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圧倒的強者①

 その頃。

 火山の麓に位置する村では、想像を超える出来事が起こっていた。


 炎竜(サラマンダー)

 その古の竜が突如として村に飛来。


「ーーッ」


 そして、その口から炎を吐き。

 あたりを黒の廃墟にしていっていた。


 力の無い村人たち。

 彼らは皆なにもすることができず、ただ村が蹂躙される様を見つめることしかできなかった。


 そんな村人たち。

 その絶望に落ちた者たちに向け、かけられた声。


「力無き諸君。今日からこの魔物奏者(カレン)様が、この村を支配させてもらう。喜びたまえ」


 その声のした方向。

 そこに、村人たちは視線を向けた。


 その視線の先。


 そこにはーー


「ひれ伏せ、この力の前に。そして崇めよ、このカレンを」


 黒髪をなびかせ、赤の双眸を輝かせる一人の女が立っていた。

 その身に赤のローブを纏い、その表情には隠し切れぬ自信が宿っている。


 そんな女に、村人たちは口々に声を投げかけた。


「おッ、お前がやったのか!?」


「なにが目的なの」


 その声に、カレンは応えた。

 自身の手のひら。

 それを、サラマンダーへと向けながら。


「ここを足掛かりに私は上に行く。この目覚めた力。全ての魔物を意のままに操るーー"魔物奏者"の力をもって」


 カレンの声。

 それに呼応し、サラマンダーは村人たちへと意識を向ける。


 そしてーー


「逆らう者は名乗り出てくれても構わない。その死をもって。その亡骸をもって。わたしの礎にしてやるぞ」


 カレンはそう声を響かせ、「ふんっ」と鼻を鳴らす。


 そのカレンの姿。

 それに村人たちは生気を失い、その場に膝をつくことしかできなかった。


 ~~~


「さて、と。ルリ、マリ。出発するぞ」


「はい」


「かしこまりました」


 ギルドハウス。

 その玄関前。

 そこでアレクはルリとマリを引き連れ、サラマンダーの討伐へと出発しようとしていた。


「マリアさんとクレアさんはお留守番をお願いします」


「はい。かしこまりました」


「お気をつけてくださいね」


 アレクの声。

 それにマリアとクレアは同時に頷く。


 本当は皆、一緒に行きたかったアレク。

 だが、火を吹くサラマンダーを相手にするとなれば思わぬことが起こるかもしれない。

 そう判断し、アレクはクレアをお留守番させることにした。

 マリアはその付き添いとしてのお留守番だ。


 ガチャ


 扉を開け、外に出るアレク。


 そしてーー


「火山。火山の方角。っと」


 そう呟きつつ、アレクは小柄なルリとマリをそれぞれ両脇に抱える。


「あっちだよ」


「うん。あっち」


「おっ。あっちか」


 ルリとマリの助言。

 それを受け、アレクは身体を反転。


 そしてそのまま。


「よっと」


 そんな掛け声とともに、火山の方向へと跳んでいった。

火山。

 その麓に、アレクたちは到着。


 そしてーー


「ふぅ、やっぱり少し暑いな」


「うん」


「火山が近くにあるから」


 そんな会話を交わしつつ、三人はサラマンダーの住う火山へと歩を進める。


「おっ。あそこに村があるぞ」


「ほんとだ」


「ちょっと休憩したいです」


「そうだな。サラマンダー討伐前に少し休憩をしよう」


 マリの願い。

 それに頷く、アレク。


 そして三人は村へと向かっていったのであった。


 その約10分後。

 アレクたちはあたり一面黒焦げになった村へと足を踏み入れた。


「これは。くんくん」


「ただの火事じゃない。魔力の臭いがする」


 ルリとマリは臭いを嗅ぎ、周囲の魔力を感じとる。


 そんな二人にアレクは声をかけた。


「臭いでわかるのか」


「うん。わかる」


「仮にも魔法使いの端くれ。だから」


「へぇ。すごいな、二人とも」


「「貴方ほどではありません」」


「ははは。そりゃそうか」


 そんな和やかな雰囲気。

 それを打ち砕く、大きな咆哮。


「グォーン」


 空中から飛来し、ズシンッとアレクたちの前に降り立つサラマンダー。

 その姿は見る者全てに畏怖を与えるほどに巨大で圧倒的。


 真紅の鱗に緑の瞳。

 揺れる双翼の羽ばたきは、それだけであたりのモノを吹き飛ばす。


「で、でた」


「......っ」


 震える、ルリとマリ。


「おぉ。こりゃ火山に出向く手間が省けたな」


 対照的に、アレクはとても嬉しそう。


 そしてそのサラマンダーの背後。

 そこからもう一つの声が響く。


「こんな時にやってくるなんて。不運にも程があるな、お前たち」


「ん。なんかでてきたぞ」


「お前たちはここになにしにきた?」


 黒髪赤目の女。

 なぜか偉そうな口調に、アレクもまた喧嘩腰になる。


「なにって、サラマンダーの討伐にきただけだ」


「そ、そうだ」


「な、なにか文句でもあるの?」


 アレクの後ろ。

 ルリとマリは、そこに隠れながら声を発する。


 そんな三人に、女は言葉を返す。


「サラマンダーの討伐だと? なら、お前たちもこの魔物奏者カレンの障害ということになるな」


「は?」


「まぁ、それもいいだろう。見せしめにお前たちを灰にしてやればーー」


 良いのだからな。


 そうカレンが言い終える前に、アレクはサラマンダーの元に駆け寄った。

 音を置き去りにし、突風を巻き起こしながら。


 そして。


「!?」


 驚き戸惑うサラマンダー。


 その腹にーー


「討伐証明の為だ」


 そう呟き、拳ではなくデコピンをかます。


 瞬間。


「ーーッ」


 サラマンダーの巨体。

 それが圧倒的な衝撃により後方に吹き飛ばされる。


 そしてそれに巻き込まれ。


「!?」


 カレンもまた、サラマンダーとともに後方に吹っ飛ばされる。


 ベキッバキッ


 ズガァーン!!


 大きな岩。


 そこに激突しーー


 口から泡を吹き。

 白目を剥いて倒れるサラマンダー。


 その後ろで這いつくばり。


「......っ」


 なんとかその場から逃れようとする、カレン。

 その顔に焦燥の汗を滲ませながら。


 それを見つめ、アレクは頷く。


「よし、成功だ。拳を叩き込んだら跡形もなく消滅しちまうからな」


 声を響かせる、アレク。


「さて、と。後はあの禁忌の力持ちおねえさんをどうするかだな」


「捕まえよう」


「つかまえて村のみんなに処遇は任せよう」


「そうだな。だが、俺に考えがある」

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