パンドラ
パンドラ。
その怯え切った魔物を引き連れ、アレクたちは迷宮から帰還を果たす。
パンドラの入った大きな宝箱。
アレクはそれを肩に担ぎ、満足気な表情をたたえながら。
「よっと」
ドシンッ
入り口で待機していた、クレアとルリ、マリ。
その前にパンドラを置き、アレクは「ふぅ」と一息をつく。
その姿に目を丸くする三人。
「た、宝箱?」
「そ、それにしてもーー」
「お、大きいですね」
驚き戸惑う、面々。
そんな三人に、アレクは「パンドラだ」と声をあげ笑顔を向けた。
そしてーー
「それにしてもなかなか重かったな。何キロぐらいあるんだ、これ」
そのアレクの問い。
それに、マリアは答える。
「今まで行方不明になった冒険家の数。そして、パンドラ自身の重さ。それを足したものが宝箱の重さかと思われます」
「そうか。どうりで重いわけだ」
頷き、アレクは宝箱を開ける。
ギィッ
「出てこい、パンドラ。外に出たぞ」
覗きこみ、声を発するアレク。
それにパンドラは反応を返す。
「ひ、ひぃぃ」
宝箱の遥か底。
そこで体を震わせ、蹲るパンドラ。
「ひぃぃ。じゃないだろ!!」
無限収納の空間。
その広く深い宝箱の中。
そこに響く、アレクの大声。
「魂を奪った人たちを元に戻すって約束だろ!! 約束は守ってくれ!!」
「ままま。守る!!」
涙目でアレクを仰ぎ見、パンドラは動揺。
そして恐る恐る立ち上がり、アレクを一瞥。
「あの。そ、そのぉ。一度にたくさんは無理だから1人ずつでもいいでしょうか?」
お伺いを立てる、パンドラ。
その表情。
それは悪戯をし飼い主に叱られるペットそのもの。
そんなパンドラに、アレクは声を返す。
「たくさんって何人くらいだ? 十人くらいか?」
「えええ。えっーと、その。数えたことはないのですが、ざっと千人くらいですかね? えへへへ」
「えへへへ。ってお前、笑える人数じゃないだろ」
僅かに怒る、アレク。
それにパンドラは三度、焦る。
「すすす、すみません!! お、思いの外。はったりに引っかかる人間が多く、ついはりきっちゃって。えへへへ」
「で。その千人ぐらいを何日かけて元に戻すんだ?」
「は、はい。だいたい1000日ぐらい。かな?」
にっこり。
額に汗を滲ませ、引きつった笑みをたたえるパンドラ。
1000日。
その響いた単語を聞き、アレク以外の四人も宝箱の中に顔を覗かせる。
そしてーー
「千日。どうなさいますか、アレク様」
「本部ギルドに引き渡すのも手だよ」
「うん。はったりを言わせないように口を塞げばただの銀髪少女になっちゃうしね」
「うーんっと。ギルドハウスにはまだ使っていない物置がありますので置き場所には困らないです」
マリア。ルリ。マリ。クレア。
その四人の言葉。
それにアレクは少し考え、声を返した。
「そうだな。ギルドハウスにパンドラを置いて、千人を元通りにするまで睨みをきかせるのが一番いい方法だと俺は思う」
そのアレクの言葉。
それに四人は頷く。
「そうだね」
「パンドラがどんな方法を使ってでもはったりをかます可能性もあるし」
「では、物置のお掃除をしておきますね」
「よろしくお願いします、クレアさん」
こうして、パンドラがギルドハウスの物置に迎えられることになったのであった。




