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ギルド潰し③

 ギルドハウス。

 そこから一歩外に出た瞬間、アレクは感じた。


 内包結界。

 人を寄せ付けず、外からは視認されない遮断結界。

 そしてその中では発動者の意図した相手に"低下"の作用を付与し、どんな相手でも万全の状態では戦えなくするというもの。


「内包結界、か。他にも仲間が居るみたいだな」


 響くアレクの冷静な声。

 その声。

 それにジャックは応えた。


 アレクの数歩後ろ。

 そこで足を止め、ちいさく拍手をしながら。


「ご明察。流石、勇者(カイト)をやっただけのことはあるな」


 自信に満ちたジャックの声。

 そして同時にアレクは聞く。


 風を切る双剣(エモノ)の音。

 先程砕けたはずのジャックの双剣。

 それが振り払われる音をはっきりと。


 己の背後。

 そこへと、アレクは視線を向ける。

 そのアレクの眼差し。

 そこに宿るのは、ジャックに対する敵意。


「さっさとかかってこい。3分で片をつけてやる」


「3分? やれるものならやってみろ」


「こないならこっちからいくぞ」


「きてみろよ。まっ、きたところで結果は変わらないがな」


 砕けたはずの双剣。

 ジャックはそれを弄ぶ。


「俺たちに勝てる奴なんて居ない。たとえ、どんな高レベルであろうとな」


「あぁそうだったな。なら、まとめて3分ってとこか」


「さっきから戯言ばっかほざきやがって。口先だけかよ、お前」


 身を屈め、獲物を狩る姿勢になるジャック。

 その瞳は殺気に満ち、見るものを萎縮させる。


 だが、アレクには通じない。

 無言でジャックを見据え、拳を鳴らす。


 そのアレクの姿。

 それにジャックは狂笑と共に疾走。


「うぜぇッ、うぜぇなッ、お前!!」


 絶対回避。絶対必中。

 全ての攻撃を避け、自身の攻撃が相手に致命する。


 そんな禁忌の力。

 それが今、アレクに剥けられる。


 一瞬で距離を詰めーー


「まずは一発目!! 避けようとしても無駄だ!!」


 そんな声と共に、ジャックはアレクを攻撃。


 アレクのガラ空きになった脇腹。

 そこに向けて。


 アレクはしかし、避けない。

 いや、避ける価値すらない。


 瞬間。


 めきッ


 ジャックの双剣の刃先。

 それがアレクの両脇に突き刺さる。


 それに笑う、ジャック。


「はははッ、お前滑稽だな!!」


 期待したのは、アレクの血飛沫と命乞い。


 だが返ってきたのはーー


「そうか。滑稽か。それはよかったな」


 アレクの冷徹な声だった。


 目を見開く、ジャック。

 そして、気づく。


「なッ、おっ、お前ぇ!!」


「はやく抜けよ」


「くッ、くそ!! くそったれ!!」


 汗を垂らし、ジャックは満身創痍で双剣を抜こうとする。

 だが、抜けない。


「蚊に刺されたほうがまだ痒いぞ。この程度の攻撃でよく大口が叩けるもんだな、お前」


「だッ、黙れ!! おッ、俺は最強の力をーーッ」


 刹那。

 アレクは拳を振りあげる。

 もう黙れ。そう言わんばかりに。


 それにジャックはなおも吠える。


「やってみろ!! よッ、避けてやる!! そんな攻撃ッ、当たるはずがねぇ!!」


 目を血走らせる、ジャック。

 だが、レベル9999の前では絶対回避など無関係だった。


 ドゴォッ


「ぶごぉ」


 ジャックの顔面。

 そこにめり込む、アレクの拳。


 そして同時に響く、地鳴り。

 迸る亀裂。


 そしてその振動が収まった頃。


 アレクの拳。

 それを受け、粉末になったジャック。

 その粉が溜まった小さなクレーター。

 それを見下ろしながら、アレクは声を響かせた。


「出てこい。居るのはわかってる」


 そのアレクの声。

 それに呼応し、響くのは笑い声。


「きゃははは。強いね、あなた。すっごくゲキ強じゃん」


 結界の中。

 そこに主なき声が反響する。


「私〈クロエ〉の内包結界の中でそんなに強いなんて驚き。うーんっと。レベルでいったら80超えかな? それとも90超え? あはっ。わくわくしちゃう」


「......」


 無言を貫き、アレクは空間を見据える。

 クロエの気配。

 それがアレクには手に取るようにわかってしまう。


「ならもっと。貴方のレベルを下げちゃうね。えーっと。今までは20くらいだったから40くらいさげちゃったら...わたしでも、あなたに勝てるレベルになっちゃうかな」


 この世界のレベル上限。

 それは100。

 それを40下げれば、60。

 60ともなれば、クロエでも十分に勝機がある。


「謝るなら今のうちだよ。この結界の中じゃ、貴方はわたしには勝てないよ。だってクロエ。この中だったらなんでもできちゃうだもん」


 透明化。復元。

 そして、レベル下げ。


 内包結界。

 それは、黒魔術師クロエの十八番にして自身を最強へと昇華する特殊な力。


 だがーー


「40か。なら、9959だな」


 そんなアレクの一言で状況は一変。


「えっ? 9959? な、なにを言ってるのかな?」


 戸惑う、クロエ。

 そして、アレクは更に続けた。


「俺のレベルを40下げるんだろ? 9999から40を引けば9959だろ」


 透明化したクロエ。

 その姿をしかと捉え、アレクは頷く。


 そんなアレクの言葉。

 それにクロエは虚勢を張る。


「ななな。なにを言ってるのかな? きゅ、99から40を引けば59だよ。び、びびりすぎて計算もできなくなっちゃったの?」


 一歩、後ずさるクロエ。

 その額には汗が滲む。


「く、クロエを馬鹿にしないでくれる? いいい。いくら、追い詰められているからってさ」


 そんなクロエの声の余韻。


 それが消える瞬間。


「もう喋るな、お前」


 声と共に、アレクは移動。

 そして一瞬で、アレクはクロエの眼前に現れる。


「!?」


「復元で双剣を直し、透明でコソコソ。挙句、レベル下げでマウントをとる」


 ガシっ


 声を発し、同時にクロエの頭を掴むアレク。


「そんな小細工、俺には通用しねぇぞ。さっさとこの結界を解け」


 ギリッ


「いッ、痛い!! はッ、離して」


「潰すぞ? あの双剣使いと同じように」


「解くっ。解く。解くからぁ!!」


 涙目。

 それをもってクロエは吠える。

 その姿。

 そこにはプライドの欠片もない。


 結界を解き、透明化を解くクロエ。

 黒のローブに身を包んだその姿からは隠しきれぬ悪さがにじみ出ていた。


 そんなクロエにアレクは更に言葉を続ける。


「残り二人はどうした?」


「ふ、二人? さ、さぁ」


 ギリッ


「いっ、痛い!! ハウス。ギルドハウスに入っていった!! わたしたちをおとりにして!!」

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