31 女王様、マジでヤバいみたいです
遺跡を出た後、王都の最寄りの町まで移動した。美しい夕暮れの中、ミリアはグレコーに心からのお礼と、追加報酬を渡して別れた。
「お仲間と会えてよかったな嬢ちゃん。めちゃくちゃ心配されてたし、愛されてんな。あいつらにだったら、俺も安心して嬢ちゃんを託せるぜ」
グレコーは片腕を上げて去っていった。とても頼りになるいい人だったなあ。
ミリアが宿の前で手を振り返していると、レイが声をかけてきた。
「なあおい、ミリア」
「なあにレイ……って、さっきからそういえば私の名前呼んでくれてる!?」
「驚くトコそこかよ?」
ハハッと屈託なく笑うレイ。あれ、私にはもっと機嫌悪いっていうか、辛辣っていうか、当たり強かったはずなんだけどな?
「お前、レガ遺跡までアイツ雇って自力で来たんだろ? やるじゃん」
「あ、ありがとう?」
「法術も、俺よりめちゃくちゃ早く使えるようになってるし……信じるってことが、怖くないんだろうな、お前は」
レイはまだ法術の光が見れていないのかな? アルトのことを師匠って呼んでたから、今どうなっているのか後でアルトに聞いてみようっと。
「俺、目ぇ覚めた後、身体もろくに動かねえ中で考えてさ。それで気づいたんだ。強いやつにも色々あるけど、お前はココが強いヤツだったんだなって」
ココ、と心臓の辺りをドンと叩くレイ。やっぱり腕の傷はもう完治しているようだ。
「だからまあ、しゃーねぇから認めてやるよ」
「なにを?」
「いやだから、お前が強いヤツだってことをだよ」
「んー? よくわからないんだけど、つまりレイも私と友達になってくれるってこと?」
「いいぜ? なってやるよ」
「わあっ、やったー!」
なんだかよくわからないけど友達が二人もできた! 今日はみんなとも会えたしいい日だなあ、ご馳走でも食べてお祝いしたい気分!!
話が盛りあがっているミリアとレイを見て、アルトは安心したようにクスッと笑う。
「見送りも終わったし、宿に入ろうか。俺もラジェもお腹が空いてるし、ミリアにも会えたことだし、晩御飯はご馳走にしよう」
「私も同じこと考えてたよアルト、ご馳走食べたいね!」
「本当? 気があうね」
そう言ってアルトは、本当に嬉しそうに笑った。また、その笑顔。ミリアはドキリとしてしまう。
「ミリア、俺も君に後で話したいことがあるんだ。寝る前くらいに時間をもらっていいかな?」
「わかった、私もアルトと話したいこといっぱいあるんだ」
「うん、また後でね」
晩御飯は小さな宿を貸切にして、思う存分ご飯を振る舞ってもらった。フェルも途中で参戦してくれて、庶民的な味と上品な味が交互に出てきて大変に美味しかった。
特にラジェなんて、いつまでも飽きることなくずっと食べ続けていた。フェルはラジェが一番食べるからか、どんどん料理皿をラジェの前に運んでいった。
一通り食べ終わると、真面目な話に移る。ミリアがこれまで何をしていたか伝えた後は、アルト達がどうしていたか話してくれた。
あの後ミリアが消えて、取り乱すラジェとアルトがフェルに怒られたらしい。それで冷静になった頃にレイが起きてきた。
ミリアが連れて行かれた先は王都だったので、予見してもなにが最適か視えず、なかなか今後の方針は決まらなかった。
すぐにでも山を越えて王城に向かいそうなアルトを、ラジェとフェルは引きとめた。
けれどある日突然、レガ遺跡に来ればミリアに会えると予見が出て、その頃には回復していたレイも一緒にレガ遺跡に来たらしい。
きっと私が王都を出たタイミングで予見をした時に、視えたんだろうね。
「レガ遺跡で見つけたことを、ミリアにも話すよ」
そう告げてアルトが取りだしたのは、見覚えのある赤い石のかけら。
「あっ、これ私も持ってるよ」
ミリアも亜空庫から赤法石を取りだすと、アルトとラジェは渋い顔をした。
「王都や王城には、この石がたくさんあるんだね?」
「うん、そうだよ。ところどころ法術が使えないところがあって、私はその合間を縫う様にして逃げてきたの。とてもやり辛くって、時間も生命力もたくさん使っちゃった」
「やっぱりそうか。この石は、本来の法石の作り方とは異なった作り方をされている。この原材料は……人の血だ」
「ひっ、人の血?」
アルトは難しい顔をして腕を組んだ。
「レガ遺跡の痕跡を見るに、あそこで人造法石を作っていたんじゃないかな。特に諸侯が捕らえられた土地を中心に、人攫いが横行しているそうなんだ。だよね? フェル」
「ああ。エルトポルダからの兄上の手紙には、くれぐれも注意しろと忠告があった。諸侯が捕らえられたのも、混乱を引き起こして人を攫いやすくするためだったのかもしれん」
フェルも眉をしかめ同意を示す。アルトは視線を下げ、声のトーンを落とす。やるせない気持ちが伝わってくるような声だった。
「もう女王には理性なんて残っていない。使いたいだけ法術を使うために、彼女は人の生命力を奪いとっていたんだ」
「止めなきゃ。差し違えてでも」
ラジェが思い詰めた顔でそんなことを口にしたので、ミリアは慌てて止めた。
「差し違えてでもなんて、そんな悲しいこと言わないでラジェ!」
「でももう、そうするしかない。私達がリリエルシアに勝てる手段は、私には思いつけない。命を捨てても止められない可能性もある」
視野が狭くなっているラジェを、アルトはやんわりと止めた。
「ラジェ、君の気持ちはわかるけれど、その結論は時期尚早だよ。まずは女王を止めて、かつみんなで生き残れるような方法を考えよう」
アルトはフッと息を吐くと、眉を下げて肩をすくめる。
「とは言っても……正直どうすればいいかなんて、俺にもわからないんだけどね。向こうは無尽蔵に法術を使える上に、騎士と王城の守りがある」
考えれば考えるほど、女王様を止めることなんて無理なような気がしてくる……どうしたらいいの、お母様……
ミリアが胸元のペンダントを握りしめると、ハッと思い当たることがあった。
「女王様、私のペンダントが鍵って言ってた。それに、発動条件が揃っていないって。私を捕らえた時に取りあげることができたはずなのに、それをしなかったのは……私がこのペンダントを持っていることが、発動条件のひとつなのかな?」
アルトは片眉を上げて反応し、ラジェはパッと顔を上げてミリアを見た。
「俺達はミリアが女王を止める鍵だと思ってここまで来たけど、女王はこのペンダントを鍵だと言ったんだ?」
「うん」
「見せて」
ラジェにペンダントを渡すと、瞳を光らせた後に首を振られる。
「……予見してもわからない。まだ解放もできない」
「発動条件もわからない? 俺にも見せて」
アルトも杖を取りだして予見してみたが、残念そうにため息を吐いた。
「駄目だね。法石に予見を使えないのはわかっていたことだけど。やっぱり実験……いや、もし変な影響が出たら困るか」
アルトは不穏なことを口にしながらも、諦めてミリアにペンダントを返してくれた。
「発動条件を探しながら時を待つしかない」
ラジェは沈んだ声でそう告げる。アルトもそれに同意した。
「そうだね。ミリア、お母さんからなにか聞いてない?」
「私、お母様のことはほとんど覚えていないから……あ、でも」
ミリアはアルトとはじめて会った日に、母の夢を見たことを思いだした。あの時お母様はなんて言っていたんだっけ?
……ダメだ、その後のショックとか旅の記憶とかが濃すぎて、思い出せないよ。
「ごめん、なにか思いだしたら伝えるね」
結局いい案は出ないまま、会はお開きになった。




