迷宮探索③
アレクの力技による正面突破。
それをもって最奥であろう荘厳な扉の前に到着した面々。
その扉は見るからに頑丈そうな石扉。
鍵穴。
それがあることから察するに、鍵がなければ開かない仕様のようだ。
「鍵がいるのか」
「そのようですわね」
「しまったな。あの分かれ道のどこかに鍵があったのか」
やっちまった。
そんな風に声を漏らす、アレク。
だがその表情は余裕に満ちている。
「どうなさいましょうか、アレク様。今一度道を引き返し、鍵をお探しにーー」
なりましょうか?
そうマリアが言い終える前に、アレクは声を響かせた。
「仕方ない。ノックしてみよう」
「えっ。の、ノック?」
思わず声を上げる、カレン。
それにアレクは応える。
「誰か居るかもしれないからな。粗相のないようにしないと」
「は、はぁ」
さすが、レベル9999。
考えることも常人のソレではない。
「えーっ、こほん」
アレクは改まり、扉に向き直る。
そしてーー
軽く、ノックをした。
刹那。
バキッ!!
石扉が吹き飛び、あたりに破片が飛び散る。
もはや驚かない、マリアとカレン。
「レベル9999なら当然ですわ」
「う、うん。そうだね」
「よーし。最奥に到着だ」
二人の反応。
それを気にせず、アレクは最奥であろう場所へと足を踏み入れた。
果たして、その最奥にはーー
「よ、よくぞきた。あの多重結界の施された石扉を鍵もなく壊してくるとはな。さ、さすがだ」
そう言って誇らしげに笑う、一人の銀髪少女が居た。
大きな宝箱。
その中から顔だけを覗かせて。
「もしかしてあんたがお宝か?」
「だとしたらどうするつもりだ? 一戦交えようと言うのなら、受けて立ってやっても構わないぞ」
「そうだな。クエスト達成には証拠が必要だからな」
アレクは頷き、少女の挑発を受けとる。
しかし、少女は鼻で笑う。
「ふんっ、えらい自信だな。 腕に自信があるのか?」
「自信ならあるぞ。俺は誰にも負ける気がしないからな」
「ほ、ほぉ。楽しみだ」
「よし。こっちの準備は万端だぞ」
屈伸をし、少女を見つめるアレク。
そしてその身から圧倒的なオーラをたぎらせ、アレクはポキポキと拳を鳴らす。
そのアレクの姿。
それに少女は焦る。
「ほ、ほんとにやるのか? 言っておくがわたしのレベルは99だぞ」
「レベル99か。カイトより強いんだな、あんた。まっ、それでも。俺のレベルより9900低いけどな」
「そ、そうだ。わたしはあの勇者よりーー」
そこで少女は言葉に詰まる。
そして、視線の先に立つアレクという名の男を凝視した。
俺のレベルより9900低い。
9900低い。
9900。ひ、低い?
はったりをかまし。それを信じ怯えた相手の魂を奪う力。
それが、少女の力。
これまでも幾多の冒険家にはったりをかまし、魂を奪ってきた。
そしてその身体は無限収納の宝箱の中にコレクションとして保存。
ほんとのレベルは90。
だが、勇者以外でこのレベルを超える人間は存在しない。
その為、パンドラは事なきを得ていた。
だがーー
「アレク様。あの者はパンドラという名の魔物。魂を奪う厄介な相手ですわ」
「そりゃ厄介だ。なら手加減はなしだな」
声の余韻。
それが消える前に、アレクはパンドラの眼前に現れる。
それはまるで瞬間移動をしたかのようだった。
「ひ、ひぃ」
「よっと」
パンドラのちいさな頭。
それを掴み、アレクはパンドラを宝箱から引きずり出す。
ズルッ
べちゃ。
「ご、ご、ご慈悲を」
涙目で怯える、パンドラ。
そのパンドラを見下ろし、アレクは声を響かせる。
「元に戻せるのか?」
「な、なにをでしょうか?」
「魂を奪った人たちを。元に戻せるのか?」
殺気のこもった、アレク声。
それにパンドラは切羽詰まった表情で返す。
「は、はいぃ。戻せますッ、戻せます!!」
その返答。
それにアレクは頷く。
そしてーー
「よし、これで万事解決だ」
そう声を響かせる、アレク。
その姿。
それにカレンは、「く、クエスト。達成」と呟き。
自分と同じ境遇に置かれたパンドラに、少しだけ同情したのであった。




