表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

28/50

奪取①

~~~


「おいッ、ソシア!! てめぇッ、また盗みに失敗したらしいな!!」


 怒声と共に響く、バチンッという乾いた音。

 そして、そんな音の余韻。

 それと共にその場に蹲るは灰色髪の少女だった。

 

 自分の赤く腫れた頬。

 それをおさえ、ソシアは震える。

 その目から涙をこぼし、その口元からは痛々しい吐息を漏らしながら。


 だが、怒声は止まらない。


「立てよ、ソシア」


「……っ」


 殺気に満ちた男の顔。

 それを潤んだ瞳で仰ぎ見、ソシアは謝罪を述べる。


「ご、ごめんなさい。ごめん。ごめんなさい。も、もう失敗しません。そ、ソシアはもう二度と、しっぱいし。しません」


 痣だらけの細い腕と、弱々しい足。

 そして粗末な、明らかに使い古された汚れた軽装。

 そのソシアの姿。

 それはまさしく、奴隷そのもの。


「だ、だから。ゆるしてください。そ、ソシアをゆるしてくだーー」


 ベキッ


 ソシアの横腹。

 そこが男に蹴りあげられる。


「ひぃぐっ」


 響く、ソシアの幼い悲鳴。

 そしてそれに続く、男の声。


「俺は立てと言っただろ。聞こえなかったのか? この、ゴミクズ」


「ぃだっい。いたぃっ」


「痛い? 痛がる暇があるならさっさと立て」


「は、はい。ご、ごめんなさい」


 痛みを堪え、ソシアはゆっくりと立ち上がる。

 そして、ソシアが立ち上がった瞬間。


 男の拳。

 それがソシアの顔面に、容赦なく叩き込まれた。


「ぃぐっ」


 のけぞり。ふらつき。

 ソシアは再び、倒れそうになる。


 その姿。

 それを男は笑う。


「はははッ、いいぞソシア!! 糸が切れた操り人形のようで滑稽だ!!」


「はぁ…はぁ…」


 血まみれになったソシアの顔面。

 脳が揺れ、意識が朦朧とし。

 ソシアの目から光が消えていく。


 そんなソシアに飛ぶ、男の殺意。


「次、倒れたら。馬乗りになって原型を留めないほどに殴り続けるからな。それが嫌なら、耐えろ」


 だが、ソシアにはもう残されてはいなかった。

 立つ力。足にこめる力など、一欠片も。


「は、はい。そ、ソシアは。たおれません。がんばって。がんばっ……って。たって。いま…す」


 呟き。

 同時に、ソシアの意識は飛ぶ。


「ご、ごめんな…さい」


 そんな言葉と共に。

 ソシアは、後ろへと倒れ込む。


 それを見届け、男は拳を鳴らす。


「はい、終了。てめぇはもうここで死ね」


 倒れた、ソシア。

 その少女の元。

 そこに男は歩み寄る。


 刹那。

 ソシアに目覚めしは力。


 万物奪取。

 あらゆるモノを奪い、自分のモノにする力。

 その禁忌の力。

 それが、ソシアの幼い肢体を眩い光で包み込んで。


「は? なんだ、これ?」


 男は首を傾げ、しかし余裕を崩さない。


 ふらり。


 立ち上がり、だらんと両腕を下げ。

 ソシアは、男を見つめる。

 その目に宿るは力の胎動。


「なんだ、おい。はははッ、こいつはおもしれぇ!!」


 男は笑い。

 ソシアに向け、歩み寄る。


「この俺にたてつこうってのか? なぁ、おい。ソシアァ!!」


「……」


「捨て子だったてめぇを拾ってやったのは誰だッ、あぁ!? てめぇみたいなゴミクズを拾って世話をしてやったのは誰だ!?」


 スキル、倍加。

 それは己の身体能力を一時のみ倍にするスキル。

 それをかけ、男はソシアの眼前で足を止めた。


 そしてーー


「じゃあな、ソシア。この恩知らずのゴミクズが」


 そう吐き捨て、男は三度。

 ソシアの顔面に拳を叩き込もうと腕を振り上げる。


 だが、次の瞬間。


 ブチィッ


「!?」


 男の腕。

 それが、ソシアの瞬きによりーー奪われた。


 弾ける鮮血。

 響く、悲鳴。

 男は膝をつき、ソシアを見上げる。

 その男の顔。

 そこに刻まれるは、恐怖と絶望。


「ご、ごめんなさい。そ、ソシアは。もう。失敗しません」


「ひぃっ」


 壊れたように声を発し、男を見下ろすソシア。

 そして、瞬きひとつ。

 それをもって抉られる男の目。


 ベチャッ


「ぁがっ」


 顔を覆い、蹲る男。

 だが、ソシアは更に奪う。


 べきっ。

 ぐちゃッ。


 手足がもげ、首がちぎれ。心臓を奪われ。

 血溜まりに転がった男の死体。


 その側で、ソシアは佇む。

 返り血を浴び、その頬を赤く染めて。


 禁忌の力。

 万物奪取。


「……っ」


 震え、自分を抱きしめ。

 ソシアは両膝をつく。


 そしてその目から一筋の涙をこぼしーー


 目覚めた力。

 それに怯え、その場に蹲ることしかできなかった。


 ~~~


 ギルドハウス。

 そこに張り出された新たなクエスト。

 それをアレクとクレアは見つめていた。


「たくさんありますね」


「はい、たくさんありますよ」


 朗らかに会話を交わす、アレクとクレア。

 その二人の姿。

 それはまるで、気心の知れた夫婦のようである。


「ん? このクエスト」


 "急募。盗賊団に拐われた子どもたちの救出。クエストレベル65"


 貼られたクエスト依頼。

 その中で、アレクの目を引いたのはそんな文面だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ