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狼少女③

その少女の姿。

それにアレクは追い討ちとばかりに声をかけた。


「よし。次は俺の番だな」


足元に転がる、小枝。

それを笑顔で拾い上げ、アレクは少女を見据える。

その瞳。

そこに、レベル9999の眼光をたたえながら。


瞬間。


「......っ」


少女の身体の震え。

それが止まり、同時に身動きが取れなくなってしまう。

その様。

それはまるで、天敵を目の当たりにし恐怖のあまり固まる弱き被捕食者そのもの。


天狼フェンリル

それは、全ての命あるモノに絶対的な捕食権を持つ抗いようがない天敵。


その力。

その、フェンリルの力を宿した少女がーー


目の前の。

たった一人の男に、絶対的で純粋な畏怖を抱く。


「さっきまでの威勢はどうした?」


変わる、アレクの目つき。


そして、一歩。

アレクは右足を踏み出す。

それに呼応し、大地が揺れる。


「最強。なんだよな、あんた」


二歩。

アレクは左足を踏み出す。

それに倣い、クモの巣のような亀裂がアレクを中心に広がる。


その光景。

その、あり得ないまでの歴然とした力の差。


もはや少女に戦意などない。

あるのは、一刻もはやくここから逃げたいという忌避の思いのみ。


「てんろうはどう。だったか?」


響くアレクの声。


「フェンリルの力をその身に宿し。全ての命あるモノの天敵になりうる禁忌の力」


「ぃ、…っ」


更に震える、少女。


その眼前。

そこでアレクは足を止め、少女を見下ろす。

そして小枝を掲げ、アレクは言い放った。


「ハンデなんていらねぇよ、犬っころ」


声の余韻。

それと共に振り払われる、小枝。


刹那。


無数のドラゴンのカタチをした暴風。

それが、木々を砂を大地を岩を。

根こそぎ、吹き飛ばす。

他方もなく巨大な雷鳴。

それに似た轟音を遥か彼方にまで響かせながら。


そして後に残ったのは。


「犬っころ、全力で来い。本物の天敵ってやつを見せてやる」


そう声を発し、小枝の先で少女を指し示すアレクと。

言葉さえ発せず。

その場で震え固まる、少女の姿のみ。


周囲は更地。

そして少女がハンデと称した遮蔽物。

それはなにもない。


「どうした。こないならこっちから行くぞ」


めきっ。

はしる、亀裂。


そして。


「ひぃっぐ。う、ぅぇぇん」


泣き出す、少女。


「こわいっ。人間。こわいっ。ひっぐ。勝てっこないよ。ひっぐ。ひっぐ」


蹲り、少女は号泣。

その姿。

それにアレクも演技を解く。


「っと。人間の怖さってやつがわかったか? 最強はわたし。だとか粋がっていると。狩られるぞ、人間共に」


「ふぇぇん」


「あんたの思っている以上に人間は厄介だ。いくらフェンリルの力を借りたとしてもな。世界に害ある存在だと判断されればどんな手を使ってでもあんたを狩ろうとする。レベルもそんなに高くないしな」


蹲り、泣きじゃくる少女。

その前。

そこに片膝をつき、アレクは少女の震える背を優しく撫でる。


「最初に喧嘩を売った相手が俺でよかった。この世界にはハンターと呼ばれる獣人キラーも居るからな」


「ひっぐ。ひっぐ」


「よしよし。こんなにちっちゃいのに、禁忌の力なんかに目覚めちまって」


「ふぇぇん」


「行くあてはあるのか?」


少女に語りかける、アレク。

その目はとても温かい。

少女は涙目を向け、アレクに応えた。


上目遣いで。

首をちいさく横に振って。


それにアレクは頷く。


「なら、うちにこい。保護してやる」


こくり。

少女はちいさく、遠慮気味に頷く。


こうして、少女はアレクに保護されることになったのであった。

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