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レベル999②

 響いたアレクの声。

 それに、しかし。


「なんだって? もう一回お願いする」


 わざとらしい笑み。

 それをたたえ、フィンはアレクを見つめる。


「ぼくの聞き間違いじゃなければ。9999。そう聞こえたんだけど」


「聞き間違いじゃないぞ」


 笑う、アレク。


「俺のレベルは9999。なんなら試してみるか?」


「面白いね、きみ。このレベル999のぼくに対して、試してみるか。だって?」


「あぁ。どこからでもかかってこい」


 ポンっと胸をたたき、アレクはフィンに笑顔を向ける。

 そのアレクの表情。

 それは親が子と遊ぶ時のような余裕に満ちていた。


「はぁ、やれやれ。あんまり弱い者いじめはしたくないんだけどね」


 フィンもまた余裕綽々。


 そして、周囲の人々は盛り上がる。


「やってくださいッ、レベル999なら一撃で葬れます!!」


「そうだ!! そうだ!!」


 そのフィンを応援する声。

 それに負けじとパンドラと人狼少女も声をあげた。


「レベル999? よくもまぁ。そんなひっくいレベルで粋がれるわね!!」


「そうだッ、パンドラだってレベル90!! なのに粋がってッ、アレクに返り討ちにあったんだぞ!! その身の程知らずが言うんだから間違いないんだぞ!!」


「そッ、それを言うならあなただって!! レベル38なのに。最強はこのわたしッ、とか息巻いて返り討ちにあったじゃない!!」


「うッ うるさい!!」


「ふーんっだ。わたしよりレベル低いくせに粋がらないでくれる? お、い、ぬ、さ、ん」


 跨がる人狼少女。

 その悔しげな顔を見上げ、鼻で笑うパンドラ。


「ゆッ、許さない!!」


「許さない? レベル38になにができるのぉ? ふふふ」


 ガブッ

 ブチぃッ


「わおーん」


 パンドラの服。

 そのお腹部分を引きちぎり、人狼少女は遠吠えをあげる。


 そしてーー


「!?」


 ぺろぺろ。ぺろぺろ。


「ちょっ。ちょっと? どこ舐めてーーひぃっ」


 ぺろぺろ。


 一心不乱にパンドラのお腹に舌を這わせる、人狼少女。

 その表情は獣そのもの。


「くすぐったいッ、ひぃん!!」


「がるるる。パンドラ、ゆるさない」


「ゆ、ゆるひぃてぇ(許して)!!」


「ゆるさない!!」


 ぺろぺろ。


「ひっ、ひぃぃ」


 そんなパンドラと人狼少女の姿。

 それをカレンはなだめようとする。


「お、落ち着いて」


「がるるる」


「帰ったら、クレアさんに頼んで。ほ、骨をあげますから」


「くうーん。パンドラ、許す」


 骨。

 その単語にうっとりとし、人狼少女はパンドラを解放。

 パンドラはぐったりとし、「な、舐めすぎよ。はぁはぁ」そう呟き、唾液まみれでその身を痙攣させていた。


 その騒ぎ。

 それが収まったことを確認し、フィンはアレクに手のひらをかざす。


「本気は出さない。ここは街中だからね」


「そうか。なら場所を変えよう」


「はい?」


「あんたも俺も本気を出せるようにな」


「さっきから随分な自信だけど。大丈夫?」


「大丈夫だ。よし、さっさと行こう。お互い焦らしても仕方ないからな」


 アレクは頷き、踵を返す。

 その後をフィンは追う。


「みなさん待っててください。この男の首。それを土産に帰ってきますので」


 そんな自信たっぷりの置き言葉。

 それを響かせながら。


 アレクとフィン。

 その二人がやってきたのは、街から少し離れた草原だった。

 そこは一面鮮やかな緑に包まれ、遮蔽物はなにひとつない。


「よし。この辺までくれば大丈夫だな」


 足を止め、アレクは振り返る。

 そのアレクの表情。

 そこに宿るのは、フィンに対する期待だった。


「レベル999。少しは楽しませてくれよ」


 にこやかな、アレク。

 そんなアレクに対するフィンの表情。

 それは、「やれやれ」という呆れと余裕が入り混じったもの。


 そしてーー


 二人は、ぶつかりあう。


 消える、フィンの姿。

 否、それはフィンが軽く駆け出した結果だった。


 レベル999。

 その身体能力。

 それは、この世界の常識を遥かに上回るもの。


 視ることも、触れることもできない。


 はずだった。


「おぉ。中々、中々」


 フィンの姿。

 それを目で追い、アレクは感嘆。


「流石レベル999だな。はやい。はやい」


 アレクの眼前。

 そこに近づく、フィン。

 そしてフィンは拳を振り上げ、一言。


「ほんとは視えてないんだろ? 虚勢を張るのはやめたほうがいい」


 口調を偉そうにし、フィンはアレクを煽る。


「まっ、仕方ないか。所詮君も雑魚なんだしね」


 嘲り、拳をアレクの顔面に叩き込むフィン。


 瞬間。


 ドォンッ


 山をも崩す衝撃波。

 それがアレクから後ろに吹き抜け、草原を抉る。

 その跡。

 それはまるで、隕石が転がり落ちたような凄まじいものだった。


 しかし、そこでフィンは気づく。


 あれ?


 シュウゥゥ…


 白煙。

 それをあげ、眼前に佇む存在。


 あ、あれ? 


 後ろに跳躍し、フィンはその存在〈アレク〉から距離を置く。

 そのフィンの顔。

 そこに滲むは、大粒の汗。


 そして響く、アレクの声。


「なるほど。なるほど。これがレベル999の拳の威力か」


 傷一つついてない。

 いや、つくはずもない。


 なぜなら。


「まぁ、でも。レベル差9000ならこんなもんか。期待しすぎた俺のミスだな、こりゃ」


 フィンのレベルは999。

 対するアレクのレベル。


 それはーー


「きゅ、9999なのか? ほんとに?」


 正真正銘、9999なのだから。


「次はこっちから行くぞ。 ゆっくり真正面から歩いていく。だからしっかり構えろよ」


「あ、歩く? だって?」


 アレクの発言。

 それに驚き、戸惑うフィン。


「力を込めて走ったら、それだけで地形が変わっちまうからな。下手したらあんたもそれで消滅してしまうかも知れない」


 屈伸をし、アレクは関節を伸ばす。

 そして。


「構えろ。行くぞ」


 そう声を響かせ、アレクはゆっくりと一歩を踏み出す。


 刹那。


 凄まじい轟音。

 それと共に、巨大な亀裂が草原にはしる。

 そしてそこから大量の溶岩が吹き出し、アレクへと降りかかる。


 それを、浴び。

 しかしアレクは気にも止めない。


 それどころか。


「つめて。髪が濡れちまった。あーぁ、服もこんなにびしょびしょに。レベル9999じゃなかったら即死だな、こりゃ」


 そんな訳のわからないことを呟き、楽しそうに笑う始末。


 その様。

 それにフィンは、本能的に後ずさる。


 そして、アレクの二歩目。


 ベキッ


 お次は地面がめくれあがり、小規模な地殻津波を引き起こす。


 その地殻津波。

 それをフィンは両手で受け止める。


「ぐっ。こんなッ、こんなものぉ!!」


 レベル999。

 その全力をもって。


 目を血走らせ、その両手に大量の血管を浮き上がらせながら。


 だが、その満身創痍もアレクの三歩目で終止符が打たれる。


「はい、三歩目」


「!?」


 フィンの身体。

 そこに吹き付ける、圧倒的な風の猛威。

 それはさながらドラゴン数万匹分の息吹のよう。


 なすすべもなく。

 フィンは風に飲まれ、遥か彼方へと吹き飛ばされる。


「こッ、これが!! れ、レベル9999ぅぅ!!」


 そんな叫びを響かせ、まるで枯れ葉のように。


 その様子。

 それをアレクは見送り、満足気に声を発する。


「ふぅ、久々にいい運動になったな」


 こうしてアレクはレベル999を退け、レベル9999としての威厳を保ったのであった。

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