6.
凪沙の持つ剣が黒い粒子になり、すぐに黒髪黒目の人間に変わった。
「なっ!?」
そいつは凪沙にそっくりだった。
凪沙が血塗れの制服を脱ぎ捨て、しなやかな裸体を惜しげもなく晒す。肌に付着した血や肉片を魔法できれいにした後、何も無い空間から服を取り出して、さっと着替えを済ませた。
「じゃあ僕はこれで。」
『うん。晴くんまたね~』
黒い空間が現れ、そこへ消えていく凪沙を、ニコニコしながら凪沙2号が見送る。この隙に─…
「ヒイッ!!」
途端、気を抜けば息が止まりそうな殺気の奔流があたしに襲いかかってくる。
ガクガク震えるあたしを尻目に、凪沙2号が指を鳴らすと片腕と足が治った。
「な、なんで…」
同じ人外としてあたしを手下にする…とか…?
『そんなの決まってんだろうが』
シャキンと伸びた鋭い爪で、素早く自分自身の身体を制服ごと切り裂き、失神してるジュドの上半身を起こして支えると
『誰か助けて!このままじゃ殿下が死んでしまう!お願い誰か早く来て!』
「え!!!?」
「ぎゃあぁあああ!!」
何故かジュドの腹に手を突っ込んで腸を引き摺り出した。
バンッッッ!!
「殿下!──な、なんだお前は!?」
叫びを聞きつけ飛び込んで来たビルには、溢れそうな内臓を防ぐように押さえる凪沙と、凄惨な室内──それを引き起こしたと思われる化け物──そんな様相に見えた。
『そ、ソイツはハ、ハニカさんです。ハニカさんが突然凶行を……』
「な、…こ、これがハニカだと!?」
『そうです!』
「ビル君違っ…あたしじゃ─」
手を胸の前で組んで言いながら近寄ろうとすると
「来るな!」
ビルの態度から、擬態が解けてることを知る。
ビルがポケットから何かのアイテムを出し床に叩きつけると、けたたましい音が鳴り響く。
やがて大勢の駆ける足音が………………
…………
………
帰って来てすぐバーガー店へ。ハンバーガーを頬張りながらポテトを食べる。
はぁああぁ……うっま……
調味料と食材豊富な世界最高。これで殺人も許される世界ならもっと最高。
死刑になってひとつ利口になった。
罰せられる法律のとこで罰せられることはしたらダメだなって。
捕まるってほんと最悪だよ。好きなこと出来なくなるんだから。
まぁ結果、カラミティと出会い、今の楽しい暮らしが手に入ったから、一回死んどいて良かったのかもしれない。
異世界をくれたカラミティには、いくら感謝しても足りないよ。
お礼ってほどじゃないけど、美食家を気取るカラミティにフォアグラを教えてあげたら感動して、人間牧場を営むための黒髪黒目導入し、近くで品質管理する熱の入れよう。生産から食卓まで頑張る美食家カラミティ先輩。
そんなカラミティさんちの牧場だけど、喉元過ぎればなんとやら──やだね人間て忘れっぽくて。高々数百年くらいですぐ忘れちゃうんだから。あまりにも何のための黒髪黒目なのか忘れて勝手なことするから、自殺願望とか人口削減でも狙ってるのかと思った。
婚約破棄とか言い出して災厄を不機嫌にさせたから、今頃バカ王子の取り巻きの家と、他の貴族家何軒──何軒?言い方合ってるか知らんけど、一族皆殺しで居なくなってるんだろうなぁ。あ~あ、僕が殺りたかったわ。