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やり直したい傲慢令嬢は、自分を殺した王子に二度目の人生で溺愛される  作者: Adria


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魔法陣とイストリアの結界

「アリーチェ。明日から夏季休暇に入るが、其方はカンディアーノ邸には帰らずに、いつものように神殿か?」

「はい。鬼司教から色々教えてもらいたいことがたくさんあるので、夏季休暇中は自宅には帰らずに、神殿で勉強します。ルクレツィオ兄様から、お父様たちにも報告してもらいました」

「なるほど……」


 イヴァーノの言葉に元気良く頷く。

 夏季休暇中は学院に入る前と同様に神殿にこもることができる。だから、とても嬉しいのだ。


 それに、そろそろ本格的に魔法陣を教えてもらいたいのよね。


 学院から下がる馬車の中で期待に胸を膨らませていると、イヴァーノが突然私の額に口付けを落とす。そんな彼の行動に体がびくっと跳ねた。


 え? な、何?


 彼はそんな私の反応を楽しみながら、私を膝の上に座らせる。


「~~~っ! イヴァーノ、何するんですか? おろしてください!」

「アリーチェは寂しくないのか? 学院にいる時のように毎日会えぬのだぞ」

「でも、神殿に会いにきてくだされば……」

「無論会いにはいくが、やはり寂しいのだ」


 イヴァーノはそんなことを言いながら、私の頬に手を滑らせる。そして私の髪を耳にかけた。彼の手の動きの一つ一つに意味を感じて、私の心臓がけたたましく鼓動を打つ。


 顔を真っ赤にして逃げるように俯くと、彼の唇が耳の縁に触れた。


「アリーチェ、また息抜きに散歩をしよう」

「は、はい……楽しみにしています」


 耳元で囁くイヴァーノの艶のある声音と耳にかかる吐息にドキドキしながら、私は何度も頷いた。すると、イヴァーノが私を膝からおろしてくれ、馬車の扉を開く。


「さて、神殿に着いたがどうする、アリーチェ」

「え……?」

「このまま神殿に行くか、それとも私の宮に遊びにくるか……。アリーチェはどうしたい?」

「~~~っ!!」


 イヴァーノの目が意味深にすっと細まる。問いかけられる言葉に全身の血が逆流でもしたかのように、かぁっと熱くなった。


 それって……それって……。


 私が顔を真っ赤にして口をパクパクさせていると、イヴァーノがクスッと笑う。その笑みにハッとした。


「揶揄わないでください! 私、神殿に帰ります!」

「揶揄っているわけではない。ただ、もう少しアリーチェとイチャイチャしたかっただけだ」

「っ! わ、私……。今の触れ合いにだって恥ずかしくてドキドキしてしまうんです。だから、その……王子宮に遊びに行って、イチャイチャなんてしたら、きっと心臓がもちません。壊れてしまいます」


 イヴァーノの袖口を掴んで俯きながら、精一杯の自分の気持ちを吐露すると、彼のあたたかい手が私の頭に触れる。そして、優しく撫でられた。

 おそるおそる顔を上げると、優しく微笑んでいるイヴァーノの視線と絡み合う。



「分かった。時間はたっぷりあるのだから、焦る必要もない。アリーチェの心臓が壊れたりせぬように、ゆっくりと進んでいこう」

「はい……」


 その後、イヴァーノは神殿内にある私の部屋まで送ってくれ、「また会いにくる」と言って帰っていった。去っていく彼の後ろ姿を見ながら、私は熱くなった頬を押さえる。




「アリーチェ。こちらの魔法陣についての本を読んでおきなさい」

「はい」

「明日から本格的に魔法陣の勉強を始める。なので、今日は自室でそれを読みながら、ゆっくり休んでいなさい」

「え? で、でも……」


 イヴァーノと別れたあと、私は制服から神子服に着替え、鬼司教に戻りましたと挨拶をした。が、私の顔がまだ赤かったせいで、魔法陣の本を渡され、執務室を追い出されてしまう。


 体調が悪いわけではなかったんだけれど、どうしよう。


 私は本を抱えたまま、頬を掻いた。


「まあ、いいわ。とりあえず、この本を読んでみよう」


 私は息を吐いて、部屋に戻った。そして机に向かい、本を開く。


 魔法陣の種類は、大まかに五つ。転移と浄化、状態回復と攻撃に、結界だ。古代語を用いるので、現在イストリアでも使える人は少ない。



「この魔法陣は使いみちがなさそう……」


 私は攻撃系の中に、虫を降らせるものを見つけて、その気持ちの悪い魔法陣から視線を逸らした。そして魔法陣の基礎のところを読むことにする。


 えーっと。魔法陣を描く際は、術者の聖別が必要なのね。聖別……ということは、魔法で自分を清めればいいってことよね。

 それから……術を発動させる場合は、己の魔力が陣からはみ出ないことが大前提と……。


「…………」


 私は本から顔を上げて首を傾げた。


 力加減が難しそうね……。

 でも、大きめな魔力でも受け止めてくれる魔法陣を描くことができれば、魔力がはみ出たりしないし、なんの問題もないってことよね?


「えっと……神々の御名と属性を表す記号を書き、火を灯すようなイメージで魔法陣全体に魔力を巡らせる。……火を灯すイメージ。火を灯す……」


 私は本に書かれている言葉を繰り返しながら、頭を抱えた。やっぱり難しい。

 それに、この神々の御名を表す記号というのが、ややこしすぎて覚えられる気がしない。でも、覚えないと魔法陣が扱えないので、死ぬ気で覚えるしかないだろう。


「今日一日ゆっくりさせてもらえるのはラッキーだったかもしれないわ。明日からの勉強のためにも、なんとしてでも今日中にこの記号を覚えよう」


 でも……この記号。古代語のせいか、とても複雑怪奇だわ。

 どれも似通っているし、覚えるのに苦労しそう……。


 そこまで考えて、私はかぶりを振った。

 弱気になっちゃ駄目。私は色々なことを頑張ると決めたのだ。なら、頑張らないと。


 ◆     ◇     ◆


 次の日から、丸一日魔法陣の勉強に時間が費やされた。私が息抜きに執務のお手伝いをしますよと言っても、鬼司教は譲ってはくれない。


 朝から晩まで魔法陣、魔法陣、魔法陣ばかり。夢にまで出てくるくらいだ。



「……鬼司教。私、死にそうです」


 魔法陣の勉強を始めて二週間経ったころ、私は弱音を吐いた。すると、鬼司教がすっと片手をあげる。


 突然人払いをした鬼司教と出ていく神官や神子達を見ながら、キョロキョロする。

 鬼司教はそんな私に手招きして、「ついてきなさい」と言い、タペストリーがかけられている壁の前に立つ。


 え? ここ、ただの壁よね……?


「鬼司教? ここに何かあるんですか?」

「ついて来てみれば分かる」


 鬼司教はそう言って、タペストリーをめくり壁に触れた。その瞬間、魔法陣が浮かび上がり、光りながら廻ったかと思うと、扉が出現する。


 私はその光景に大きく目を見張った。

 この執務室が、鬼司教の自室と繋がっていることは知っていたけれど、まさか隠し部屋まで持っていたなんて。


「ついて来なさい」


 私が扉を見ながら驚いていると、鬼司教が中に入っていったので、私も慌てて中に入る。


「え? 何これ……綺麗……」


 中は辺り一面、星空が広がり、まるで宇宙に投げ出されたような空間だった。そして部屋の中央に旋回する球体と、その球体を囲むように幾重にも魔法陣が浮かび上がっている。


 私はその素晴らしさに息を呑んだ。


「ここはイストリア国の中枢であり、ここを起点に結界が張られている」

「え?」

「そして、いずれは其方が引き継ぐ場所でもある。其方はこの結界を維持するためにも、絶対に魔法陣を扱えるようにならなければならん。そのためにもここをしっかりと目に焼きつけておけ」

「鬼司教……」


 それは……はっきりと自分の目で見て覚悟を決めろということだろうか。

 私は結界の仕組みを見て、心がぐっと引き締まる想いだった。



 進むべき道をはっきりと形で見せてもらったので、もう弱音を吐くことはない。夏季休暇の残りの日程すべてを使って、魔法陣の勉強に励んだ。そのおかげで、転移の魔法陣も扱えるようになった。


 だけれど、結界を張り、維持することのできる魔法陣を扱えるようになるには、まだまだ修行が必要なので、これからも研鑽を積みたいと思う。

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