表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/37

2 緊急事態

 エスメラルダお姉様は怪訝な表情をしながらも部屋の中を見回す。一通り見回ると、キッと猫のように目を吊り上げた。


「誰もいないじゃないミリアージュ! こんな時にふざけないで!!」

「えぇっ?」


 パッと壁の方を見るが、そこに先程までいた背の高いシルエットはどこにも見当たらない。

 そんな、この部屋に隠れられるところなんてないはず……?


 部屋の中を探すため背を向けようとしたが、エスメラルダに肩を掴まれ阻止される。


「聞きなさいミリア! お父様とお兄様は、王立騎士団によって捕らえられたの。これから王都に連れていかれる。なぜか知らないけど、ミリアのことも探されているわ」

「な、なんで私? それに、なぜお父様とお兄様は捕まったの!?」


 お姉様は力無く首を振った。わからないってこと?


「今マルセロが情報をまとめているわ。とにかく、貴女は見つからないようにここから逃げるのよ」

「マルセロお兄様は無事なの? お姉様はどうするの?」

「マルセロは大丈夫。貴女が無事に逃げられるようにと、これを預かってきたわ」


 ジャラリと音がする重い袋を手渡される。簡素な麻袋に入れるには不相応なくらい、たくさんのコインが入っていた。

 そして、一振りの短剣。刃物なんて小さなナイフくらいしか使ったことのないミリアは、おっかなびっくりしながらそれを受けとる。


「私はこれから荷物をまとめて、婚約者の元に逃げる。貴女も連れていきたかったけれど……私達こんなに似てるんだもの。連れていったら貴女の居所がすぐにバレるわ」

「似ている? お姉様の方が断然綺麗だと思うけど」

「そんなことないわよ」


 だってお姉様の方が髪が黄金色に輝いていて、瞳だって美しいエメラルドで、身体つきだって女性らしくて素敵なのに。

 ミリアが現実逃避のようにそんなことを考えていると、エスメラルダは綺麗な顔をクシャリと泣きそうに歪める。そしてミリアージュを強く抱きしめた。


「力になれなくてごめんなさい。せめてこれを持っていって路銀にでもして。貴女の無事を祈っているわ」

「姉様……」


 コロリと手のひらに転がされたのは、姉のお気に入りのエメラルドの指輪だった。いつも姉が身につけていた覚えがある。

 こんな大事な物を私に預け、あまつさえ売ってしまえだなんて。ミリアはじわじわと、状況が深刻であることを実感しはじめた。


 エスメラルダはミリアの強張った体を少しの間抱擁し、離れた。エメラルドの瞳は決意に満ちていた。


「さあ、直ぐに荷物をまとめて。ここにはもう戻ってこれないかもしれないから、そのつもりでね。お母様のペンダントは持ってる?」

「あるよ! ここに」


 ミリアが胸元でギュッと手を握ると、エスメラルダは頷き、固いながらも微笑んでみせた。


「それなら大丈夫よ。きっとお母様がミリアのことを守ってくれるわ。私はマルセロを手伝って、ミリアの居場所がバレないよう時間を稼いでくる。荷造りをしたら裏口からこっそり出るのよ、わかった?」


 早口で必要なことを告げる姉に対して、ミリアは咄嗟に返事ができなかった。あまりにも想定外な出来事に、開いた口からははくはく(・・・・)と空気だけが漏れでていく。


「ミリア、ミリアージュ、しっかりして! 大丈夫よ、また会える! 私の結婚式には間にあわないかもしれないけど、また家族みんなで会える日がくる。そう信じて。いい? 絶対よ!!」


 エスメラルダは最後にミリアをもう一度抱きしめて、早足でミリアの部屋を出ていく。扉が閉められ足音が遠ざかり、たちまち部屋は静寂に満ちた。


「……支度、しなきゃ」


 ミリアはのろのろと動きはじめる。お兄様達もお姉様も、お父様も私を助けてくれない。ここから逃げるとしたら、体力のないカーツァも連れていけない。私一人で、どうにかしないと。


 なにがなんだかわからないながらも、川で泳いだり山に遊びにいく時に着る服を鞄に詰めていく。なにかの役に立ちそうと思ってシーツも詰めこむ。


 コインの入った袋と短剣、お姉様の指輪も忘れずに入れる。それから、できるだけ地味な藍色のワンピースに着替えた。


「裏口から逃げろって、お姉様は言ってた……」


 ちょうどミリアの部屋の窓から、屋敷の裏庭が見渡せた。そっと下を窺うと、王立騎士団のマントを身につけた騎士が裏口付近を彷徨(うろつ)いているのが見えた。


「どうしよう、逃げられないよ」

「ミリア、そろそろ支度はすんだ?」

「わっ!?」


 音も無く空中からアルトリアが現れた。軽やかにミリアの部屋に降り立った彼は、ミリアに手を差しだす。


「行こう。俺と行けば女王の騎士から逃れられるよ」


 それが救いの手なのか、それとも敵の罠なのか、ミリアにはわからなかった。わからなかったけれど、ミリアは縋れるものがほしかった。

 だから、迷って、躊躇(ちゅうちょ)して、それでも差しだされた手を取った。

 アルトリオはホッとしたように笑うと、ミリアの手を強く握る。


「飛ぶよ、手を離さないでね」

「きゃっ!」


 風がミリアの髪を乱す。咄嗟に目をつむり、次に目を開けた時には、ミリアは外に立っていた。

お読みいただきありがとうございます!

なろうでは一日一話投稿していきますが、続きが気になる! という方はアルファポリスで先行配信しておりますので、そちらもよろしければお願いします^ ^

もし面白いと思ったら投票して頂けると更に嬉しいです!

https://www.alphapolis.co.jp/novel/469125988/731589767


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ