後始末②
そのアレクの言葉。
それにクロエは「ううん」と首を振る。
そして。
「知らなくてもいい世界だよ。こっちの世界なんて」
そう声を発し、寂しく笑うクロエ。
「物心ついた時から、こうするしか方法がなかった。こっちの世界しか知らなかったんだ、わたしたち。リリとシルビアだってーー」
「クロエ。しー」
「クロエ。お口を接合しちゃうぞ」
リリは口元に人差し指を。
シルビアは口元に中指を。
それぞれ立て、クロエを制する。
そんな二人の眼差し。
そこに宿るのは、どこか儚く悲しげな光だった。
「あっ、ごめんね」
謝り、口を噤むクロエ。
「ってな感じだからさ。後はわたしたちに任せて」
微笑み、クロエはリリとシルビアと共にアレクの後ろにある扉へと向かう。
後始末と処理。
それを、済ませるために。
そんな三人にかかる声。
「ぐすん。か、かわいそう。貴女たちぃ。そんなに苦労していたのね。この慈悲深きパンドラ。生まれてはじめて涙が止まらないわ」
胸をおさえ。
可哀想な顔をし、パンドラはぽろぽろと涙を流す。
「ひっぐ。かわいそうよね、アレク。こっちの世界代表のわたしがなんとかしてあげたい。だけどぉッ、わたしにはなにもできない!!」
「パンドラ。お前、いつからこっちの世界代表になったんだ?」
「ぐすん。い、今この瞬間からよ」
「そうか。すごいな、パンドラ」
「で、でしょ? えへへへ」
泣き止み、照れ臭そうにするパンドラ。
「それにしても。泣き顔、面白かったぞ」
「お、おもしろいって」
アレクの笑顔。
それにパンドラは動揺。
「すすす。少しは響いたでしょ? このわたしの涙と泣き顔」
「響く? どこに?」
「えぇ…別の意味で泣きそうなんですけど」
そんなアレクとパンドラのやり取り。
それを見つめ、三人はくすりと笑う。
その三人の笑顔。
それにアレクは応えた。
「よし、みんなで帰ろう」
みんなで帰ろう。
その言葉に、顔を見合わせる面々。
「こっちの世界だとかあっちの世界だとか、関係ないぞ。俺は、変わりたいと思ってるあんたたちを応援する」
「い、いいこと言うわね。流石、レベル9999じゃない。ぐすん」
涙ぐみ、アレクのローブで顔を拭くパンドラ。
「ほんと。いい奴ね、あんた。いい奴すぎてわたしの涙腺崩壊よ」
ふきふき。
「泣きすぎだろ、パンドラ。そんなに感動したのか?」
「うぇぇん。感動したぁ」
「よしよし。繊細なんだな、お前は」
パンドラを宥め、そして空いた腕に抱き抱えるアレク。
「じゃあ、みんな外に出てください。後は俺がなんとかしますので」
「えっ。で、でも」
「いいの?」
「……っ」
狼狽る、三人。
その三人にアレクは頷く。
「はい。はやく出ましょう」
言い残し、アレクたちは館の外へと出て行く。
その背。
それを三人は追う。
アレクの言葉に従って。
そして、皆が外に出。
それを確認し、アレクは一言。
「後始末。後始末っと」
声と共に。
アレクは館に向け、息を吹きかける。
瞬間。
巨大な竜巻。
それが発生し、館を粉々に粉砕。
そしてその残骸を空へと巻き上げ、パラパラと粉末だけが降り注ぐ。
その光景。
それを見つめ、アレクは満足気に声を発する。
「よしっと。これで完全にクエスト達成だ」
そんなアレクの姿。
それはまさしく、レベル9999そのものだった。




