レベル9999①
翌日。
アレクは勇者により最弱認定された。
ギルド本部を通じ、全世界に対して。
そしてその日からどこに行っても、アレクは最弱のアレクと小馬鹿にされるようになったのであった。
だがアレクはめげなかった。
その理由はーー
新たに目覚めた力の存在があったからである。
〜〜〜
森の中。
そこにアレクは居た。
どんなモノでもレベル9999。
その言葉の意味は、鍛錬士のアレクにはすぐにわかった。
「レベル9999、か。この世界のレベル上限は100だったよな」
そう呟き。
アレクはこの世界に存在するレベルの概念について思考を巡らせた。
レベル。
それはこの世界の全てのモノに存在する概念のこと。
人は勿論のこと。
装備や道具。果ては自然や建築物にもレベルの概念は存在する。
しかし、そのレベルはほとんどが1。
人であれば経験を積むことであげることができる。
装備も使えば使うほどあげることが可能。
だが、自然や建築物はレベル1固定であげることはできない。
そうアレクは鍛錬士として学んでいた。
しかし、今のアレクにはそんな固定概念を吹き飛ばす力が目覚めた。
それはーー
どんなモノでもレベル9999にする。
という、ある意味で最強の力。
「手始めに俺を9999にしてみるか」
そう声を発し、アレクは己に力を行使。
すると案の定。
アレク(レベル9999)
力を行使にすることに成功する。
「ほ、ほんとにレベル9999になっちまった」
拳を握り、溢れる力に武者震いをするアレク。
この世界のレベル上限は100。
だとするならば、今のアレクはこの世界のどんな存在より強いということなった。
軽く拳を前に突き出す、アレク。
瞬間。
風がドラゴンの形をとり、森の木々を根こそぎ吹き飛ばしてしまう。
こ、これがレベル9999なのか。
感動し、アレクは足元に転がる小石を拾う。
そしてーー
レベル9999になれ。
と、意思を表明。
刹那。
小石は眩い光に包まれ、小石(レベル9999)になってしまう。
それをアレクは軽く投げてみる。
すると、その小石は地面に落ちた瞬間。
ドゴオォンッ
という音と共に大きなクレーターを形成してしまう。
アレクは震え、「よ、よし。とりあえず、街に戻るか」そう声を発し、未だ勇者たちが居るであろう街へと戻ることを決意。
しゃがみ。
立ち幅跳びで戻れるかな。
そう内心で呟き、跳躍。
すると、思った通り。
驚くべき跳躍力。
それをもってアレクはひとっ飛びで街へと飛んでいったのであった。
跳躍し、数分後。
アレクは、街の入り口である門の前に到着。
隕石が衝突したかのような轟音。
それを響かせながら。
案外、はやかったな。
巨大なクレーター。
それをつくり、その中からアレクはゆっくりと姿を現す。
そのアレクの姿。
それに門番たちは目を点にし、口をあんぐりするのみ。
そんな門番たちに、アレクは声をかける。
「レベル12とレベル13の諸君。この街にまだ勇者様は居るかな?」
その声に、門番たちは応える。
ふるふるとその身を震わせながら、こくりこくりと頷いて。
「そうか。ありがと」
アレクは謝意を述べ、門番たちの間を通り抜ける。
その間際。
ぐいっ。
と、クロスされた槍を人差し指と親指で捻り曲げるアレク。
そのアレクの圧倒的なオーラ。
それに、門番たちはその場にへたりこむことしかできなかった。
~~~
「なに、今の音?」
「さぁな。雷でも落ちたんだろ」
「でも、晴れてるよ」
「快晴」
轟いたアレクの着地音。
それに勇者一行は、それぞれの反応を示していた。
そんな勇者一行の前。
そこに、アレクは現れる。
レベル9999。
その圧倒的な力を目覚めさして。
「おい。あれ、アレクだろ」
「ほんとだ。なに? 仕返ししにきたの?」
「ははは。こいつはおもしれぇ」
「やくたたず」
「なにしにきた」
視線の先のアレク。
その昨日、追放した者を小馬鹿にする面々。
「なんだ、アレク。餞別が足らなかったのか?」
ポケットから金貨を取り出す、カイト。
そしてそれを、「ほら、やるよ。乞食のアレクくん」そう声を発し、カイトは放り投げる。
その様に湧き上がる、笑い声。
「最弱だもんな。日銭を稼ぐことも難しいもんな、ははは」
「無様」
「滑稽すぎてお腹が痛い」
だが、その雰囲気をアレクの声が打ち消す。
「レベル9999」
突如、響いたその言葉。
それに、勇者一行は顔を見合わせる。
「レベル9999?」
「なに言ってだ、あいつ」
「鍛錬士のくせにレベルの上限すらーー」
忘れちまったのか。
そう言い終える前に、アレクは軽く足に力を込め駆け出す。
刹那。
ドラゴンの羽ばたき顔負けの突風。
それが勇者一行の前面から吹き抜け、その身を後方へとのけぞらせる。
そして、カイトは聞いた。
己の眼前から。
「レベル9999。それが俺の今のレベルだ」
という、絶望的な声をはっきりと。