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4 さらにラジェという謎が増えた

 ラジェと名乗ったその人は、早朝の光の中で浮いて見えた。白い髪と黒い服のコントラストが、とんでもなく森の中で悪目立ちしている。


 彼? それとも彼女? 性別の読みにくい服を着ていて、ハスキーな声でスラっと背も高いし胸もぺたんこなんだけど、ミリアはなんとなく女の子かなと思うことにした。そうでないと、自分の中の何かが減りそうだったので。


「君も予見してここに飛んできたんだね?」

「そう。目的は違う、けれどミリアが鍵」


 話をしていたアルトとラジェの視線がミリアに向く。昨日食べきれなかった固いパンと格闘していたミリアは、びくりと肩を竦ませた。


「な、なに?」

「ミリア。これからよろしく」


 経緯を説明してくれる気のなさそうなラジェの言葉を聞いて、ミリアは困惑をアルトリオに向けた。


「どういうこと?」

「ラジェも俺と同じ法術師で、願いを叶えるためにここにきたらしい。願いを叶えるためには、ミリアと一緒にいる必要があるから、これからよろしくって挨拶してるんだよ」


 どうしよう、アルトの話すアーガル語はネイティブと遜色なく綺麗なので言葉はわかったけど、意味はさっぱり通じない。


「どういう、こと……?」


 ミリアが困惑しきった表情でもう一度同じ質問をすると、アルトは言葉足らずだったと気づいたらしい。ガシガシと頭をかいて説明してくれた。


「ああ、そうか……つまり法術には、瞬間移動、亜空倉庫接続、予見と様々な力があって、ラジェは予見の力を使って、ミリアと会う必要があると思ったからここにきた。この説明でわかるかな?」

「さっきよりは……うん。つまりラジェは、私になにかしてほしいことがあるの?」


 静かに頷くラジェ。しかし詳しく説明してくれる気はないようだ。


「予見でわかることは曖昧で、断片的にイメージが浮かぶというか……まあつまり、直感をより鋭くしたようなものだと思ってくれていい。だからラジェにも説明できないのかもしれない」

「アルトが私を助けてくれたのも、予見をしたから?」

「ご明察。俺も自らの目的のために、ミリアを助ける必要があった」


 ミリアはなんとなくがっかりしたが、同時にアルトが自分を助けてくれる理由がわかってホッとした。


「その目的ってなに? 私はなにをすればいいの?」

「ごめん、国家機密だからね、教えることはできない。ミリアが行きたいと思うところに俺はつきあうよ。それが結局、願いを叶えるために必要なことだからね」


 国家機密!? とんでもない言葉がアルトの口から飛びだした。

 ……つまり二人とも、私に着いてくるのに理由は言えないんだね。なんかもやもやするなあ。だけど、一人で旅をして無事でいられる気がしないし……


 ミリアはアルトとラジェを交互に見つめた。アルトは今のところ、ミリアを積極的に助けてくれているからありがたく着いてきてもらうとして。


「ねえ、ラジェ。これだけはちゃんと答えてほしいのだけど、どうして私の隣で寝ていたの?」


 ラジェは数秒真顔で思考し、ミリアの方を向いた。


「……寒いと思った」

「え、どういう意味? ラジェが寒かったってこと?」

「……」


 ……なんなのこの人、よくわかんない!





 ミリアはラジェのことをチラチラ警戒しながら道を歩いたが、ラジェは素知らぬ顔だった。

 川沿いの木々に囲まれた小道を、無駄話もせず上流に進んでいく。日が傾く頃には、古ぼけた家が数軒並ぶ村に辿りついた。


「今夜は野宿せずにすむかもね。ミリア、君お金は持ってる?」

「あるけど、これで足りる?」


 アルトに金色の硬貨を見せると苦笑される。


「金貨なんて見せたらカモにされるよ。銀色の硬貨二、三枚で十分だ」

「そうなんだ、でもこんな小さい村に宿屋なんてあるかな」

「宿屋はないと思う。こういう時は、寝床をわけてくれそうな人にお金を渡すんだ……ああ、でもちょっと待って」


 村を見渡したアルトは杖を掲げて数秒、首を横に振る。


「やっぱり駄目だ。ここは……」

「ここに泊まる」


  道中全く話をせず、ほとんど一日中口をきかなかったラジェが急にこんなことを言いだしたので、ミリアは目を見張った。

 ラジェの言葉を受けて、アルトは顎に手をやって考える素振りをみせる。


「ラジェ、君の見解ではどうなんだ?」

「必要」

「うーん、そうか……確かにそれも一理あるのか」


 言葉が少なすぎるラジェと何故か通じあうアルトだったが、ミリアにはなんのことだかさっぱりわからない。


「わかった。ここに泊まれるか交渉しようか」

「ちょっと待って、ラジェは必要って言ってたけど、どういう意味なの?」

「んー、ごめんね。上手く説明できない」


 頭を掻いて視線を逸らしたアルトは、しっかりとミリアを見つめなおしてこう言った。


「もしもなにかあったとしても、俺がミリアを守るよ。だから今晩はここに泊まろう?」


 なんとなく不安になる言葉だったが、二人とも意見を変える気はないらしい。一人で飛びだす勇気もないミリアは、渋々村人と交渉することになった。


 最初はアルトに交渉してもらおうと思ったのだけれど。


「俺も時間がなかったから用意が十分にできなくて、あいにくゼネルバ風の衣装しか持ってないんだ。お金もゼネルバのコインだし、俺が行くといらない警戒を招いてしまう。だからミリアにお願いするよ」


 ラジェは他人事みたいにそのやりとりを聞いていた。私と代わってくれる気は……ないよね。


「もしもし、ごめんくださーい……」


 ミリアは、人を泊めるスペースのありそうな大きめの家の戸を叩いた。遠慮がちなそれに返答はなく、もう一度大きな声で問う。


「すみません、誰かいませんか?」

「聞こえてるよ! お前は誰だ、用件を言いな!」


 しわがれた老婆の怒鳴り声が戸の向こう側から聞こえる。ミリアはびくりと後ずさり、けれど勇気を出して言葉を重ねた。


「旅の者です、一晩でいいので寝床を分けてくれませんか。お礼にこちらを差しあげます」


 少しだけ扉を開けた老婆が、手の中のコインを値踏みする。

 続けて顔を上げた老婆は、ミリアとその後ろにいる二人の顔を見て、下手くそな笑顔を作った。


「おやまあ、めんこいお嬢さんだこと。お連れさんもお綺麗で羨ましいねえ。いいよ、一晩だけなら泊めてやる。隣の納屋でよければ使いんさい」

「あ、ありがとうございます!」


 よかった、上手くできた! 嬉しくなってアルトを見上げると、彼も微笑み返してくれた。

 痩せてガリガリの腕にギョッとしながらもコインを渡すと、老婆はそれを奪うようにしてひったくり、バタンと戸を閉めた。ガチャリと音が聞こえて、鍵も閉められたみたいだ。


「閉められちゃった……」

「納屋の鍵は開いているね。埃っぽいけど、なんとか三人寝れそうだよ」


 藁が敷き詰められているスペースと布が積まれている場所があり、組みあわせたら寝床にできそうだった。


「今日は悪いけど俺もお邪魔させてもらうね。入口側の端っこを使うから、反対側の方はミリアが使う? ラジェは?」

「ミリアの隣にする」

「……また抱きついてこないでね?」

「……」

「ねえ、返事して!?」


 ラジェはサッと寝床を整えて寝る体勢に入ってしまう。ミリアはがっくりと膝をつき、アルトはそんなミリアを見て苦笑した。

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