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天命執行④

絶対零度〈アブソリュートゼロ〉。

 その力はあらゆるモノの活動を停止させ、そして凍結させる力。


 だがその力の前。

 氷に閉ざされゆく空間の中。

 そこでアレクは平然と腕組みをし、佇む。


「少し肌寒いな」


 そんな声を笑顔で発しながら。


 そのアレクの姿。

 それにクリスはしかし、臆することはない。


「はっはっはっ。そうなるだろうとは予想していた。いや、むしろ。そうでなくては面白くない」


 手のひらを閉じ。

 そして一歩。足を踏みしめ、クリスは続ける。


「今までの相手なら。この程度の凍結で白旗を振ってくれたものだ。中には跪き、わたしに忠誠を誓う者も居たな。だが、わたしの力はーーこんなレベルのモノではない」


 クリスの双眸。

 そこに瞬くは蒼色の脚光。

 その蒼の輝き。

 それは、見るモノ全てに冷厳なる畏怖をもたらす絶対零度の瞬き。


「絶対零度〈アブソリュートゼロ〉」


 クリスの口。

 そこから呟かれる、力の名。


 刹那。


 大気中の水分。

 それが氷結し、アレクの頭上に巨大な氷塊を形成。

 そしてそれは、完璧なまでの球体のカタチをとっていた。


 その、透き通った氷の球体。

 それを見上げ、アレクは一言。


「氷の球体か。中々、お目にかかれるもんじゃないな」


 博物館に飾られた芸術品。

 それを鑑賞するかのようなアレクの声音。


「加えて少し身体の芯が冷えるな。これが絶対零度の力か」


 常人なら息をするだけで肺が凍りつき、即死するレベルの絶対零度。

 だがレベル9999のアレクにしてみれば、少し冷える程度の影響しかない。


 しかし、クリスは決して恐れない。

 いやむしろ、楽しんでいるようにもアレクの目には映った。


「いいぞ、実にいい。それでこそ、圧倒的強者というものだ」


 パチンッ


 己の声の余韻。

 それと同時に指を鳴らす、クリス。

 そしてそれと呼応する氷の球体。


 その光景。

 それにアレクもまた、楽しそうになる。


「お次はどんなカタチになるんだ?」


 カタチを変えていく、氷塊。

 そしてそれは、巨大な氷剣のカタチになりアレクへとその照準を合わせた。


 そんな巨大な氷剣。

 その刃先を見上げ、アレクは手のひらをかざす。


 見上げる、アレクの表情。

 そこに滲む、余裕。

 それはまさしくーー


「絶対零度〈アブソリュートゼロ〉。今まで出会ったどの力よりも……強くて、綺麗だな」


 圧倒的強者〈レベル9999〉そのもの。


「その言葉。わたしにとって、最高の賛辞だよ」


 アレクの言葉。

 それに笑顔をもって応えーー


「では、いかせてもらうぞ。存分に、返り撃ちにしてくれ」


 クリスは、己が創った氷剣に命を下す。


 風を切り、唸りをあげ。

 氷剣はアレクへと向け、垂直に落下していく。


 それに向け、アレクもまた力を発揮。


「火球〈レベル9999〉」


 刹那。


 クリスの創った氷剣。

 それを圧倒的に上回る大きさのファイヤーボール。

 それが轟音と共に、氷剣に向け撃ち放たれた。


VS絶対零度?

 衝突する火球と氷剣。

 そしてその結果は、火を見るより明らかだった。


 太陽顔負けの火球。

 それになす術もなく飲み込まれ、蒸発する巨大な氷剣。

 同時に、周囲に影響を及ぼしていた絶対零度の力。

 それも火球の熱により完全に無効化されてしまう。


 ぽたぽた。


 氷剣が蒸発したおかげで降り注ぐ、水滴。

 それに髪を濡らしながら、アレクはクリスに声をかけた。


「これが俺〈レベル9999〉の力。どんなモノでもレベルを9999にできる」


 響く、アレクの声。

 その声に呼応し、クリスは腰から剣を抜く。


 そしてーー


「最後に一太刀。受けてくれないか?」


 そう恍惚と問いかけ、クリスは抜いた剣をアレクへと放り投げる。


 その剣を拾い、アレクは構える。

 クリスの思い。それに応えるかのように。


 そしてクリスもまた、構えた。

 自身の力で氷剣を創り、その瞳を蒼く瞬かせその頬を楽しそうに綻ばせながら。


 そして駆け出す、クリス。


「楽しかったぞ。お前のような強者に出会えてな」


 そう声を響かせながら。


 そんなクリスをアレクは迎え撃つ。

 握った剣。

 それをレベル9999へと変えながら。


 剣〈レベル9999〉。

 その一振りはーー


 ブォンッ


「!?」


 数億の剣士。

 それが一切に剣を振り下ろした衝撃にも劣らない。


 アレクに到達する前。

 そこでクリスの氷剣は一瞬にして霧散。

 そして同時に、クリスの纏った軍服とマント。

 それもまた、所々が破れ白く透き通った肌が外気に晒されてしまう。


 吹き抜けた目に見えぬ斬撃。

 それはクリスを外れ、遙か後方の山々を縦に両断しようやく消滅。


「……っ」


 後退り、クリスは尻餅をつく。

 その姿。

 それは、絶対零度の誇り高き強者〈クリス〉ではなくただの一人の怯える女性〈クリス〉に他ならなかった。

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