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ギルド潰し②

「って。なにやってんだ、パンドラ」


 少女に跨がられ、頬をぺろぺろされているパンドラ。

 その光景。

 それにアレクは驚く。


「あーぁ。激しくじゃれあって。お前たちいつの間にそんなに仲良くなったんだ?」


 にっこり。

 微笑ましい表情になる、アレク。


「ひ、ひぃぃ」


「ぺろぺろ。ミルクの味がする。支配者なのに味だけはわたし好み」


 パンドラの耳たぶ。

 そこをはむはむと甘噛みし、少女は恍惚とする。

 しかしパンドラの表情は対照的だった。


「たたた。助けて。えええ。餌になっちゃう」


 そしてアレクへと視線を向け、パンドラは更に続ける。


「た、たすけてよ。そ、そんな微笑ましい顔をしてないでさ」


「末長く仲良くしろよ、お前たち」


 にっこり。

 更に微笑ましい表情になる、アレク。


「えっ。ちょっ、なに? ももも。もしかして助ける気ゼロな感じ? いッ、いや!! わたしまだ死にたくーーッ」


「これ。じゃま」


「ひ、ひぃ」


 少女はパンドラの服に噛みつき、引きちぎろうと力を込める。

 それにパンドラは我をも忘れ声を張り上げた。


「ストップッ、すッ、ちょっ。ひぃ、引っ張るなぁ!!」


「がるるる」


「あっ。ヤバい。これ千切れるッ、これ千切れる!!」


 だが、そこでようやく。


「っと。流石に裸にさせるのはまずいな」


 そんなアレクの声と共に、少女はパンドラから引き離される。


「く、くうーん」


 アレクに首根っこを掴まれ、悲しげな鳴き声をあげる少女。


「ご飯ならもっといいもんがあるぞ。一階へ行けばな」


「......」


 アレクの言葉。

 それに大人しくなり、少女はフェンリル状態を解く。


 そしてーー


「パンドラ。ごめん」


 そう謝罪し、少女はペコリと頭を下げる。

 そんな少女に、パンドラは「ぜぇぜぇ」と息を整えながら、一言。


「や、野生の本能は恐ろしい。い、いい勉強になったわ」


「それはよかった。ひとつ成長したな、パンドラ」


「そ、そうね」


「よし。パンドラの成長を記念して、みんなでご飯を食べよう」


「わーい」


「パンドラ。おめでとう」


「よかった。よかった」


 ルリ。マリ。そして人狼の少女

 その三人は嬉しそうに拍手をし、棒読みでパンドラを祝福。


 その光景。

 それにパンドラは、少しだけ頬を赤らめ応える。


「ま、まぁ? これくらい当たり前って感じ? なんたってわたしは、パンドラなんだし? あ、あははは」


 立ち上がり、照れ臭そうにするパンドラ。


「成長こそがわたしの生きがいだし? これからもっともっと成長する予定だから、その辺はよろしくね」


「頼もしいぞ、パンドラ」


「え、えへへへ」


 アレクたちに駆け寄り、輪の中に入るパンドラ。

 その表情はとてもとても嬉しそうだった。


 ~~~


「このギルドか?」


「そう。間違いない」


「へぇ...弱小の割にはいいとこに住んでんじゃん」


「はやく潰そうよぉ。はやく潰して。お金をたくさんもらって。クロエ、遊びたい」


 ジャック。

 リリ。

 シルビア。

 そして、クロエ。


 その四人は今まさに、クレアのギルドハウスを眼前にのぞんでいた。


「今回はどんな方法?」


 召喚士のリリ。

 その無表情の少女は、ジャックに問いかけた。


「メンバーの全滅。悪い噂を流す。拠点ごと更地にする。この前は悪い噂で潰したけど」


「ギルド内にある物。それに難癖をつけて差し押さえるって手もあるよね。ほら、前の前のギルドは有りもしない借金をでっちあげて。ぷぷぷ」


 離散させたギルド。

 そのギルドメンバーたちの寂しそうな表情。

 それを思い出し、シルビアは笑う。


「手っ取り早いのは全滅だよ。私〈クロエ〉の"レベル降下"魔法さえあれば、楽勝楽勝」


 その三人の言葉。

 それにジャックは応えた。


 両腰にさした双剣。

 それを両手で握りしめーー


「全滅に決まってんだろ? それがエリック様の御要望だからな」


 そう声を発し、その顔に邪悪な笑みをたたえながら。


「うん。そうだね」


 リリは頷き、ジャックに同意。


「なら、はやくやろっか。時間。もったいない」


 リリの目。

 そこに宿る混じり気のない殺気。


「全滅。全滅。皆殺し。皆殺し」


「ついでに金目のものも取っちゃおうよ。報酬だけじゃ物足りないしね。きゃははは」


 クロエとシルビアも、リリに続く。

 そんな三人に、ジャックは命を下す。


「いくぞ、お前ら。目標は10分。いや、10分もいらねぇか」


 鼻で笑い、ジャックたちはギルドハウスの玄関へと歩を進める。

 その四人の表情。

 それはまさしく、悪そのものだった。


 ~~~


 コンコン


 響く、扉を叩く音。

 それにアレクは応答する。


「はーい。今、出ますよ」


 カウンターから回り込み、アレクは玄関へと小走りで向かっていく。

 そして、「はい。どちらさまでしょうか?」そう声を発し、扉を開けようとした瞬間。


 バキッ


 勢いよく扉が引っ張られ、扉が破損。

 そして響くは、愉しそうな男の声だった。


「まずは一人目」


「えっ?」


 呆気にとられる、アレク。


 刹那。


「あばよ、雑魚」


 そんな声と共に、ジャックの双剣が凄まじい速さでアレクへと振り下ろされる。


 もらった。


 ジャックは内心でほくそ笑み、悲鳴に彩られた返り血を期待。


 だが、かえってきたのはーー


「なにやってんだ、お前」


 そんな怒気に満ちた声と、パリンッというジャックの御自慢の双剣が砕け散る音だった。


 そして続く、アレクの言葉。


「人様のギルドハウスに来て、扉を壊し。挙句、双剣を突き立てる。何様のつもりだ、お前」


 拳を握り、アレクはジャックを見据える。

 その身から溢れるは、レベル9999のオーラ。


 そのアレクの姿。

 しかし、ジャックはなお退かない。


「少しはやるようだな。こいつはおもしれぇ」


 笑い。

 アレクの胸ぐらを掴む、ジャック。


「表に出ろ。俺たちが全力で相手をしてやる。てめぇも本気でこいよ」


「いいのか?」


「はぁ? なにがだよ」


「俺が全力を出して」


 胸ぐらを掴む、ジャックの手。

 それを握りしめ、アレクは怒りを押し殺す。


 そのアレクに、ジャックは応える。


「出せよ、全力を。はっはっは。まっ、出したところで結果は変わらねぇとは思うがな」


「......」


 無言で、アレクは一歩表に出る。

 ジャックの手。

 それを振り払って。

 

その姿。

 それをカウンターの奥から見つめる、面々。


「助太刀いるかな?」


「大丈夫。だって、アレクだよ」


「だね」


 ルリとマリは頷き合い。


「いきなりなんですか、あのお方たちは」


「ギ、ギルド潰しです」


「ギルド潰し?」


「はい。本部ギルドの息のかかったパーティーです。名目はギルド社会の秩序を乱すギルドに対する制裁。ですが、実体はーー」


「私利私欲の為のパーティー。ということですわね」


 クレアの言わんとすること。

 それを理解し、マリアは頷く。


「ようは悪い奴らってこと? 許せない」


「ぐぬぬ。許せない。はったりかましてやろうかな、わたし」


「で、でも相手が悪いわ。アレクに。レベル9999に、勝てっこない」


 人狼少女とパンドラは許せないという思いを共有し、カレンはレベル9999のアレクの凄まじさを思い出し震えるのみ。


 そんな面々。

 その姿をアレクは仰ぎ見、声を発する。


「すぐに終わる。3分ぐらい待っててくれ」


 笑い。後ろ手を振る、アレク。

 そして、アレクは向かった。


 ギルド潰しのパーティー。

 それを完膚なきまでにたたき潰す為。

 その拳を固め、その身から圧倒的な力のオーラを漂わせながら。

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