ギルド潰し①
人狼。
その少女を保護し、はや3日。
アレクたちギルドの面々は平穏に時を過ごしていた。
「やっぱり平穏が一番ですね、クレアさん」
「そうですね」
ギルドハウスの二階。
そこにある小さなバルコニー。
そこで温かな日の光の下、アレクとクレアは柵に手を載せ街並みを見つめていた。
風に揺れる二人の髪。
そして交わされる、会話。
「クレアさん」
「はい」
「クレアさんはどうして。ギルドマスターになろうと思ったんですか?」
そのアレクの問い。
それにクレアは答えた。
視線を前に固定したまま、なにかを思い出すかのように。
「好きだから。です」
「好きだから。ですか」
「はい。わたし、助けることが大好きなんです。例え、感謝されなくても。有難迷惑だと怒られても。誰か困っている人が居たら、助けてあげたいと思っちゃうんです」
そう声を響かせ、クレアは恥ずかしそうに笑った。
仄かにその頬を桃色に染めながら。
「変ですよね、わたし。自分でもわかっています。でも、好きだから仕方ないです」
「好きだったら仕方ないですね。俺もクレアさんのことが好きだから、こうしてこのギルドハウスを拠点にしているわけですし」
クレアさんのことが好き。
その言葉にどきんっと高鳴る、クレアの胸。
胸を抑え、深呼吸をし。
「ま、また。アレクさんったら」
乙女の表情になる、クレア。
「も、もぅ。好きとかそんなこと言われたら。い、意識しちゃうじゃないですか」
頬を紅潮させ、アレクに視線を向けることさえできないクレア。
その姿は、恋する少女そのもの。
「で、でも。好きだったら仕方ないですね」
「はい。好きなので仕方ないです」
「そ、そのアレクさん」
「はい」
「わたしの。そ、その。どこが好きなんですか?」
「たくさんありすぎてわからないです。優しいところ。料理がうまいところ。ルリ、マリに悪戯されて半ベソをかいているところ。マリアに書類の不備を指摘され泣きそうになっているところ。あ、後。それをパンドラに慰められているところとかも捨てがたいですね」
「あ、あははは。好きってそういう意味の好きなんですね。そうですよね。は、ははは」
乙女の表情。
それがいつものクレアに戻る。
そんなクレアに、アレクは一言。
「そんなクレアさんの全部が。俺は好きですよ。これからもずっと好きだと思うので、いつまでも仲良くしてください」
クレアに笑いかける、アレク。
その表情はやましいことが何一つなく爽やかそのもの。
それにクレアもまた応える。
こちらも満面の笑顔をたたえーー
「はい。こちらこそいつまでも仲良くしてください」
そう返し、嬉しそうな声を響かせた。
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テーブルに置かれた一枚の紙。
それに指を押し付け、男は怒りを押し殺す。
その紙はギルド管理証。
そしてそこには、クレアのギルドが書かれていた。
「このギルドを潰せ。このままじゃ俺の気が収まらない」
本部ギルド。
その豪華な一室。
そこに男の怒りのこもった声が響く。
男の名はエリック。
本部ギルドのギルドマスターであり、古今東西のギルドに顔がきく存在でもある。
そんなエリックの対面。
そこにあるソファー。
そこに座するは、四人のパーティー。
曰く。
「またギルド潰しの依頼か。ふんっ。飽きないな、お前も」
「少しでも気に食わないギルド。それががあったらすぐに依頼を寄越す。だけど、それもまたお仕事。お金の為なら、なんでもやる」
「世の中金が全て。きゃははは」
「そうそう。お金が全て。お金で買えないものなんてなーんにもないんだし」
レベル86。双剣使いのジャック。
レベル78。召喚士のリリ。
レベル75。黒魔術師のクロエ。
レベル80。盗賊のシルビア。
四人全てが高レベルの上級パーティーであり、それぞれが特殊な力をもつ。
それに加え、リーダーであるジャックにはある力が目覚めていた。
それはーー
「まっ。この力があれば俺は誰であろうと負けない。どんな相手でもこの双剣のサビにしてやるよ」
絶対必中。絶対回避。
繰り出した攻撃全てが相手の急所に直撃し、そして相手の攻撃を全て回避する禁忌の力。
「頼もしい言葉だ、ジャック。ははは。では、頼んだぞ。報酬はうんと弾ませるからな」
満足気に笑う、エリック。
そして、「ふんっ。これであのギルドも終わりだ」そう呟き、憎きアレクと格下のクレアの顔を思い出し、エリックは強く強く拳を握りしめた。
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「名前はなんていうの?」
「その耳。かわいいね」
「……っ」
人狼の少女。
その新たな仲間を、ルリとマリは可愛がっていた。
左右の獣耳。
それを両方からツンツンしながら。
場所は物置。
そこには勿論、パンドラも居た。
「ねぇ、人狼さん。知ってる?」
宝箱。
そこから顔を覗かせる、パンドラ。
そしてなぜかその顔はにやけている。
そんなパンドラに意識を向ける、少女。
その少女にパンドラは続けた。
「わたしはここのギルドの支配者なの。だから貴女もわたしには敬語で話してね」
「し、支配者?」
「そうよ。支配者。ふふふ。逆らうと魂を抜いてコレクションにしてやるぞ」
「こッ、こわい!!」
「ふふふ。怖いでしょ? もっと怖がってくれてもいいのだぞ」
口調を変え、ドヤ顔を晒すパンドラ。
そんなパンドラに向け少女は叫ぶ。
「こわいッ、けど!! 支配されるのはいや!!」
叫び、反射的に天狼覇瞳を発動する少女。
刹那。
「わおーん」
フェンリルと化した少女。
それが満身創痍の遠吠えと共にパンドラへと突進。
それに焦る、パンドラ。
「えっ、ちょっ、待って。ストップ!! すとーーっ」
ぷ。
そう言い終える前に。
ガブッ
「ひぃっ」
ズルッ
「あわわわ」
パンドラは少女に噛み付かれ、宝箱の外へと引きずり出される。
そしてーー
「ぐるるる。ぺろぺろ」
「た、食べないでぇ」
少女に跨がられて頬を舐められ、顔面蒼白になるパンドラ。
「ぺろぺろ」
「ひっ。ひぃぃ」
その二人の姿。
それをルリとマリは楽しそうに見つめる。
「はったりをかます相手を間違えた」
「うん。あれこそ自業自得」
言葉を交わし頷き合う、二人。
そんな二人。
それにパンドラは涙目を向ける。
そして、助けを求めようとした瞬間。
ガチャッ
「騒がしいな。みんなでなにやってんだ」
声と共に、アレクが姿を現した。




