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後始末①

 アレクが扉の先に向かい、すぐ。

 パンドラはリリとクロエ。そしてシルビアと鉢合わせしていた。


「あッ、あんたたち!! どッ、どうしてここに居るの!?」


 警戒し、パンドラは身構える。


「ままま。また性懲りもなくアレクにやられにきたの? こここ。今度は容赦しないわよ?」


 額に汗を滲ませ、ふるふると拳を握るパンドラ。

 そのパンドラの姿。

 それは母猫を見失い怯え威嚇する子猫そのもの。


 そんなパンドラに、リリは声をかける。


「敵意はない。だから、警戒しないで」


 それに続く、クロエ。


「わたしたちはクエストを受けてここにきたの。子どもたちの救出。それを果たす為にね。貴女もそうだしょ? えーっと。パンドラさん…だったっけ?」


 パンドラにウインクをし、クロエは笑う。

 だが、パンドラは信じない。


「ふっ、ふん!! そ、そんな戯言を信じろとでも? つくならもっとマシな嘘でもついたらいいんじゃないかな!?」


 後退り、必死な表情を晒すパンドラ。


「言っておくけどッ、わたしのレベルは90よ!! アレクに至ってはレベル9999!! あ、あんたたちより強いんだから舐めないほうがいいわよ?」


「舐めてなんかいない」


「うん。だって、完敗したんだもん」


 即答し、頷き合うリリとクロエ。


「今回は本当に敵じゃない。信じて」


「信じてよぉ」


「信じてちょうだい」


 反響する、三人の声。

 そしてそれに合わせ、三人ともパンドラに向けて手のひらを合わす。


 その光景。

 それにパンドラは、怯えを抑える。


 そして。


「し、仕方ないわね。今回だけは信じてあげることにするわ。ありがたく思いなさい」


 そう声を返し、握っていた拳を解く。


「たッ、ただし!! 少しでも変なことをしたらアレクが黙ってないからね!! そッ、その辺のことはよく理解しておきなさい!!」


「うん、わかった」


「うん、了解」


「うんうん。理解理解」


 リリ。クロエ。シルビア。

 その三人はパンドラに頷く。

 それにパンドラもまた満足げに頷く。


「うんうん。わかればいいのよ、わかれば」


 先程までの怯えはどこへやら。

 いつものパンドラに戻り、三人の前でドヤ顔仁王立ちをするパンドラ。


 そんなパンドラの背後。


 そこにーー


「帰ったぞ、パンドラ。って、なんだか人数が増えてないか?」


 ソシアを抱え、いつも通りに余裕に満ちたアレクが爽やかな表情で現れた。

 表情を明るくし、振り返るパンドラ。


「アレクッ、お帰りーー」


 なさい!!


 そう声を響かせる前に、パンドラは気づく。


「……っ」


 アレクの胸。

 そこに顔を埋め、泣きじゃくる少女の姿。


「ちょっ、ちょっと。なに、その子。泣いてるじゃない。それに。傷だらけじゃない」


 声を発し、胸を詰まらせるパンドラ。

 その表情。

 それは子猫を見つめる母猫のような優しさに満ちていた。


 そんなパンドラの表情。

 それにアレクは応える。


「よし、パンドラ。帰るぞ」


「うん、はやく帰りましょ。帰って、その子の手当てをしてあげないとーーって」


 そわそわする、パンドラ。


「ほ、他に子どもたちは居ないの? 子どもたちの救出だったわよね。このクエスト」


 パンドラはきょろきょろとし、館内を見渡す。

 その視界には扉がたくさんあり、パンドラは焦燥してしまう。


「ひとつひとつ調べるのは骨が折れるわ。な、なにかいい方法はないものかしら?」


「方法ならあるぞ」


 自分の両目。

 それをもって館内を見渡す、アレク。


「これならひとつひとつ調べる必要もない」


 レベル9999。

 その目は、文字通りなんでも視える。


「えっーと…他に子どもはっと」


「どう? 居る?」


「居ないな」


「そう。よかったわ」


「よし。クエスト達成だ」


「そうね。ふぅ、これで心置きなくその子を手当てできるわね」


「そうだな」


 同時に頷く、アレクとパンドラ。

 その二人の姿に、リリは声をかけた。


「お疲れ様。わたしたちの出る幕はなかったね」


 アレクを労い、ちいさく拍手をするリリ。

 そして、そんなリリに続くクロエとシルビア。


「後始末は任せて」


「うん。任せて。処理なら慣れてるから」


 後始末。処理。

 そんな単語に、パンドラは反応する。


「あ、あんたたち。後始末とか処理とか、よくそんな涼しい顔で言えるわね。さては、慣れてる?」


 三人を仰ぎ見る、パンドラ。

 その表情は少し怯えていた。


 だが、三人は笑顔でパンドラに答える。


「うん、慣れてる。だってわたしたち。元は汚いことして生計を立ててたパーティー」


「そんなに怖がらないでよぉ、パンドラちゃん。世の中にはね? わたしたちみたいな。汚いことでしか食っていけない連中がいっぱいいるんだよ?」


「このアジトだって。元はわたしの寝ぐらだったのよ? ふふふ」


 なぜか楽しそうな、リリとクロエ。そしてシルビア。


「パンドラちゃんも。むかしはやってたんでしょ?

 き、た、な、い、こ、と」


 わざと瞳孔を開き、クロエはパンドラに微笑む。

 そのクロエの表情。

 それは裏の世界を知るクロエならではの顔だった。


「……っ」


 クロエの雰囲気。

 それに気圧され、アレクの後ろに隠れるパンドラ。


「あ、アレク。あああ。あいつらなんか怖い」


 だが、アレクの表情は変わらない。


「俺たちの知らない世界で頑張っていたんだな、三人とも」


 そんな声を発し、三人を見つめるアレク。

 その表情は決して三人を卑下するようなものではなかった。

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