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24 束の間の平和

 ミリアは集中力が途切れてしまったので、椅子に腰かけて脱力した。


「難しいよ……予見は瞬時にできるようになったけど、その後時間がかかりすぎて全然ダメ」

「まだはじめたばかりだし、そんなに焦らないで。いったん亜空庫発現を練習する方がいいかもよ? こっちの方が簡単だし、予見の次に練習するなら亜空庫の方がオススメだ」


 アルトがそう言いながら亜空庫からフルーツを取りだし、ミリアにお裾分けしてくれた。


「ありがとう。うーん、瞬間移動ができた方が、いざという時ちょっとは戦力になれるんじゃないかと思ったんだけど」


 ミリアはもらった果実を一粒枝からとって摘まむ。普通はこんなに気軽に大量に果物を持ち歩けたりはしないから、亜空庫ももちろん発現させられるようにはなりたい。絶対便利だよね。


「それはそうかもしれないけど、いきなりなんでもできるようにはなれないからね。一つづつできることを増やしていこう」

「わかった、だったら今日は亜空庫の練習をしてみる」


 ミリアが亜空庫発現のコツを掴むのは早かった。昼すぎには果実一粒程度の小さなものなら、作った亜空庫に取りこんだり出したりができるようになった。


「やったあ! これで重たいお金を持ち歩かなくてすむよ!」

「おめでとうミリア、本当にすごいよ。俺より才能あるかも」


 アルトは満面の笑みで拍手をしながら、ミリアのことを褒めたたえた。


「そんな、えへへ、それは褒めすぎだよ」

「いや、本当に。法術は最初の一回ができるかできないかが大きいから。一度できたら、次からはどんどんできるようになるよ。最終的にはラジェのベッドくらい大きなものも出し入れできるようになる」

「すごいなあ、そうなったらなにも荷物を持たなくても旅ができちゃうね」

「不自然だから少しは持ってた方がいいけどね。ラジェみたいに手ぶらだと変に注目を浴びやすいよ」

「あはは、それはそうかも」


 ミリアは早速自分のお金を亜空庫に収納してみた。まだ開けられるスペースが小さいので、一個入れては次のを入れて、とやっていくしかない。

 コイン大の隙間を開けてはちまちま、ちまちまとコインを詰めていくと、三分くらいかけてやっと全部のお金を入れることができた。


「うう、使い辛い」

「出すときはいっぺんにだせるよ。コインなら食材と違って床に落としても痛まないし、ちょっと雑に出しても大丈夫」

「えーと、出す時は……こうかな?」


 亜空庫のものを出しきるイメージで下に向けて空間を開くと、中からコインがジャラジャラと雪崩のように出てきた。

 こんなにいらないと思って止めようとしたが、亜空庫の口の止め方が咄嗟にわからなかったので、せっかく入れたお金が全部出てきてしまった。


「あー……また一から入れなおさなきゃ」

「ははは、練習だと思ってがんばって」


 ミリアは肩を落としながら、またちまちまとコインを詰めた。出し方は要練習だね。

 最後に入りそうだからと姉から預かったエメラルドの指輪を詰めたところで、フェルが顔を出した。


「なんだ、ここにいたのか。ミリア嬢、昼食を作ったのだが食べないか?」

「フェル、作ってくれたの? 食べたい!」

「いつもありがとう、今日はなにをつくったのかな?」

「お前には言っておらんのだが……まあいい。せいぜい俺に感謝しながら食べるといい」


 なんだかんだ言いながらもアルトの分の食事もしっかり用意してくれるフェル。最初の頃より打ち解けてるなあと嬉しく思いながら、ミリアも美味しい食事を頂いた。


 その後煮崩したスープを抱えたフェルは、レイの元に出向いた。ロディオ神父がめざとくスープを見てフェルに問う。


「フェリックス様、それは病人用のスープですか? もちろん私の分は別にあるんですよね?」

「世話になっているから一応はな。お前の分はキッチンに置いてある」

「ありがとうございます。お礼といってはなんですが、午後は村民に向けて説法をする予定なんです。フェリックス様もいかがです?」

「いらん! 全然礼になっていないぞ!?」

「まあまあまあ、一度だけでもお聞きになって下さいよ。私の説法は感動的だと村でも評判なんです。涙を流してありがたがる方もいるんですよ?」

「今の一言でむしろ絶対に聞きたくなくなったぞ!? お前は村民相手に一体なんの話をしているんだ」

「おや、気になります? ではどうぞ、一番前の特等席をご案内しますよ」

「だからいらんと言っているだろう!!」


 フェルはロディオ神父に絡まれながら、なんとか引き剥がしてレイの寝かされている部屋に避難していた。

 ミリアとアルトはその様子を見て、ロディオに見つからないようにこそこそと建物から抜けだした。





 建物の外は昼間でもとても寒かった。落ち葉が積もった裸の木が点在する森は、すっかり冬の様相だ。ミリアは持ってきていたマフラーをキュッと首に巻いた。


 アルトが思いだし笑いでもしているのか、肩を揺らしている。


「ロディオ神父、強かな人だね。法誉教会の教徒だなんて言った時はどうするのかと思ったけど、あのよく回る舌で色々な人を煙に巻いてきたんだろうね」

「確かにあの人ならどこにいても誰とでも仲良くなれそうだね。いいなあ」

「ミリアも素直でかわいい性格をしてるし、わりと誰とでも上手くやっていけるタイプだと思うけど?」


 ミリアはブンブンと手を横に振った。


「全然そんなことないよ? あわない人だってもちろんいるし、レイだってそうだもの」

「それはみんなそうだよ。気にすることないんじゃない?」

「まあ、そうだよね。みんなと仲良くなれたら嬉しいけれど、なかなかそうはいかないもんね」

「俺は心を許せる誰かと仲良くいられたらそれでいいかな。例えばミリアとか」

「えっ?」


 ミリアがアルトの顔をふり仰ぐと、アルトは若草色の瞳に優しい色を浮かべて、ミリアにまっすぐに視線を注いでいた。


「ミリアはとっても頑張り屋さんだし、そばにいると元気づけられるよ。俺が飛んできた先にいたのがミリアで、本当によかった」

「そ、そんな褒められちゃうと照れるなあ。私、みんなに守られてばかりだし、余計なことして怪我させちゃったりもしたし……だから、私にできることをしているだけだよ?」


 アルトの柔らかな視線がなんだか恥ずかしくて、直視できない。

 急にどうしたのアルト、嬉しいけど照れちゃって、どんな顔をすればいいかわからないよ?


 アルトはミリアににこりと微笑みかけると、手を差しだした。


「少し歩こうか」


 ミリアはドキドキしながらもその手をとる。繋いだ手は寒さを忘れるくらい温かかった。

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