圧倒的強者②
頷き、アレクはカレンの元へと歩み寄る。
二人目の禁忌の力の持ち主。
その素性を確かめる為に。
その光景。
それを村人たちは見つめる。
焼け跡に身を隠し、息を飲みながら。
「くそっ。こ、こんなはずじゃなかったのに」
アレクの足音。
それを聞きながら、カレンは小刻みに身体を震わせる。
この突如として目覚めた力。
これがあれば、自分は上に行けると思った。
魔物を操り、この世界を支配できると思った。
なのに。なのに。
「おい、あんた」
カレンの側。
そのすぐ近くに止まり、アレクは声を発する。
その声。
それにーー
「お、お前。おまえさえ居なきゃ。わ、わたしはこの村を足掛かりに」
アレクを仰ぎ見、歯を食いしばるカレン。
その表情は悔しさで彩られていた。
そんなカレンに、アレクは声を落とす。
「足掛かりに。どうするつもりだったんだ?」
「世界を。全ての人間をわたしの奴隷にーー」
するつもりだった。
そう言い終える前に、カレンは見た。
「奴隷に。なんだ?」
そう声を溢し。
こちらに敵意を向けたアレクの顔。
それをしかと、見てしまった。
抗いようのない力。
遥かな高み。
そこから全てを俯瞰するが如き圧倒的な強者のソレをはっきりと。
「……っ」
言葉を失い、カレンは血の気を引かせる。
もはやカレンにはなかった。
アレクに言葉を返す余裕など一欠片も。
そんなカレンの眼前。
そこに片膝をつく、アレク。
そしてその拳を固め、言葉を続けた。
「で、この村をどうするつもりだ?」
「そ、そ、それは……っ」
「どうするつもりだ? これからの村人たちの生活を。あんたのその野望とやらの為に足掛かりになった、この村を」
「ご……っ。ごめんなさい」
アレクのオーラ。
それに目を潤ませ、カレンは謝罪を述べる。
消え入りそうな声で。懸命に。
だが、アレクはなお続けた。
「謝るのは俺じゃないだろ」
「は……は、はい」
震え、カレンは村人たちのほうへと身体を向ける。
生まれたての子馬のように震えを大きくしながら。
そして、カレンは地に額をつけ謝った。
「ごっ。ごめんなさい。ごめんなさい。わわわ。わたしが悪かったです」
村人たちはしかし、赦さない。
口々にカレンを罵倒し、殺気だつ。
「許せるわけないだろ!!」
「あぁッ、そうだ!!」
「……っ」
怯える、カレン。
その光景。
それにアレクは、声を響かせた。
「皆さん。これで、赦してやってください。おい、ちょっとこっちを向け」
「は、はい」
振り返る、カレン。
刹那。
アレクは拳を振り下ろした。
カレンの涙で濡れた顔面。
そこに目掛け。僅かに軌道を逸らせて。
瞬間。
カレンの顔のすぐ横。
そこに轟音と共にちいさなクレーターができる。
「ーーッ」
口から泡を吹き、カレンは白目を剥き卒倒。
それを見つめ、村人たちも怒りの勢いを無くしてしまう。
アレクはそこで更に声を響かせた。
「このクエストの報酬。それを全部、この村の復興にあててください。この女は然るべきところに、俺が責任をもって突き出しますので」
カレンを片腕で抱え、同意を求めるアレク。
そのアレクの提案。
それに村人たちは受け入れ、皆、頷く。
それを確認し、アレクもまた頷き踵を返す。
そして、サラマンダーの尻尾をもう片方の腕に掴みーー
「ルリ、マリ。お前たちは転移で帰れるな?」
「う、うん」
「帰れます」
そう確認し、「よし。じゃあ、帰るぞ」そう声を残し、街へと跳んでいったのであった。




