迷宮探索②
迷宮探索。
クエストレベルは96。
あらゆる罠が設置され、高レベルの魔物が至るところに潜むという古の迷宮。
その最奥にはすごい宝があるとかないとか。
そんな迷宮の入り口。
その前に、アレクたちは居た。
「ここが入り口か?」
結界が張られた洞窟の穴。
その中を見つめ、アレクは疑問を口にする。
「案外、街の近くにあるんですね。レベル96のクエストだからもうちょっと山奥かと思ってました、俺」
そんなアレクの疑問と感想。
それにクレアは答えた。
「最初はレベル10。くらいだったかな」
「最初は?」
「はい。当初はアレクさんが仰った通り。この立地のせいで大した探索クエストじゃなかったんです」
眼鏡をあげ、更に続けるクレア。
その表情を僅かに曇らせ。なにかを思い出しながら。
「クエストの失敗。それが続いただけならよかったのですが、いつしか行方不明者が出るようになってしまって……それで、クエストレベルがどんどん上がって今に至ります」
紡がれるクレアの言葉。
そしてその後に続く、マリアとルリ、マリの声。
「勇者のところにも依頼がきましたわ。ですがーー」
「断った」
「うん。割りに合わないって言ってた。あるかどうかも分からない最奥のお宝の探索なんてやる価値ないって」
「そうか。まっ、カイトならそう言うだろうな」
カイトの性格。
それを思い出し、アレクは頷く。
そしてーー
「ところで」
そう間を置き、アレクは振り返る。
そのアレクの視線の先。
そこには、小岩の陰に隠れ怯えるカレンの姿があった。
「……っ」
こそっと顔だけ覗かせ、すぐ引っ込める。
その行動を繰りかえすカレン。
それにアレクは手招きをする。
「監視対象がそんなとこに居ちゃダメだろ」
「!?」
「そうだよ」
「カレン。はやくこっちにこないと」
カレンの元。
そこに走り寄り、カレンの震える手を引き戻ってくるルリとマリ。
そんなカレンに、クレアは優しく笑いかける。
「大丈夫ですか? カレンさん」
「は、はい。大丈夫です」
強張った笑顔。
それをたたえる、カレン。
アレクはそのカレンに声をかけた。
「後ろは任せたぞ」
「かかか。かしこまりました」
アレクの言葉。
それに慌てて頷く、カレン。
「クレアさんはここで待っていてください。ルリ、マリ。ここは頼んだぞ」
「うん」
「お任せ」
「気をつけてくださいね。アレクさんにマリアさん、そしてカレンさん」
三人の手のひら。
それを順番に握りしめる、クレア。
その姿。
それに、カレンの緊張が少し和らぐ。
そして、三人は出発した。
迷宮探索へと。
クレアに結界を解いてもらって。
「それじゃ、行ってきますね」
そんな自信に溢れたアレクの言葉とともに。
~~~
洞窟。
その中に入り進み、アレクは一言。
「うーん。暗いな」
「え、えぇ。そうですわね」
「マリア。なにか明るくする魔法もってないか? 俺は大丈夫だが、二人はなにも見えないだろ」
アレクのレベル9999の瞳。
それは暗闇でも全く影響がない。
しかしマリアとカレンは、手に持つランタンの光しか光源がなかった。
「申し訳ありません。わたくし。その、回復以外の魔法は」
「そうか。カレンはどうだ?」
「魔法は……ひとつも使えない」
「だろうな。じゃあ明るくするか」
二人の言葉。
それに頷き、アレクは二人の持つランタンに触れる。
そしてーー
「あらゆるモノをレベル9999にする。それが俺の力だ」
そう呟き、ランタンをレベル9999にする。
ランタン(レベル9999)
それはあらゆる闇を払い、どんな暗闇でも明るく照らす。
瞬間。
「ぐぎゃあ!!」
「ぎぃぃ!?」
そんな叫びと共に、暗闇に潜む魔物たちが蒸発してしまう。
その叫びを聞きながら、アレクは頷く。
「よし。これでスムーズに進めるな」
光に満ちた洞窟内。
それを見渡し、アレクは先に進む。
その背を見つめ、マリアはカレンに声をかける。
「あれがアレク様のお力ですわ。あのお力で勇者も一撃で葬り去ったのです」
「れ……っ。レベル9999」
「えぇ。レベル9999です」
「……っ」
息を飲む、カレン。
やはり、魔物奏者程度の力とは次元が違う。
レベル9999から見れば、自分など赤子以下の存在。
端から勝てるはずなどなかった。
サラマンダーを操り粋がっていた自分が恥ずかしい。
そうやって内心で呟き、カレンは額に汗滲ませる。
そして、そんなカレンにかかるアレクの声。
数歩進んだところで足を止めーー
「っと。分かれ道か」
三つに分かれた道。
その前で、アレクは声を漏らす。
そしてマリアとカレンを仰ぎ見、アレクは声を発した。
「二人共。正しい道はどれだと思う?」
「正しい道。ですか」
声を漏らす、マリア。
「あぁ、そうだ。正しい道を指さしてみてくれ」
「で、では」
マリアは逡巡し、自信なく右の道を指差す。
それにアレクは頷き、カレンにも返答を求める。
「カレン。どこだと思う?」
「えっ……と」
マリアと同じように戸惑いながらも、左の道を指差すカレン。
そんな二人にアレクは笑顔で声を返す。
「右と左か。じゃあ、俺は真ん中だな」
ブォンッ!!
声と共に、突き出されたアレクの拳。
瞬間。
アレクの拳の余韻。そこから巻き起こった衝撃波。
それが、中央の道を轟音と共に突き抜ける。
そして、数秒後。
「よし。右と左。そして中央が合体してひとつの大きな道になったぞ」
ぽっかり空いた大きな一本道。
それを見つめ、アレクは満足気に声を響かせた。
その姿。
それを見つめ、カレンは改めて反省する。
小刻みに身体を震わせながらーー
次元が違う。
どうして自分はあんなに偉そうに粋がっていたのだろう、と。
「~~♪」
鼻歌。
それをしながら先を行くアレクと、その背を追うマリア。
そしてその後にカレンも続く。
大粒の汗。
それで自身の身をぐっしょりと濡らしながら。




