表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

24/50

ギルド潰し⑥

 リリとシルビア。

 その二人がギルドハウスから出てくる。

 その様。

 それにクロエは一瞬笑顔になった。


 だがーー


 ローブが溶け、下着が露わになったリリ。

 そのリリに肩を借り、震えるシルビア。


 そんな二人の姿を目の当たりにし、クロエはすぐに表情を強張らせた。


「ななな。なにがあったの? ふ、二人のあんな姿。み、見たことない」


 無音殺人。

 液体生物〈ウーズ〉召喚。

 その特殊な力を持つ、リリとシルビア。

 ジャックまでは行かないにしてもこの世界ではそこそこ名の通った強者であるその二人。


 今まで苦戦のくの字も知らなかった。

 にも関わらず。


「どうやら。完敗したみたいだな」


 響く、アレクの声。


「にしても、よかった。生きて戻ってこれて」


 少し安堵し、アレクはクロエに笑いかける。

 そのアレクの笑顔。


 それにクロエは俯き、震える。


「まっ、これに懲りたら綺麗さっぱり足を洗うことだ。お前たちの力。それがあればこんなしょうもないことしなくても、充分に名声をあげれるだろ」


 震えるクロエ。

 その今にも泣きそうな少女に声をかけ、アレクはクロエの頭から手を離す。


 そんなアレクの親心にも似た親切さ。

 それにクロエは問いを投げかけた。


「ど、どうして」


「ん? なにがだ?」


「どうして。ひ、ひどいことをしようとしたわたしたちに。そんな忠告、してくれるの?」


 潤んだ、クロエの眼差し。

 それを受け、アレクは応えた。


「そうさな。自分でもよくわからない」


「……っ」


「だがな。これだけはわかる」


 その身を翻し、アレクは声を発する。


「一人でも多く。まともな強者が増えてくれれば世界は平和になる」


「まともな強者」


 アレクの言葉。

 それをクロエは一度口に出し、そして胸の内で反芻。


「あんたたちのリーダー。そして、勇者〈カイト〉にゴウメイ。ギルダークって奴も居たっけな。まともになる欠片さえない強者たちが」


 頷く、アレク。

 そして拳を握り、その存在たちを葬った時のことを思い出す。


 平気で人を殺し。

 平気で人を貶め。

 平気で人に刃をたてる。

 その歪んだ強者たちを倒せるのは、同じく強者しか居ない。


「ってなわけで。あなたたちはしっかりまともになってください。応援してます」


 拳を解き、クロエを仰ぎ見。

 アレクは笑う。


 そのアレクの姿。

 それをクロエはただ見つめることしかできなかった。


 胸に手をあてーー


「まともな強者」


 そんな今まで考えたことのなかった言葉。

 それを刻み、なにかを決意した瞳をもって。


「じゃっ、俺はこれで」


 後ろ手。

 それを振り、アレクはギルドハウスへと戻っていく。


 そのアレクの背。

 そこから漂うのは、圧倒的な強者オーラ。

 そして、どこか柔らかな思いのこもったレベル9999の信念に満ちたオーラだった。


 ~~~


 本部ギルド。

 そこのギルドマスターの一室。

 そこに四人の人物が居た。

 その名は、エリック。リリ。クロエ。シルビア。


「失敗しただと? ふざけてんのか、お前ら」


 眼前で膝をつく、三人の女。

 その役立たずに向け、エリックは怒りをぶつける。


「ごめんなさい」


「……」


「……」


 淡々と謝る、リリ。

 そして無言をもって応える、クロエとシルビア。


「謝罪なんていらねぇ。これからどうすんだ、あぁ? 俺様の顔に泥を塗りやがって。ジャック。ジャックはどこに行った? あのクソ野郎はどうしてここに居ねぇんだ!!」


 ドカッ


「ぐ…ぅ」


 リリのちいさな頭。

 それを蹴りあげ、エリックは吠える。


「さっさとジャックを呼んでこいッ、てめぇらじゃ話にならねぇ!!」


「ジャックは死んだ」


「あぁ?」


 べきっ


「ひぃ…ぐ」


 蹴られ仰向けに倒れた、リリ。

 その腹を踏みつけ、エリックは殺気を込める。


「死んだ? このくそったれパーティーめ」


「……っ」


「今まで散々優遇してやたってのにこのザマか。あの雑魚野郎。口先だけはいつも偉そうにしてた癖にな」


 吐き捨て、リリを掴みあげるエリック。


 そしてーー


「ならてめぇも死ぬか?」


 声と共に、エリックはリリの顔面に拳を叩き込む。


 瞬間。


「げほ…っ。はぁ…はぁ」


 痛々しいリリの息遣いと、一粒の涙。

 それがぽたりと床へと滴り落ちる。


 その光景。

 それに、クロエとシルビアは懇願した。


「ご、ごめん。つ、次はちゃんとやるからさ」


「リリ。リリ。やめて。やめてください」


 だが、エリックは止まらない。


「うるせぇな、役立たず」


 バキッ


「ぃ…ぐっ」


 腫れ上がる、リリの顔面。


「や、やめろ」


「こ、これ以上やるなら」


「あ? なんだ、俺に逆らうのか? いいぜ、別に。てめぇらの討伐をクエストに追加して指名手配にしてやっても。そうさな。極悪人の討伐レベル80ってとこか? ははは」


「「……っ」」


 歯を食いしばり、二人は抵抗の意思を鎮める。

 そんな二人を鼻で笑う、エリック。


「そうだな。最後にチャンスでもやるか」


 イヤらしく、エリックは続ける。


「もう一度、あのギルドに行ってこい。そして今度こそ潰せ。わかったか?」


 リリを床に叩きつけ、踏みつけるエリック。

 その姿。

 それにクロエとシルビアは、怯え震える。


「わかったか? わかったならさっさとーーッ」


 行ってこい。


 そう言葉が響く前にーー


 バキッ


 轟音と共に扉が弾け飛ぶ。


 そして、響くは声。


「よぉ、お次はこっちから出向いてやったぜ」


 デコピンで扉を破壊し、拳を鳴らすアレク。

 そしてそのレベル9999が怒りのオーラを漂わせ、エリックへと照準を合わせていた。


 焦る、エリック。


「お、お前。どどど。どうしてここに」


「さぁな。どうしてだろうな」


「くッ、くそ!! おいッ、お前ら!! 俺をッ、このエリックを守れ!!」


 エリックは汗を散らし、リリ。シルビア。クロエに助けを求める。

 だが、三人はそれに応じない。


 更に焦る、エリック。


「守れッ、守れ!! 守りやがれぇ!!」


 刹那。


「黙れ、クソ野郎」


「ひ、ひぃ」


 アレクは一瞬で、エリックの眼前で拳を振り上げていた。


「たッ、たすけーーッ」


 ドゴォッ


 有無を言わさず、エリックの顔面に叩き込まれるアレクの拳。

 そしてその振動。

 それは五分に渡って世界を揺らし、エリックの無様な最期を派手に彩ったのであった。

次から章が変わります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ