発し、微笑むクレア。
そのクレアの姿。
それはまさしく。
お母さんそのものだった。
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