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奪取②

「クレアさん。俺」



 このクエスト受けます。

 そう声が響く前に、クレアはアレクの思いを汲み声を挟んだ。


「はい。盗賊団のアジトの場所。それはここから数キロ離れた森の中です。場所が場所だけにたどり着くのは困難なのですが…アレクさんなら、大丈夫ですね」


 そしてにこりと笑い、続けた。


「いつもみたいに。一瞬で達成しちゃってください」


「はい。一瞬でこなしてみせますよ」


 クレアのアレクを信じ切った笑顔。

 それにアレクもまた笑顔で応える。

 そのアレクの笑顔。

 それを受け、思わず俯いてしまうクレア。


 頬を桃色に染め。

 アレクを直視することさえできずに。


 そんな二人の姿。

 それを物陰からこっそりと見つめるのは、パンドラと人狼少女。


 そして二人は小声で会話をする。


「ちゅーしちゃえ。ちゅーしちゃえ」


「パンドラ。ちゅーってなに?」


「ふふふん。あんたにはまだはやいわよ。まぁ? わたしぐらい立派なレディーになったら。ちゅーぐらいわかるようになるかしら?」


「いやだぁ…パンドラみたいにならないとちゅーがわからないなら。ちゅーなんてわからなくてもいい」


「ちょっ、ちょっと!! それどういう意味!?」


 心底嫌そうな人狼少女。

 その両肩。

 それを掴み、パンドラは大声を出す。


「日頃からわたしのこと舐めまくっているくせに。わたしみたいになりたくない? それってどういうこと!?」


「く、くうーん」


 誤魔化し、人狼少女は首を傾げる。

 だが、パンドラは更に興奮してしまう。


「可愛い顔してごまかそうたってそうはいかないわよッ、このお犬さん!!」


 ふにふに。

 迫真の表情。それをもって人狼少女のほっぺたを弄ぶ、パンドラ。


「ちょっと可愛いからってなんでも許されると思ったら大間違いよ!! こうなったらッ、ヤケよ!! む、無理やりにでも。あんたにちゅーってやつを叩き込んで、わたしの凄さってやつをわからせてやるんだから!!」


 ぷにっ


 人狼少女の顔。

 それを両手で挟みーー


「い、いい? ちゅーってやつはこうすることなのよ」


 そう呟き。

 自身の唇。

 それを、人狼少女に向け近づけていくパンドラ。

 人狼少女もそれに合わせ、訳もわからず唇を近づけていく。


 だが、そこで。


「おい、パンドラ」


「ひゃいっ」


 首根っこ。

 それをアレクに掴まれ、人狼少女から引き離されるパンドラ。


「なにやってんだ、お前。さっきから大声でちゅーだのあーだの叫んで」


「こ、これは。そのぉ」


 冷や汗を滲ませ、パンドラはアレクを仰ぐ。


「そ、その。あ、新しいクエストに出発すると聞きまして。それで。そ、そういうことです」


「どういうことだ?」


「……っ」


 人狼少女はその二人に割って入る。


「アレク。パンドラは悪くない。だって、わたしにちゅーってやつを教えてくれるんだもん」


 嬉しそうな、人狼少女。


「そうだよね、パンドラ。って、あれ。パンドラ?」


 終わった。

 そんな表情をし、パンドラは固まる。

 そのパンドラの頬。

 それをペロペロと舐め、人狼少女はパンドラに甘える。


「パンドラ。はやくちゅーを教えてよ」


 ペロペロ。


「あ、あははは。あーあっ。どうしてこう、わたしってアホなんでしょうね?」


 自虐し、力無く笑うパンドラ。


 その姿。

 それをアレクは慰める。


「まぁ、なんだ。元気だせよ、パンドラ」


 手を離し。

 ポンポンと、アレクはパンドラの頭を叩く。


 それにクレアも続く。


「ぱ、パンドラさん。あまり自分を卑下しないでください。わ、わたしも。パンドラさんにちゅーを教えてほしいですし」


 照れながらの、クレアのフォロー。


「えっ、じゃあ教えてあげよっか?」


「へ?」


「人狼さんと貴女に」


「えええ。そ、その」


 クレアは真っ赤になる。


 もはやヤケクソ。

 そんな表情で舌舐めずりをする、パンドラ。


「ふふふ。もうどうにでもなーれ」


「おしえてッ、パンドラ!!」


 興奮する、人狼少女。


「いいよ。じゃあまず、わたしに、顔を近づけーー」


 グイッ


「んじゃ、クレアさん。今回はこのパンドラとクエストに出かけてきますね」


「は、はい」


 アレクの行動。

 それにクレアは安堵する。


 そしてアレクは踵を返す。

 理性を失ったパンドラ。

 それを肩に担いで。


 そのアレクの背。

 それを人狼少女は見送った。


 名残惜しそうに。


「パンドラ。帰ったら、ちゅー。教えてね」


 そう小さく呟きながら。

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